本場インドに挑む!“日本カレー”

本場インドに挑む!“日本カレー”
カレーの本場、インド。そのインドに、日本の大手カレーチェーン店が初めて出店しました。提供するのは、長年、日本で培ってきた味。果たしてインドの人たちにどう受け止められるのでしょうか。(ニューデリー支局カメラマン 森下晶)

本場に初出店

「イラッシャイマセ!」
インド人スタッフの元気なあいさつが響くのは、日本の大手カレーチェーン「CoCo壱番屋」のインド1号店です。首都ニューデリーから車で40分ほど。商業施設やオフィスが建ち並ぶエリアに、8月、オープンしました。気になるカレーの味は、基本的に日本の店舗で提供されているものと同じです。
「インドのカレーと違うけど、最高においしいよ」
「すしは苦手だけど、日本のカレーはいいね!」
「レシピを教えてくれたら家でも作りたいわ」
インド人客に話を聞くと、前向きな受け止めが多く聞かれました。日本のカレーを抵抗なくおいしそうに食べる様子には、少し驚きも感じました。

独自に進化、日本のカレー

そもそもインドなどでは、古くからスパイスをたっぷり使って野菜などを煮込む料理が人々の間で食べられてきました。地域によって違いはありますが、私たちが一般的に知るカレーというのがこの料理のことです。

その料理が、18世紀ごろ、インドを統治していたイギリスに伝わって「curry」と呼ばれるようになり、明治時代に日本に入ってきました。戦後、日本ではカレールーも開発されて一般家庭でも広く作られるようになり、いわば国民食の一つとして定着してきました。

“悲願”のインド進出

「日本のカレーで本場に挑みたい」
それは、大手チェーンにとって悲願だったといいます。

1978年に愛知県に1号店を出して以来、40年余り。店舗網は欧米やアジアも含めて国内外に1400店を超えています。本場インドへの進出のタイミングは10年余り探っていましたが、このところの経済発展で道路などのインフラや商業施設が整備されてきたことに加え、日本を訪れたインド人が、自社のカレーをおいしいと言ったという評判を聞いたことなどから、今回の出店に至りました。
中村広佐COO
「13億を超える人々がカレーを食べているこのインドは、私たちにとって大きな市場価値があります。そして、インドで生まれたカレーが形を変えて日本に伝わり、広まっているという文化も紹介したいと思っています」

独特の食習慣に対応

インド出店にあたって、最も大事なカレーソースは日本から運んでいます。好みの辛さを選べるようにするなど、日本で培ってきたサービスも持ち込みました。
一方で、インド独特の食習慣への対応は重要な課題でした。

人口のおよそ8割を占めるヒンドゥー教徒は牛肉を食べず、その次に多いイスラム教徒は豚肉を食べません。さらに、肉そのものを食べないベジタリアンも全体の3割にのぼるとされています。

そこで、カレーソースは肉のエキスが一切入っていないものを使用。キッチンも、ベジタリアン向け専用の調理エリアを設けるなど工夫を凝らしました。
メニューにはインド人になじみ深い食材を取り入れようと、現地で試行錯誤を重ねました。その結果、現地でよく食べられているチーズ「パニール」や、主食のパンの一つ「パラータ」など、“ご当地メニュー”を複数取り入れることになりました。

気になる価格は、日本円でおよそ480円から900円ほど。中間層をターゲットにし、一般的な現地のカレーに比べると少し高めの値段になっています。

突如見舞われたコロナ禍

当初、予定していたオープンは、3月下旬。くしくもその頃、インドでも新型コロナウイルスの感染者が増え始めました。政府が全土を一斉に封鎖し、厳しい外出制限を実施。このため、出店準備はほとんど止まってしまいました。

およそ3か月後に、本格的な準備を再開できたものの、感染を防ぐ対策を取る必要もあり、作業は思うように進みませんでした。多くの日本人が一時帰国を余儀なくされ、かつ、日本からの応援も来られなくなる中、現場責任者の中村さんは、ひとり現地にとどまってスタッフの指導などに当たりました。
中村広佐COO
「感染対策はしっかりしたうえで、絶対にオープンさせ、私たちのカレーを食べてほしいと思っていました。将来は、日本のカレーがインドの食生活の一部として定着していく姿を見たいです」

定着なるか

8月3日のオープンから数週間。新型コロナウイルス対策で座席数を減らすなど、手探りでのスタートになりましたが、徐々に口コミで評判は広まり、常連客もでき始めているといいます。
「インドのカレーはスパイスと油をたっぷり使うのでカロリーが高いが、私にとってこのカレーはヘルシーだ」

私が話を聞いた客からは、近年インドで高まる健康志向を反映した声も聞かれ、“日本カレー”の可能性を感じました。
新型コロナウイルスの感染が収まらず、外食産業を含め、経済に大きなダメージを受けているインド。“日本カレー”の定着に向けた奮闘が、日本とインド、双方にとって明るいニュースになることを期待したいと思います。
ニューデリー支局カメラマン
森下 晶
平成14年入局
長崎局、広島局、映像センター、大阪局などを経て、
現在、インドを中心に南アジアの取材を担当