コロナ時代の金融とは 新金融庁長官に聞く

コロナ時代の金融とは 新金融庁長官に聞く
金融庁の新しい長官に氷見野良三氏が就任した。金融業界ににらみをきかす行政のトップともなると、“こわもて”をイメージするかもしれないが、柔和な表情と語り口が印象的だ。新型コロナウイルスの感染拡大の収束が見通せない中、氷見野氏は金融庁をどう舵取りしようとしているのか、インタビューした。(経済部記者 柴田明宏 白石明大)

最大の課題 コロナ対応

氷見野良三氏は富山県出身の60歳。1983年に当時の大蔵省に入ったあと、金融庁で大手銀行を監督する「銀行第一課長」などの主要ポストを歴任。2016年から4年間、金融庁の国際担当のトップ「金融国際審議官」を務めた“国際派”でもある。

金融庁長官として、やはり最大の課題となるのは、新型コロナウイルスの感染拡大への対応だ。影響を受けた中小企業などを支援するため、金融庁は、銀行や信用金庫などに対して、融資の返済猶予に柔軟に応じることや、政府の経済対策による実質無利子無担保の融資も活用して積極的に融資に努めることを要請してきた。
氷見野氏
「実質無利子無担保の融資にしても3か月あまりの間にすでに60万件実行されている。全体としてはかなり進んでいるという風に受け止めている」
資金繰りの支援に一定の評価を示した氷見野氏。しかしこれからは、外出自粛の動きが残るなか、売り上げがかつてほど戻らない中小企業の立て直しが重要になってくると指摘する。
氷見野氏
「一部の借り手は、経営改善、事業再生が必要になってくると思う。どうサポートするか、金融機関の真価が問われる。販路拡大や業種転換を促す、経営人材を中小企業に入れる、コストカットの話もあるだろう。政府の経済対策を活用して財務構造を強くすることもメニューになると思う。そうしたサポートは取り引き先のためにもなるし、金融機関の信用コストを抑制していく上でも大事なことではないか」

公的資金活用も選択肢

8月14日には、金融機関に公的資金を投入しやすくするよう条件を緩和する改正金融機能強化法が施行された。氷見野氏は、金融機関が取り引き先への支援を強化するために公的資金を活用することも「選択肢の1つ」という考えを示した。
氷見野氏
「取り引き先をサポートしようとするとき、もう少し資本の厚みがあった方が思いきって力が発揮できるということであれば、『金融機能強化法』も1つの選択肢として考えてもらったらいいと思う」

感染拡大で金融機関は

金融機関にとって、感染拡大で融資が焦げつけば損失を被る。感染拡大による倒産が増える中、「金融システム」の健全性が維持されるかどうかは、今後の日本経済を見て行く上で重要なポイントだが、氷見野氏は現時点では、日本の金融システムそのものに問題はないと見ている。
氷見野氏
「日本の金融システムは、将来ずっと見通すと、厳しい環境にあって課題もいろいろあることは事実だと思うが、足元の健全性といったときに、何か特別に心配している点や懸念している点があるわけではない」
一方で、金融システムを支える地方銀行の立て直しは、感染拡大前からの大きな課題だ。人口減少や長引く低金利で地銀の収益力は落ち込んでいる。5月には、地銀どうしが統合しようとする際、独占禁止法の適用を特例的に除外する法律が成立した。「地銀の再編が進むのではないか」という見方も出ている。
氷見野氏
「金融機関からは『具体的に何をしろというんだ』と問いかけがあろうかと思うが、メニューはいろいろあったらいい。再編も今度の法律でやりやすくなった。地銀103行全部同じ答えであるとは思っていない。金融庁は1つ1つの地銀の実態を的確に把握するよう努め、個別に対話させていただく。そのうえで選択肢はなるべくたくさんあるように、我々は環境整備をすることがやっていくべきことと思っている」

求められる変化への対応

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、企業の中にはビジネスモデルを転換したり、働き方そのものを根本から見直したりする動きが出ている。氷見野氏は、金融機関もこうした変化に対応できるかどうかが問われていると考えている。
氷見野氏
「観光に依存していたとか自動車部品中心だったという地域が今後どうなるか。リモートワークでの働き方が進むだろうし、サプライチェーンを組み替えて国内の製造拠点の位置づけが変わることもあるだろう。それにあわせて金融機関も変わっていかないと、新しい取り組みをサポートできない。まだ少し先かもしれないが、どういう風にしたらそれがうまく回るのかということは、金融庁としても考えないといけない課題の1つだ」
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけにした経済の構造的な変化、そして技術革新によるフィンテックの動き、金融を取り巻く環境はめまぐるしく動いている。氷見野氏がどのように金融行政の舵取りを進めるのか、しっかり見ていきたいと考えている。
経済部記者
柴田明宏
平成16年入局
長野局 名古屋局を経て
現在 金融庁を担当
経済部記者
白石明大
平成27年入局
松江局を経て経済部