“異例の夏” ビッグデータから見えた深刻な実態

“異例の夏” ビッグデータから見えた深刻な実態
新型コロナウイルスの感染拡大で、周りの人たちが遠出を控えた人も多いと思います。私たちは実際にどの程度減ったのか知りたいと思い、ビッグデータで探りました。お盆を含む期間に人の移動を示すデータをみると、単に「減った」という言葉だけでは表せない深刻な現実が見えてきました。
一方で詳しく分析すると今後のヒントも見えてきました。
(社会部 記者 齋藤恵二郎/ネットワーク報道部 ディレクター 森田将人・篠原良寛)

ビッグデータ分析とは

そもそもどうやったら人の移動の変化を調べることができるのか。
その分析ができるのが携帯電話のビッグデータです。
携帯電話は、基地局ごとに数がわかり、所有者の居住地の情報とかけあわせると、どこから来た人がどのくらいいるのかを推計することができるからです。
今回、NTTドコモの全国8000万台の携帯電話のデータを使って分析しました。(※プライバシーに関する情報は保護されている)

ことしのお盆の減少 深刻な実態

分析の対象は、人の移動が多い8月のお盆を含む期間(8月8日~16日)です。
都道府県ごとに日中にいる人の1時間当たりの平均人数を去年の同じ時期と(8月10日~18日)比べて推計しました。
その結果、ことし都道府県をまたいで移動した人の数はすべての都道府県で減少し、全国平均で去年の同じ時期の61%に落ち込んでいました。
都道府県ごとに、ほかの都道府県から入ってきた人の数をみますと、最も減少したのは秋田県で去年の33%でした。
次いで新潟県が37%、青森県が39%、沖縄県が40%などと全国の17の県で半分以下に落ち込みました。
大都市圏から離れたところが多く、交通や観光に携わる人が多い地方にとっては、1年の中でも稼ぎ時だけに、非常に厳しいデータだと思います。
一方で、大都市とその周辺は減少幅が比較的小さいものでした。
奈良県で去年の85%、埼玉県が79%、神奈川県が77%、和歌山県が76%などとなっていました。
(※全都道府県の割合は、記事の最後に掲載しています)

細かくみると増えたところも

実は、ビッグデータは都道府県単位だけでなく、500メートル四方ごとにもみることができます。
私たちは、人が集まる観光地単位で、同じように分析してみることにしました。ビッグデータに日本観光振興協会の観光地の場所のデータを重ね、人数が少ないところは対象から外して分析しました。(※1)
レジャー施設や海水浴場、美術館や、博物館、公園など全国およそ6000か所の観光地を詳細に分析すると、意外な結果が見えてきました。「増えた観光エリア」が1238か所もあったのです。(※2)

意外!増加のそのわけは

いったいどういうことなのか、取材しました。
去年のおよそ4倍に増えたという分析結果が出たのは、栃木県の奥日光、中禅寺湖の周辺です。
華厳の滝や紅葉の名所として知られています。
内訳を調べてみると、まず県外の人が去年の3.5倍に増えていました。県内の人は4.3倍に増えていました。
地元の旅館に取材すると、実際に県内の客が増えていて、宿泊客が去年の3倍になっているところもありました。
栃木県の観光交流課の担当者は、県の取り組みに一定の効果があったと説明しました。
栃木県観光交流課観光プロモーション班 小池由紀班長
「栃木県では観光支援として、6月から県民を対象に最大5000円の宿泊費の補助を実施しています。今後の予約も含めると85%の県民が補助を利用していますので、それが県内の観光需要を喚起したと見られます」
さらに栃木県では、今月からは県外の人も対象に不特定多数の人と密になりにくい移動手段として、レンタカー代の補助もはじめました。
担当者は「利用者や観光施設には感染対策の徹底を呼びかけることが前提ですが、先手先手を打って観光地の経済を守ることも大切です」と話していました。

観光と感染防止 両立させる工夫とは

ほかの都道府県からの観光客が増加したとみられる観光地もあります。
京都府の宮津市にある日本三景の一つ、天橋立付近です。
去年より1.3倍に増加したと推計されました。
データを見ると、京都府内からは1.3倍の増加だったのに対して、ほかの都道府県からが1.5倍の増加と大幅に増えています。
いったい何が起きているのか、宮津市に取材すると、地域の特徴と感染防止対策とを両立させた観光振興策がありました。
一つは、近隣の自治体が海水浴場を閉鎖するなか、宮津市では、砂浜が長いため密になりにくいとして海水浴場を開いたことです。
安心して利用してもらうため、感染防止を呼びかける監視員も増員しました。
もう一つは、市と地元の旅館などが休日と祝日に行う花火のイベントです。観光客が密になるのを避けるため、打ち上げ場所は事前に知らせず、時間を5分間にすることにしました。
各地の花火大会が中止となるなか、この花火もほかの都道府県から人を集めているとのことです。

苦境に立つ観光地では

しかし全体としては減少していて、多くが苦境に立たされています。
その一つ、ことしすべての海水浴場の開設を見送った神奈川県。
江ノ島のすぐそばにある藤沢市の片瀬海岸の周辺エリアは、主要な国道や水族館なども含まれているため、海岸だけではありませんが、去年より14%減少したと推計されました。
地元の海水浴場を管理する組合によりますと、砂浜の人出は例年の3分の1ほどと大きく減少しました。

苦境続くレジャー施設は

首都圏の利用者が多い大型レジャー施設では、さらに厳しい状況が続いています。
福島県いわき市の「スパリゾートハワイアンズ」は、去年と比べて73%減少したと推計され、内訳は県内から43%の減少だったのに対して、県外からは84%の減少でした。
感染防止対策を徹底していることなどをPRしていますが、今後どう利用客の回復を図るか、日々、社内で検討を進めているということです。

人の移動の減少傾向は続く オーダーメードの対策を

観光業界の分析や振興策に詳しい東京女子大学の矢ケ崎紀子教授は、最近のトレンドは近場への旅行で、特に屋外など感染リスクの低いスポットに集中する、と分析したうえで、次のように指摘しました。
東京女子大学 矢ケ崎紀子教授
「この傾向は今後も続くと考えられる。『Go Toトラベル』の開始から1か月となるが、国の一律の振興策だけではなく、隣県をはじめ近くの人を呼び込むためには、観光地ごとの実情にあったオーダーメードの対策が必要です。旅行者が重視している感染対策を付加価値としてしっかりと売り出すことも大切だと思います」
また矢ケ崎さんは、こう指摘します。
東京女子大学 矢ケ崎紀子教授
「Go Toで東京が外されたことは、全国の観光地においては非常に影響が大きく、この傾向が続く中では感染状況や対策を見極めながらキャンペーンの対象に東京を含めることも検討する必要がある」
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、観光や旅行、帰省を控える人が増えてから、半年近くになります。
先が見通せない中で、雇用や地域経済は非常に厳しい状況が続くとみられます。観光と感染対策をどのように進めていくのか、データ分析と取材を通してこれからもそのヒントを探っていきたいと思います。
※1
誤差の影響を受けにくいように、推計人数が少ない(1000人未満)観光地と、住宅地などの影響が大きいとみられる観光地はのぞいた。
※2
専門家の助言のもと、推計には誤差が生じることを考慮して、「10%以上推計の人数が増えたところ」を「増えた観光エリア」とし、また「10%以上減ったところ」を「減った観光エリア」とした。
社会部 記者
齋藤恵二郎
ネットワーク報道部 ディレクター
森田将人
ネットワーク報道部 ディレクター
篠原良寛