支局長が解説! ベラルーシで何が? 大統領が“強権”って?

支局長が解説! ベラルーシで何が? 大統領が“強権”って?
「ベラルーシ」。最近のニュースで、この国の名前を耳にした人も多いのではないでしょうか。「大統領が“独裁者”と呼ばれている」なんてことも聞くけれど…そもそも何が起きてるの?どうしてこうなってるの?
取材にあたっているモスクワ支局の松尾寛支局長が解説します。

ベラルーシって?

ベラルーシはロシアとヨーロッパに挟まれた場所にある国です。

旧ソビエトの国で、1991年のソビエト崩壊に伴って、今の独立国になりました。

日本の半分ほどの国土に、およそ940万人が暮らしています。かつて日本では「白ロシア」とも呼ばれていたため、この名前のほうがなじみがあるという人も少なくないかもしれません。
そのベラルーシを四半世紀にわたって治めてきたのが、欧米メディアから“ヨーロッパ最後の独裁者”とも呼ばれる、アレクサンドル・ルカシェンコ大統領です。

8月9日に行われた大統領選挙で6回目の当選を決めたと発表されましたが、これに国民が猛抗議。EU=ヨーロッパ連合も「不正な選挙だ」と制裁を科すなど、厳しい目を注いでいます。

しかし、ルカシェンコ氏は「私が勝者だ。私は倒れない」と強気の姿勢を崩していません。

“現職圧勝”の選挙で 何が起きたの?

「開票結果の改ざんを求められた」
「最終集計の時は出て行くよう言われた」

今回のベラルーシ大統領選挙では「不正があった」とする告発が後を絶ちません。

首都ミンスクにある地区の開票所で選挙事務の責任者を務めた男性が、実名でメディアにこう証言しています。
男性
「ルカシェンコ大統領が負けていたが、開票終了後に地区の行政トップが『結果を変えるという難しい提案をさせてほしい』と依頼してきた」
この地区の行政トップの発言だとする音声まで公開され、大きな波紋を呼んでいます。
選挙管理委員会は、ルカシェンコ大統領が8割の得票で圧勝し、対立候補は1割にとどまったと発表しました。

しかし、この発表に対して投票直後から不満が噴出し、市民が抗議活動に次々と参加します。
市民の抗議活動に対して、政権側の治安部隊は激しく応戦、死傷者が出る事態にもなりました。

治安部隊に拘束された人は、一時およそ7000人にも上りました。警察官にいかにひどい扱いを受けたかと話す人も相次ぎ、体のあちこちに青あざができた姿が、世界中のメディアで取り上げられました。
国際社会からも欧米各国を中心に、政権側によるこうした市民に対する人権侵害に非難が集まっています。

「私たちは、羊ではない」声は意外なところから

街頭で大規模な抗議活動が起こることは、ある程度予想ができましたが、この動きは意外なところにも広がりを見せました。

それが、国営企業です。ベラルーシ経済の原動力であり、旧ソビエト型の管理経済を維持したいルカシェンコ大統領にとっては、まさに「象徴」とも言える場所でした。

石油精製、自動車、地下鉄…、ルカシェンコ体制を支え続けてきた、こうした企業の労働者たちが、一斉に反旗を翻したのです。
その1つが、ベラルーシの国営放送局。これまでルカシェンコ大統領の政策を積極的に、もちろん、好意的に伝えてきました。

そんな放送局でも、8月中旬にストライキが行われたのです。
娯楽番組の司会をしていたというピトレワさんは、NHKの取材に対して、ストライキには300人以上が参加したことを明かし、中には動画投稿サイトで真実を発信したいと退職を考えているジャーナリストも多いと話してくれました。

カメラマンたちも「検閲を廃止しろ」と政権側への抗議文を上層部に提出。

こうした労働者たちは職場を飛び出して、町の中心部に集結した市民たちと合流し、抗議活動はさらに拡大していきました。
彼らが掲げる構断幕には「私たちは、羊ではない」などと書かれています。

ルカシェンコ大統領による厳しい管理下で自由を奪われた労働者や、真実を伝えたいという魂をへし折られ続けてきたジャーナリストたちの声が町じゅうに響き渡りました。

“出て行け、ルカシェンコ!”

