宿泊料金5万円を境に明暗分かれる施設 Go Toトラベル 1か月

宿泊料金5万円を境に明暗分かれる施設 Go Toトラベル 1か月
政府による観光需要の喚起策、「Go Toトラベル」が始まって、22日で1か月になります。「Go Toトラベル」をめぐっては、開始の直前になって、感染者が増加していた東京都が対象から外されたうえ、これに伴うキャンセル料の扱いの方針も転換され、消費者と事業者の双方に混乱が生じる事態となりました。また、今月に入って沖縄県をはじめ、各地で感染者が増加し、自治体の中には、帰省などを控えるよう呼びかける動きが広がりました。この一か月の各地の動向をまとめました。

高価格帯の施設で利用増か

「Go Toトラベル」が始まってからの宿泊施設の需要動向を調べたところ、宿泊料金が高い施設の利用が増えている傾向がうかがえます。

旅行関連の検索サービスを手がける「atta」は、全国3万余りのホテルや旅館を対象に宿泊料金のデータを収集し、需要の動向を分析しています。

具体的には、実際にチェックインする50日前の料金を100%として、チェックイン前日の料金が上がっていれば、空き室が少なく需要が高い、下がっていれば、空き室が多く需要が低迷していると判断します。

そして、宿泊料金によって1万円未満、1万円以上3万円未満、3万円以上5万円未満、5万円以上の4つに分類して、需要の動向を分析しました。

その結果、「Go Toトラベル」が始まる直前の土曜日、先月18日にチェックインしたデータでは、価格帯ごとに大きな差は見られませんでした。

一方、今月15日にチェックインしたデータでは、5万円未満の施設では、前日の価格が50日前の90%台にまで落ちていたのに対し、5万円以上の施設では、118%まで上昇していて、需要が伸びたことがうかがえます。

さらに、4連休の初日に当たる来月19日にチェックインするデータでも、5万円以上の施設だけ、チェックインの日が近づくにつれ、価格が上昇していて、料金が高い施設の利用が増えている傾向がうかがえます。
「atta」の春山佳久社長は「GoToトラベルで一定額が還元されるので、消費者は今まで宿泊したことのない、高価格帯のところに泊まっているのではないか。一方で、価格帯の安い施設は苦戦している状況が見てとれる」と話していて、補助を活用してふだんより少しぜいたくな体験を楽しもうという人が多いのではないかとみています。

キャンペーン効果を実感 和歌山 白浜町

関西有数の観光地、和歌山県白浜町ではお盆の期間中、1泊、5万円以上もする高価格帯の旅館やホテルなども満室となり、地元ではキャンペーンの効果を実感しています。

関西の人気のビーチリゾート、白浜町の白良浜海水浴場では今月8日から16日までの9日間に訪れた海水浴客はおよそ8万人で、町によりますと例年の7割ほどだったということです。

また、NHKが町内の宿泊施設に取材したところお盆期間中はほぼ満室の状態だったということで、ことしの特徴として特に高価格帯の部屋に人気が集まったということです。

このうち、町内にある旅館の「紀州・白浜温泉むさし」ではお盆の時期はほぼ満室の状態で、旅館で最もグレードの高い美しい浜が一望できる1泊、5万円の部屋も連日予約で埋まっていたということです。
旅館のおかみの沼田弘美さんは「ことしの夏はGo Toの影響で宿泊費の負担が減ったため高い部屋から予約が埋まっていきました。去年と比べるとお客様は減ってはいますが、これからも感染症対策をしっかりと行ってお客様を迎え入れたい」と話していました。

三重 鳥羽の老舗旅館 お盆の期間中は満室に

三重県鳥羽市の老舗旅館では、お盆の期間中は満室になるなど、効果を実感しています。

伊勢神宮の参拝者などが宿泊する鳥羽市の老舗旅館「戸田家」では、「Go Toトラベル」が始まってから、愛知県や大阪府など近隣の府県を中心に個人客の予約が増えているということです。

今月12日から15日には169ある部屋が満室になったということで、21日も次々と客が訪れていました。

例年、多くの団体客が訪れる秋については、予約があまり入っていないということで、今後、「Go Toトラベル」の活用に加え、県内の小中学校の修学旅行の受け入れなどでしのぎたいとしています。

大阪府富田林市から訪れた56歳の女性は、「2、3万円は戻ってくるのでお得だと思います。奮発してグレードの高い部屋に泊まることにしました」と話していました。

戸田家の寺田順三郎社長は「Go Toトラベルには観光や宿泊業の下支えをしてもらって非常にありがたいと感じています」と話していました。

需要伸び悩む低価格帯のホテル

Go Toトラベルのあとも、需要が伸び悩んでいるのが低価格帯のホテルです。宿泊客を呼び込もうという模索が続いています。

茨城県坂東市にある「ホテルグリーンコア坂東」は、宿泊料が1人1泊6000円台からと比較的、低価格の料金を設定しています。

仕事の出張のほか、近くのゴルフ場やサーキット場に行く需要で、去年の8月は、客室の稼働率が65%に上っていました。

ことしはGo Toトラベルに加え、茨城県が独自に行っている1泊当たり最大5000円の割引制度にも参加していますが、それでも今月の稼働率は45%にとどまっています。

