カプコン “先頭を走る”覚悟とは

カプコン “先頭を走る”覚悟とは
「ストII」をご存じですか。世界的なヒットとなった対戦型格闘ゲーム「ストリートファイターII」をファンはこう呼びます。あるいは若い世代ですと「モンハン」=「モンスターハンター」の方がなじみがあるかもしれません。これらのゲームを作り出したのが大阪に本社があるゲームメーカー、カプコンです。創業者、辻本憲三会長は一代で海外売り上げ80%というグローバル企業に育て上げた人物ですが、インタビューで話を聞くと、数々の苦難や失敗に直面し、それを乗り越えてきた信念の経営者でした。(大阪放送局記者 太田朗)

世界で勝負するゲームソフト

1987年にカプコンが開発した対戦型格闘ゲーム「ストリートファイター」。現在まで続くシリーズの特徴の1つは魅力的なキャラクターにあります。世界各国から空手やボクシング、ヨガや相撲などを取り入れた個性的なキャラクターを登場させたのです。
1992年、任天堂の「スーパーファミコン」向けのソフト「ストリートファイターII」、いわゆる「ストII」を発売すると、アメリカを中心に海外でも大ヒットを記録。カプコンには「ロックマン」や「魔界村」などそれまでも国内でヒットしたゲームソフトがありましたが、ストII効果で会社の売上は前年の2倍に増加しました。

現在、79歳にして今も毎日経営指標をチェックすることを欠かさない辻本会長にオンラインでインタビューしました。
辻本会長
「世界で通じるものを作りたいと思ったので、どの国の人でも楽しめるゲームを目指して開発しました。その結果、海外でもヒットしたことで会社も大きく成長し、これ以降は世界を意識したゲーム作りがスタンダードになりました」

失敗続きの若き経営者

奈良で生まれ育った辻本さん。中学2年生のときに父親を亡くし、中学卒業後は昼間に仕事をしながら夜は定時制の高校に通いました。夜遅くにチキンラーメンを温めて食べながら「何でこんな苦労せんといかんのだろう?」と思いにふけったことを私にとつとつと語りました。

高校を卒業して最初に経営した会社が、親戚から受け継いだ菓子の卸売業です。ところが、商売はうまくいかずに行き詰まり、多額の借金を抱えて廃業に追い込まれました。
辻本会長
「菓子の店に置いてあった綿菓子の自動販売機に子どもが並ぶのを見て気がつきました。子どもたちは綿菓子を食べたいのではなくて、機械で作るのが楽しみなのだ、これからの時代はこれだと」

先頭を走る覚悟

遊べる機械に目を付けた辻本さんは、27歳のとき、2番目の会社を設立しました。ピンボールの機械を手始めに、他社がつくったゲーム機のレンタルや販売でビジネスを拡大。
大きな転機となったのが、インベーダーゲームの販売です。1970年代の社会現象ともいわれた大流行が追い風になり、会社は急成長。ところが、ブームが去ると大量の在庫を抱えて苦しみます。

会社が多額の負債を抱える中、辻本さんは販売からレンタルに切り替えて在庫を減らし、一部は私財を投入してまで必死に負債を解消しました。そんなとき、ある出会いがその後の経営に対する考えを固めるきっかけになりました。
辻本会長
「ブームの最中に、インベーダーゲームを置いていた喫茶店に出入りするおしぼりの業者と知り合いました。一緒にインベーダーゲームのビジネスをやろうと誘いましたが、本業ができなくなるからやらないと断られました。そのとき、おしぼりの業者は堅実にずっと同じビジネスをしていくのだと気がつきました。その後も安定して同じ仕事を続け、いまでもおしぼりの業者は続いています。一方で、ゲームの世界はどんどん変わっていく。自分が進む道はおしぼりの業者とは逆で、新しいことにどんどん挑戦して、先頭を走らないといけないと思ったのです」
他社のつくったゲームを間に入って販売するだけでは成長に限りがある。ゲーム業界の先頭を走る決意を固めた辻本さんはこの会社を辞めて、ソフトの作り手になるべくカプコンを創業したのです。
資金繰りに苦しんだ時期もありましたが、「ストリートファイター」の成功をきっかけに海外市場を意識したゲーム作りに転換。ソフトの販売で得た利益を次のソフトの開発に充てる好循環で、世界的なヒット作を相次いで世に送り出しました。

事業失敗から生まれた奇跡のワイン

辻本さんには別の顔があります。アメリカ・カリフォルニア州ナパのワイナリーのオーナーという顔です。ここにも「先頭を走りたい」という辻本流のこだわりがいかされています。

辻本さんが経営するワイナリーはもともとはカプコンがアミューズメントパークを作ろうと購入したものですが、事業に失敗。会社の財務への影響を避けるため、辻本さんが個人として土地を購入しました。

ワインづくりを始めたものの、なかなかうまくいきません。そこで、専門家のアドバイスを受けて、ぶどうが植わっている土をすべて入れ替えるという大胆な決断をします。
辻本会長
「ダイナマイトでボンボン爆破させて、土の中の石を全部掘り出しました。ワインもやるからには世界トップクラスのものを作らないと通用しないだろうと。カプコンのビジネスとも共通する私のビジネスの原点だと思います」
畑作りを一から始めて、今では毎年高い評価のワインを生産。現地では「ナパの奇跡」とも呼ばれています。

新技術に貪欲であれ

近年は「eスポーツ」の熱が世界的に高まり、ゲーム市場は拡大しています。VR=仮想現実や5G、その先の通信規格6Gと、技術は日々進化し続けています。

辻本さんは新しい技術を取り込んで変化することを今なお楽しんでいるといいます。
辻本会長
「新しいことをやっていかないと、古いことばかりやっていたらダメですよね。リスクを言うより、未来を自分で取りにいっているのですから、うまくいかなくても当たり前。未来に向かってどんどん進んでいくことがこれからのカプコンの仕事だと思います」

失敗は変え時のサイン

経営者人生を失敗の連続だったと振り返る辻本さん。「失敗とはいまやっていることを変えたほうがいいというサイン」と捉えてきました。

節目で失敗と向き合い、次の挑戦につなげてきた辻本さんは、カプコンの従業員教育では、どんどん挑戦させて失敗を経験させることを重視しているといいます。成功への扉を開くための変化とは何か、考えさせられることばの数々でした。
大阪放送局記者
太田朗
平成24年入局
神戸局を経て大阪局で経済担当
ゲームとワイン以外も幅広く取材