コロナ時代の働き方は? AIが業務の効率化を提言

コロナ時代の働き方は? AIが業務の効率化を提言
「部下は自宅でもきちんと仕事をしているだろうか?」
「上司は在宅勤務の内容をきちんと評価してくれているだろうか?」
新型コロナウイルスの感染拡大で広がる在宅勤務をめぐっては、勤務管理や評価、生産性の面での課題が指摘される。こうした中、今、世界で注目されているアメリカのスタートアップ企業がある。社員一人一人の生産性をAI=人工知能が点数化して改善につなげるというのだ。AIは生産性向上の切り札になり得るのか、経営トップに聞いた。(国際部記者 山田奈々)

AIはあなたのコーチ

「スポーツではコーチの指導を頼りに上達していきますが、職場では、ほとんどの社員にコーチがいない状態です。多くの管理職は自分の部下の指導に時間を割いていません。AIは、あなただけのコーチとしてどこをどう改善すればいいのか教えてくれるのです」
2年前に設立されたアメリカ・ボストンのスタートアップ企業「enaible(エネイブル)」のトミー・ウィアー社長は、AIが社員のコーチになる時代だと言い切る。社名には、英語のenable=「できるようにする」という意味の単語にAIを掛け合わせ、「AIで可能にする」という意味が込められている。

“満点”は300点

AIが分析するのは、企業が自社のサーバーに持っているデータだ。日々蓄積されているマーケティング情報や顧客管理の情報、書類の作成時間やメールの返信時間など。生産性の物差しとしては全く活用されてこなかった150億ものデータをAIに読み込ませる。サービスを受けるにあたって、会社側が改めて準備しなければいけないデータはないという。

AIは、生産性に関わる3つの指標について、それぞれ100点満点で点数をつける。合わせて300点が満点だ。1つ目は、勤務時間をどれだけ生産的に使っているか。書類やプレゼン資料の作成、オンライン会議の開催時間など、パソコンでの業務にどれだけ時間を費やしているかを分析する。
2つ目は、仕事のやり方に一貫性があるかどうか。生産性を高めるには、日によって大きなばらつきなく、毎日同じ作業効率で仕事をすることが好ましいためだ。

そして、最も重要なのが3つ目、他の社員やチームに対する影響度だ。例えば、時間内にすべての仕事をそつなく終え、一見、生産性が高く見える社員がいるとする。しかし、仕事の中身に間違いが多い場合、他の社員が間違いの修正に時間を取られ、生産性を損なうことになる。こうした周囲への影響を計るというのだ。
算出された点数は、個々の社員ごと、チームごとに表示でき、1週間、1か月など、期間ごとに確認できるようになっている。そして、どうすれば生産性が上がるのか、改善すべき分野をAIが特定して経営層にアドバイスする。アドバイスは、「むだなチームミーティングの時間を減らしましょう」とか、「効率的に仕事を進めているジェフという社員から、どうやって仕事を進めているのか他の社員に説明させましょう」など、具体的だ。
AIは生産性向上の切り札になり得るのか、「エネイブル」のトミー・ウィアー社長に質問してみた。

“データは裏切らない”

Q.新型コロナウイルスの感染拡大で企業からの引き合いに変化はありましたか。

A.生産性をどう上げるかというのはコロナ以前から課題でしたが、感染拡大後、問い合わせの数がこれまでの6倍に増えました。企業は今、「社員がどれくらい生産的なのか、それをどうやって知ればよいのか。仕事の結果は目に見えるが、生産性が高いか低いかわからない」と悩み、自問自答しているのです。社名は明らかにできませんが、日本の有名な大企業からも問い合わせをもらっています。
Q.在宅勤務での状況を確認する手段としては、パソコンのマウスがきちんと動いているか把握したり、社員のパソコン画面のスクリーンショットを定期的に撮影したりといったサービスもあります。

A.キーボードやマウスの動きをただ追うだけでは、その瞬間、何をやっていたかということしか分かりません。

あるアメリカの会社は、ある日に10分で終えていた仕事が別の日に60分もかかっていて、作業効率にばらつきがありました。AIで問題点を洗い出し、作業効率が均一になるよう調整した結果、年間で3700万ドル(約39億円)ものコストを削減できました。

また別のアメリカ企業の経営者は、ばく大な残業代に悩んでいました。AIで分析してみると、「きょう必ず終えなければならない」と決められた仕事が勤務時間の後半に次々と出てきていたため、残業が増えていることがわかりました。次の日の朝でも間に合う仕事は積極的に翌朝に繰り越すことで残業代をカットできました。ただ単に、今この瞬間、社員が何をしているのか把握するだけではこうした改善にはつながらないでしょう。
Q.生産性を上げるためにいちばん大切なことは何でしょうか。
A.最も大事なことは、データを信用することです。データは裏切りません。私たちの仕事のどこにむだが生じているかを教えてくれます。企業は、社員の年間2080時間もの時間を管理しています(1日8時間、週40時間として)。そこで働く人たちが、企業の選択に大きく左右されていると気付くべきです。誰も自分の時間をむだに使いたいという人はいません。限られた時間を、社員たちのために、会社のために有効に活用すべきではないでしょうか。
Q.日本では全体のおよそ7割が中小企業です。中小企業にも活用は可能でしょうか。

A.中小企業もコロナ危機の中、大企業と同様に在宅勤務を始めていて、その運用の難しさに直面しています。サーバーに眠っているデータが十分にあれば、どんな分野のビジネスを展開している会社でもこのサービスを使えるし、中小企業も恩恵を受けられる可能性はあるでしょう。

ウィズ・コロナ時代に向けて

大手パソコンメーカーのレノボが、ことし5月、世界10か国(日本、アメリカ、ブラジル、メキシコ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、中国、インド)の企業や団体の社員2万人余りを対象に実施した調査では、新型コロナの感染拡大で在宅勤務へのシフトが進んだという回答が10か国の平均で64%にのぼった。
一方、在宅勤務での生産性が、オフィスで勤務するより下がると答えた人は、10か国平均で13%だったのに対し、日本では40%もいた。

生産性の向上は以前から日本企業の課題だったが、ウィズ・コロナの時代に向けて企業が多様な働き方を試みるうえでは、これまで以上に工夫が必要になる。

もちろん、生産性を重要視するあまり、企業と社員との間の信頼関係が崩れてしまっては元も子もない。AIによる点数化の“副作用”にも目を配りつつうまく活用すれば、課題解決の一助になるかもしれない。
国際部記者
山田 奈々

平成21年入局
長崎局、千葉局、経済部を経て現在、アメリカ、ヨーロッパを担当