こうした中で、あるシーンが、世界中のメディアで取り上げられました。
抗議活動が広がる中で、首都ミンスクにあるトラック工場を訪問したルカシェンコ大統領。

まさにみずからのおひざ元で、労働者たちをたしなめるつもりでしたが、集まった労働者からあがったのは、「出て行け!」というシュプレヒコールでした。

それを聞いたルカシェンコ大統領、「まさか、こんなはずでは」と驚くような表情を見せます。
「自分はここまで支持されていないのか――」そんな厳しい現実を、初めて突きつけられたかのようでした。

大統領は「勝手にしろ」と捨てぜりふを吐き、会場を後にするしかありませんでしたが、“独裁者”とも呼ばれた大統領の権威が失墜したことをまざまざと見せつけられた、象徴的なシーンでした。

大統領に挑んだ 2児の母

こうした抗議活動を呼びかけているのが、スベトラーナ・チハノフスカヤ氏です。

2児の母親でもあるチハノフスカヤ氏は、拘束されて立候補できなくなった夫の代わりに、みずから選挙戦に挑みました。

半年後に夫なども参加できる公正な選挙を実現させようという公約を掲げて、ルカシェンコ体制に不満を持つ国民から熱狂的な支持を集めました。
チハノフスカヤ氏は現在、身の安全を確保するため、隣国リトアニアに活動拠点を移し、ベラルーシの人たちに「抗議の声をあげ続けよう」と発言を続けています。

そして国際社会に向けてもアピールを続けています。EUの首脳に宛てて、選挙のやり直しに向けた支援を要請したり、国連の安全保障理事会で政権側による市民への弾圧の問題を取り上げてほしいと求めたりしています。

“対話”はできるのか

チハノフスカヤ氏たちが目指すのは、選挙をやり直し、政権を交代させることです。

一方的に政権を奪うのではなく、ルカシェンコ大統領にも選挙に参加してもらって、公正に闘おうと訴えているのです。

こうしたシナリオを話し合うためにも、まずは政権側に“対話”をしようと呼びかけているのですが…
ルカシェンコ大統領
「他人のリズムなんかで踊れない」
こう述べて、対話には応じないという姿勢を崩していません。
加えて、反政権派への圧力も一段と強めています。

反政権派が政権交代をにらんで新たに結成した「調整評議会」という組織についても、「何を調整しようというのだ。国の権力を奪い国の安全を壊そうとしている」と、みずからの息のかかった検察庁に捜査を命じ、メンバーの事情聴取にも乗り出しました。

ストライキを行う国営企業の経営側にも圧力をかけ続け、ある国営企業ではストライキに参加した従業員の入館証を奪い取って出勤できないようにしたうえで、その後任にOBの従業員を呼び戻すという措置にまで出ています。広がり続けるストライキを骨抜きにする戦略で、ルカシェンコ大統領は反政権の動きをとことん弱体化させようと躍起になっています。

これからどうなるの? 鍵を握るのはロシア

事態打開のシナリオをどう描くか?それを探るのに欠かせないのが、ロシアの存在です。
旧ソビエトのベラルーシは、ロシアと政治的にも経済的にも密接につながっています。最大の貿易相手国でもあり、民族的にも近い両国。ロシアはそんな「兄弟国」の情勢を、世界のどの国よりも注視しています。

実はベラルーシとロシアの間では、1999年に連合国家を設立するための条約が結ばれています。ロシアのプーチン大統領はこれに基づいて、単一通貨の導入など、経済分野を中心とした統合に向けて、ルカシェンコ大統領と長年にわたって協議を重ねてきました。

プーチン大統領にとっては、統合を進めることでロシアの影響力を維持、強化することが何よりも大事です。そしてその限りでは、相手はルカシェンコ大統領でも、別の「親ロシア」の政治家でもいいと考えているかもしれません。
プーチン大統領が気にしているのは、ベラルーシ情勢に関わろうとする欧米の動きでしょう。

EUやOSCE=ヨーロッパ安全保障協力機構は、政権側と反政権派の対話に向けた仲介に関わる準備があるとしています。

アメリカ政府の高官もリトアニアを訪れてチハノフスカヤ氏と面会するなど、存在感を見せつけています。
ベラルーシの国民は基本的には親ロシアではありますが、最近は若者を中心にEU志向の考え方を持つ国民も増加傾向にあるという調査結果もあります。

プーチン大統領が忌み嫌うのは、ロシアの勢力圏に対する欧米の介入。ことベラルーシにおいては、それを断じて容認することはできません。

プーチン大統領は欧米の動きに目を光らせながら、ロシアが主導して、どう道筋を付けられるのかー。さまざまな策を巡らせているに違いないでしょう。
モスクワ支局長
松尾寛
ネットワーク報道部 記者
國仲真一郎