コロナ感染者への差別や中傷しないで 文科省が緊急メッセージ

コロナ感染者への差別や中傷しないで 文科省が緊急メッセージ
新型コロナウイルスに感染した人への差別や中傷が後を絶たないことから、文部科学省は子どもや教職員、それに地域住民に対し、差別につながる言動を行ったり同調したりしないよう呼びかける緊急のメッセージを25日発出しました。
文部科学省は、学校現場でも新型コロナウイルスの感染が確認される中、一部の地域で感染者や家族が差別されたり、クラスターが発生した学校が中傷されたりする事態が起きているとして、25日全国の教育委員会などに大臣名で緊急のメッセージを発出しました。
この中では、
▽児童生徒や学生に対し、感染した人や症状のある人を責めるのではなく励まし、温かく迎えること、
▽教職員に対しては子どもたちが誤った認識や不確かな情報に惑わされず、科学的根拠に基づいて行動できるよう指導することを求めています。
そして、保護者や地域住民に対しては、
▽感染者への差別や偏見、誹謗中傷などを許さないこと、
▽感染した個人や学校を特定して非難するなど、周囲で差別につながる言動があった時は同調せず、やめるよう声を上げてほしいと呼びかけています。

いずれに対しても、感染を責める雰囲気が広がれば受診の遅れや感染を隠すことにつながりかねず、感染の拡大につながると訴えています。

文部科学省では、被害にあった際の相談窓口も合わせて周知し、今後は、差別や偏見を防ぐための啓発用の動画も提供していくことにしています。

萩生田文科相 “新型コロナ 差別など防止の取り組み進める”

萩生田文部科学大臣は、閣議のあとの記者会見で「新型コロナウイルスには誰もが感染する可能性があり、感染した人が悪いということではない。悪いという雰囲気ができて、感染したことを言いだしにくくなると、さらに感染が広がってしまうかもしれない。差別に対する取り組みは、政府全体で進める必要があり、文部科学省としても関係省庁としっかり連携し、差別などの防止の取り組みを引き続き進めていきたい」と述べました。

学校でも 差別や中傷 不当な扱いも

全国の学校現場でも新型コロナウイルスの感染者の集団、クラスターが発生し、差別や中傷、不当な扱いを受けるケースも出ています。

松江市の私立高校では、今月、寮の生徒を中心にクラスターが発生し、その後、生徒が写った部活動の写真がインターネット上で拡散され、非難するようなコメントが書き込まれているものもあるということです。

島根県は写真の無断転載が確認されたサイトについて、生徒たちの人権が侵害されているおそれがあるとして、法務局に通報し調査を要請しています。

また、奈良県の大学では、ラグビー部で発生した集団感染に関連し、ラグビー部ではない学生が教育実習を予定していた学校から受け入れを断られたほか、アルバイト先から出勤を見合わせるよう求められた事例があり、大学と地元の自治体が不当な扱いだとして冷静な対応を呼びかけました。

差別や中傷なくす取り組み始まる

全国の学校現場でも差別や中傷などをなくそうと、さまざまな取り組みが始まっています。

福岡県古賀市の花見小学校では、新型コロナウイルスの感染者や医療従事者への差別や偏見をなくそうという思いを、リボンで表現する「シトラスリボン運動」を取り入れています。

愛媛県で始まったことから愛媛特産の柑橘をイメージしたシトラスカラーが特徴で、子どもたちがリボンを手作りし、みずから付けたり、地域の住民などに配布したりしています。

大住奈留美校長は「学校ではこれまでに感染は確認されていませんが、コロナにおびえて、伏し目がちで子どもらしい笑顔のない状態の子もいて心配になって始めました。差別や偏見をしない心を育みたいです」と話しています。

差別や偏見、誹謗中傷から子どもたちを守ろうという取り組みも始まっています。

三重県教育委員会では、ことし5月から新型コロナウイルスに関連して学校や子どもたちを中傷したり攻撃したりするインターネット上の投稿などがないか、専門の業者に委託してチェックしています。

平日は毎日確認し、不適切な書き込みがあれば削除などを求めるということで、これまでに特定の地域名をあげて人権を侵害するような投稿があり削除を求めたということです。

三重県教育委員会は「すべてチェックすることは限界もあるが、少しでも子どもたちを守っていきたい」としています。

小中学校の教諭対象に講座も

新型コロナウイルスに感染した子どもに対する差別やいじめを防ごうと、東京 西東京市で小中学校の教諭を対象にした、授業で使える新型コロナとの“つきあい方”を学ぶ講座が開かれました。

この講座には、市内の27の公立の小中学校の教諭が参加し、まず、講師の日本赤十字社東京都支部の職員が新型コロナの捉え方について、「病気」「不安」「差別」を「3つの顔」としてあげ、病気が不安を呼び、不安が差別を生み、差別が病院への受診をためらわせて、さらに病気を拡散させるという流れで、周りに“感染”していくと説明しました。

そして、これらを防いで新型コロナと“つきあう”ために「病気」には、手洗いや、せきエチケットを徹底すること、「不安」には、あらゆる情報を仕入れようとしすぎずに、親しい人との交流を避けないこと、「差別」には、感染した人やその周りの人に『大変だね、あなたは悪くないよ』といった、ねぎらいの気持ちを持つ工夫が必要だという行動例を紹介しました。

さらに講師は、子どもが感染した際には、「みんな待っているよ」というメッセージを伝え、クラスで手伝えることや応援できることはないかを、全員で考えてその子を迎える準備をすることが大事だと強調していました。

参加した碧山小学校の小泉深之教諭は講義を受けて、言葉にできない互いの不安を教員が言葉にして説明することで、生徒や児童が相手の気持ちを考えられるように指導していきたいと、考えるようになったといいます。

小泉教諭は「今後、生徒が感染したらクラスをどう導けばいいか正直不安でしたが、どうすれば感染した子が安心して登校できるかみんなで考え、あたたかく迎えられるような差別のない学校を作っていきたい」と話していました。

日本赤十字東京都支部の藤崎香奈恵さんは「先生にとっても未知のウイルスとのつきあい方は難しいと思いますが、子どもにとってはなおさら難しく、差別やいじめはいつおきてもおかしくありません。きょうの教材はホームページにもあげているので、皆さんに活用してもらいたいです」と話していました。