女性器切除の痛み

女性器切除の痛み
「当時7歳だった私は、全く理解できていませんでした。私の身体に何が起きたのか。それが、どれだけ私の人生に大きな害を及ぼすものだったのか。知ったのは、ずいぶんあとになってからでした」

アフリカのスーダンに住む28歳の女性は、7歳で性器を切除されました。今もそのトラウマや将来への不安と向き合うことを余儀なくされています。

女性の性器の一部、もしくは全部を切り取る行為はアフリカや中東の一部の国で今も続く慣習です。「女性性器切除」の英語の頭文字をとってFGMと呼ばれます。
(カイロ支局記者 柳澤あゆみ)

幼いころに植え付けられた恐怖

スーダン。アフリカ大陸でエジプトの南に位置するこの国は、FGMの実施率が世界でも高い国の1つです。ユニセフ=国連児童基金のまとめでは、15歳から49歳までの女性のうち、実に87%がFGMを経験しています。
南部のホワイトナイル州で暮らすファティマ・ハッサンさん(28)がFGMを受けたのは7歳の時のこと。姉と一緒でした。

先に施術を受けた姉は、大声で泣き叫びました。何をされるのか知らなかったファティマさんはそれを見て逃げ出しましたが、連れ戻された後、意識を失ったと言います。

この時の恐怖はトラウマとなって、ファティマさんの心に深く刻まれました。そして性器を切除されたことは、その後の人生にも暗い影を落としています。
ファティマさん
「当時はショックで、食べ物がのどをとおりませんでした。今も、結婚後のことを考えると恐ろしく感じます。結婚して初めての夜に死ぬかもしれない。出産する時に死ぬかもしれない。こうした考えが、今も、私の頭を占めています。もし、こんな恐怖を感じる必要がなかったら、22歳や23歳で結婚し、普通の生活を送ることができていたかもしれません」

FGMは世界30か国に広がっている

国連の調査によると、FGMを慣習として実施している国はアフリカの国々を中心に少なくともおよそ30か国で、FGMを経験した少女や女性の数は世界中で2億人にのぼります。
これらの国々から他の国に移り住んだ移民コミュニティーがある欧米の国々なども含めると、実際の人数はもっと多いとみられています。
女性の性器切除とは、具体的にどこを切除するのか。WHO=世界保健機関は、主に3つのタイプに分類しています。

(1)クリトリスの一部または全部を切り取る
(2)クリトリスだけでなく小陰唇も一部またはすべて切除する
(3)陰唇の一部、または全部の切除。膣の入り口を縫い合わせるなどして接合する。クリトリスの切除を伴うこともある。
国によって事情は違いますが、特別な医療知識や技術を持たない人が、麻酔も使わず簡易なカミソリの刃を使って切除を行うケースも多く、大量出血や感染症などが原因で命を落とす少女も後を絶ちません。

膣の入り口を縫い合わせる場合、生理の際の経血の排出がうまくいかず、ひどい生理痛に悩まされたり、性交渉や出産の時に大量出血の危険性が伴ったりするなどさまざまな悪影響に苦しめられることになります。

スーダンのファティマさんが経験したのも、このタイプ3のFGMです。

慣習を引き継いできたのは女性たち でも…

WHOは、FGMに健康上のメリットは一切ないと指摘しています。多くが幼少期から15歳までに施術を受けており、本人が何もわからないうちに体を傷つける行為は、女性や少女の権利の侵害にほかなりません。
一方でこの慣習は、祖母から孫へ、母から娘へと、女性の間で受け継がれてきた現実があります。

ファティマさんへのFGMを強く勧めたのは祖母でした。FGMを受けさせなければ恥になる、結婚できなくなると強硬に主張したそうです。膣の入り口の縫合や性器の切除の目的には、女性が性的な快感を得られないようにしたり、性行為をできないようにしたりするーーつまり結婚前の女性の“純潔”を維持することがあります。

その背景について、FGM根絶に取り組む団体などは、処女性を重視し、女性の行動をコントロールしようとする男性優位の社会があると指摘します。FGMを受けていない女性との結婚を避ける男性は多く、家族や親戚から猛反対されることも珍しくありません。スーダンの活動家、イフラス・ニムルさんは次のように話します。
イフラス・ニムルさん
「FGMを受けていない少女のことを“何かが欠けている子ども”と呼んだり、“FGMを受けていない女性は結婚できない”などと言ったりする人たちもいます。たしかにFGMは女性から女性へと勧められてきましたが、スーダンの社会では、男性が強い決定権を持っています。彼らの同意なしには、この慣習は続きません」