ホテルでは、宿泊客に安心してもらい、集客につなげようと、ユニークな感染防止対策に取り組んでいます。

すべての宿泊客に渡している「おすぼうさん」と名付けたハンコのような形をした棒は、エレベーターやドリンクバーなどのボタンを直接、触れないで押すための道具です。

宿泊客からは好評で中には購入して帰る人もいるということです。

また、地元の観光資源を掘り起こし、新たな宿泊の需要を生み出そうという取り組みも進めています。

坂東市は、平安時代の豪族、平将門が関東一帯を支配する拠点とした地域で、ホテルの徒歩圏内にあるゆかりの史跡を紹介する手製のガイドマップをつけた宿泊プランを新たに設けました。

今は宿泊客に自分で回ってもらっていますが、今後、市と協力して、地元のボランティアのガイドを紹介できるようにする計画です。
ホテルの運営会社の金子祐子社長は「理不尽で泣きたくなるような時もありますが、下を向いてばかりはいられないので、試行錯誤を繰り返すしかない。スタッフと一緒に前を向いていきたい」と話しています。

東京“除外”の影響 新潟県のリゾートホテルは

新潟県にあるリゾートホテルでは、期待していた「Go Toトラベル」のキャンペーンから東京が除外された影響もあり、長期間の休業を決めました。

新潟県湯沢町にある「苗場プリンスホテル」は、収容人数3600人、冬は首都圏を中心にスキー客が訪れ、近年は外国人の宿泊客が増えていました。

夏は国内最大級のロックの祭典「フジロックフェスティバル」の宿泊客も大勢泊まる、地域の観光産業を代表するリゾートホテルです。

しかし、ことしは新型コロナウイルスの影響で4月中旬から先月下旬まで休業しました。

先月23日に営業を再開した際は、受付に仕切り板を設置し、手すりやエレベーターのボタンなどを1時間に1回、消毒。

大勢の人が集まる場所での食事は避けたいという要望に応えるため、家族やグループだけで食事ができるプランを用意するなど、感染症対策を徹底してきました。

しかし、最も期待していた長岡の花火大会や「フジロックフェスティバル」がことしは開催されず、宿泊の予約が激減しました。

さらに、東京を中心に首都圏からの利用客が6割を占めるこのホテルでは、「Go Toトラベル」の割り引きの対象から東京が除外されたことも影響して7月末時点で、営業再開から12月までの予約が去年と比べて9割減少しました。

収容人数が多く、人件費や光熱費などを考えると、十分な収益を見込めないことから、ホテルは今月16日から12月24日まで臨時休業することを決め、150人いる従業員の一部はグループの別のホテルなどで勤務することになりました。
支配人の竹鼻宏治さんは「お客様をはじめ、ホテルに携わる関係者にはご迷惑をおかけしますが、1日でも早く決断をしてお知らせしました。冬にスキーやスノーボードでお越しになった方に満足いただくために、この期間にしっかり準備し、営業を再開したいと考えています」と話しています。

東京“除外”の影響 “避暑地” 軽井沢は

毎年夏、大勢の観光客でにぎわう長野県軽井沢町では、新型コロナウイルスの影響で例年の夏に比べると観光客が減っています。
「GoToトラベル」の対象から東京が除外されたことも影響していると見られています。

このうち、多くの飲食店や商店が並ぶ旧軽井沢銀座通りには、21日も観光客が訪れていましたが、例年の8月に比べると少ないということです。

通りの近くにある「旧軽井沢ホテル音羽ノ森」の鈴木健夫社長は「1年でも稼ぎどきの8月ですが、宿泊客は例年より5割ほど減っています。軽井沢は東京からのお客様が多いので『Go Toキャンペーン』から東京が除外されることが発表されてから、東京のお客様のキャンセルや問い合わせが増えました。秋も、紅葉など観光シーズンなのでお客様が来てくれることを期待しているので、東京の除外がいつはずれるのか気になります」と話していました。

合宿受け入れ施設 “効果期待できず”

山梨県富士河口湖町で大人数の学生の合宿を受け入れている宿泊施設でも「Go Toトラベル」の事業の効果は期待できず、苦しい経営が続いています。

富士河口湖町観光連盟によりますと、河口湖周辺にはホテルや民宿などおよそ140の宿泊施設があり、高校生や大学生の部活動やサークルの合宿を受け入れているところも少なくありません。

このうち、町内で40年余り営業している「合唱の家おおば」は、施設内にピアノや音楽ホールがあるため首都圏の大学の合唱サークルを中心に多くの合宿を受け入れてきましたが、新型コロナウイルスの感染が拡大したことし3月以降、予約のキャンセルが相次いでいます。