意識の変化は少しずつ

ただ、若い世代を中心にFGMへの意識は変わり始めています。国連やNGOの協力のもと、ファティマさんのような経験者たちがみずからのつらい経験を語って根絶を訴える活動が積極的に続けられています。

女性だけでなく、地域で発言力のある男性指導者を巻き込んだ取り組みや、学校を通じて少年たちに意識を高めてもらう活動も行われています。
こうした地道な啓発活動や関係者の訴えの結果、スーダンではことし7月、FGMを罰則付きで禁止する刑法の改正案が承認されました。他の国では、違法化された結果、“地下に潜る”形でFGMが続けられているケースも多いことを考えると、FGMの根絶にはまだ長い道のりが待っています。それでも、大きな一歩です。

ソマリア FGMが“影のパンデミック”に

ことし6月、少女の権利問題に取り組む国際NGO「プラン・インターナショナル」は、新型コロナウイルスの影響で、ソマリアでのFGM施術が増加したと発表し「影のパンデミック」だとして警鐘を鳴らしました。聞き取り調査の結果、61%がFGMの実施件数の増加を確認していると回答しました。また、UNFPA=国連人口基金も、コロナウイルスの影響で撲滅に向けた活動が6か月止まった場合、今後10年でFGMを受ける少女がさらに200万人増加するおそれがあると指摘しています。
新型コロナウイルスの感染拡大が、なぜFGMの増加につながったのか。理由は2つあります。

まず、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って学校が休校したこと。FGMを受けた場合、傷が治るまでに一定の時間がかかります。このため休校期間を利用してFGMを実施するケースが増えたというのです。

2つ目の理由は、ロックダウンなどによる経済の低迷です。収入を失った人たちが家を1軒1軒訪問し、少女たちにFGMの施術を行うことで、わずかばかりの報酬を得ているといいます。NGOのソマリア担当は危機感を率直に語りました。
プラン・インターナショナル ソマリア国統括事務所 サディア・アリン所長
「非常に大きな衝撃を受けました。これまで、人々の意識を変えようと熱心に取り組んできましたが、突然、最初からやり直すことになってしまいました」

「FGMを受けた少女たちは、自信をなくし、気力をなくし、夢をなくし、沈黙します。自分の体についての決定権を奪われて、どうやって夢を持って生きていけるというのでしょうか。まずは、少女たちが、自分の体のことを、自分で決められるようにすべきです。決定権を取り戻し、自信も取り戻す必要があるのです」

自分の体のことを 自分で決める権利を

FGMで今も苦しむスーダンのファティマさん。取材の際、笑顔を見せてくれた瞬間があります。ファティマさんたちの説得の結果、めいたちがFGMを受けないと決めたと教えてくれた時でした。
ファティマさん
「めいたちは、自分でFGMを受けないと決めたんです。学校でも友達に、お母さんたちに『切除なんてしないで』と伝えるよう話しているそうです」「いつか、すべての少女が、FGMを受けさせられることなく、健康でいられるようになること。これが私の夢です。それから、FGMのことをきちんと知り、一緒に反対してくれる理解のある男性を見つけられたらいいなと思っています」
FGMの根絶を訴える活動を始めようとした時、ファティマさんは家族に猛反対され、家から出してもらえませんでした。施術側にまわる助産師は、害があるとわかっていても、地域からの要請を断ることは簡単ではないと話します。

国連をはじめとするさまざまな機関が有害な慣習であると指摘し、本人たちが苦しい、やめたいと訴えていても、周りがそれを許さない。地域によっては、古くからの慣習と宗教的価値観が結び付き、当然の義務ととらえる人たちすらいます。

そうした社会や価値観にあらがおうとする女性たち。「自分の体のことを、自分で決める権利を」ーーその闘いが、少しずつ、社会を変えていくことを願わずにはいられません。
カイロ支局記者
柳澤 あゆみ
2008年入局
秋田局、仙台局、国際部を経てカイロ駐在。
中東やアフリカの女性が
直面する問題を継続して取材。