今月1日、「Go Toトラベル」に事業者として登録しましたが、毎年、予約してくれている高校や大学の部活動やサークルが3密が起こりやすいとしてことしは合宿を取りやめたため、去年は23件あった7月から9月までの予約はことしはわずか2件にとどまっています。

少人数の個人客の受け入れも検討しましたが、光熱費などの経費を考えると赤字になるため打つ手がない状況が続いているということです。
「合唱の家おおば」の大庭茂さんは「Go Toトラベルはうちみたいな宿にはあまり効果がないと思います。合宿が再開されるのは通常の部活動などが再開したあとのいちばん最後だと思うので、まだまだ厳しい状況が続くと思います」と話していました。

Go Toトラベルの経緯は

「Go Toトラベル」は、新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ消費を喚起するための「GoToキャンペーン」のうち、宿泊施設や土産物店、交通機関など観光分野を支援する事業です。

旅行代金を割り引く形や、観光施設や土産物店、飲食店や交通機関などで使えるクーポンを発行する形で1泊当たり最大2万円分の補助を受けられます。

政府は、このうち、旅行代金の割り引きを夏の観光シーズンに間に合わせるため、先月22日に始めることを決めました。

しかし、都内で感染者が再び増え始めたことを受けて、都内を目的地とする旅行と都内に住む人の旅行を、割り引きの対象から外しました。

今後、東京を割り引きの対象に加える時期について、政府は、感染状況を慎重に見極めて決めるとしています。

また、割り引きをあてこんだ予約のキャンセル料について、政府は当初、補償しない方針を示していました。

しかし、反発の声が広がる中、事業スタートの前日の21日になって、一転して国が補償する方針を打ち出しました。

混乱の中で始まった「Go Toトラベル」には、大きな打撃を受けている観光業を支える役割を評価する声がある一方、感染を各地に広げる一因になったのではないかという指摘もあります。

参加登録 旅行会社の約6割 宿泊施設のほぼ5割

観光庁のまとめによりますと、「Go Toトラベル」の割り引きの対象には、今月20日の時点で旅行会社が5984、宿泊施設が1万6703、合わせて2万2687の事業者が参加登録をしています。

これは、旅行会社のおよそ6割、宿泊施設のほぼ5割に当たり、今後も各地で説明会を開くなどして参加を呼びかけていくとしています。

観光庁は、参加する事業者に対し、感染防止対策の徹底を求めていて取り組みが不十分な場合は、登録を取り消すとしています。

岩手 感染拡大警戒して登録申請しない宿泊施設も

「Go Toトラベル」で、岩手県内では20日の時点で217の宿泊施設が事業者として登録していますが、なかには、新型コロナウイルスの感染拡大を警戒して登録を申請していない施設もあります。

三陸沿岸の景勝地にある岩手県田野畑村にある民宿、『白花しゃくなげ荘』は緊急事態宣言が出された4月から5月にかけて客の受け入れを自主的に取りやめたこともあり、4月の売り上げは例年に比べて9割ほど減りました。

その後、売り上げは回復しつつあるものの今も例年の半分に満たない状況が続いています。

この民宿にも「Go Toトラベル」の申請書類が届きましたが、全国各地から客が来ることで感染拡大のおそれが高まることを心配し、登録しないことにしました。

客から問い合わせがあった場合には、登録しない意図を丁寧に説明して理解を求めているということです。

泡淵正社長(69)は「経営を考えると多くの人に来てほしいが、感染の怖さも大きく、苦渋の決断だ。感染対策に気をつけながら近隣の観光客を中心にした受け入れから始めるのがいいのではないか」と話していました。

観光庁長官「近距離中心に堅調」

観光庁の蒲生篤実長官は記者会見で、近場の旅行を中心に一定程度、利用されているという認識を示しました。

この中で、蒲生長官は「利用実績は集計が整いしだい、改めて報告したいが、一部の旅行会社からのヒアリングによると、地域によって若干のばらつきがあるものの、近距離を中心に予約状況は堅調だと聞いている」と述べ、近場の旅行を中心に、一定程度、利用されているという認識を示しました。

また、割り引き対象の宿泊施設に、新型コロナウイルスの感染者が宿泊していたケースがこれまでに10の施設で、合わせて10人確認されたものの、施設内で感染が拡大したケースはないことを明らかにし、「観光需要の喚起と感染症対策の両立はおおむね図られていると思う」と述べました。

一方、感染が拡大している沖縄県や、現在、事業の対象から外れている東京都の扱いについては「国交省と沖縄県との間で、意見交換を行ったところ、沖縄県からは感染拡大防止を図りつつ、観光振興を進めたいというお考えをいただいた。東京については、政府の分科会の提言において、東京都での感染が落ち着いてきた際には、本事業を実施しても差し支えないとされている」と述べました。