ライフセーバーがいない海 海開きしない海岸が危険な理由

ライフセーバーがいない海 海開きしない海岸が危険な理由
はじめは「海には入らない」という約束でした。新型コロナウイルスの影響で外に出かけることもなかなかできないことしの夏休み。エネルギーが有り余っている子どもたちが「海の生き物が見たい」と言うので三密を避け、あまり人がいない海岸に散歩に出かけたのです。(ネットワーク報道部記者 大窪奈緒子・斉藤直哉・國仲真一郎)

軽い散歩の気持ちで…

子どもたちは、最初は波打ち際でおとなしく遊んでいました。しかし、波消しブロックの隙間でかにを見つけると大喜び。捕まえ始めました。

ふと周りを見渡すと、遊泳禁止の区域にもかかわらず海に入って遊んでいる人がいました。「ぼくたちも海に入りたい」そう言うと、子どもたちは止めるのも聞かずずんずんと海の中に入っていったのです。

ひざの辺りまで水につかり波に押されて転んだりする子どもたちを目の当たりにして、一気に血の気が引きました。

下の子を抱いていた私は追いかけることができません。

「戻りなさい!」「すぐに引き返しなさい!」大声で叫びましたが波の音でかき消されてしまいます。

岸からの距離は10メートル以上あったでしょうか。私の叫び声はどなり声へと変わりました。

それでも久しぶりの外遊びが楽しくてしょうがない子どもたちの耳には届きません。

近くにいた夫に「助けに行って!」と声をかけようやく連れ戻すことができました。自然のおそろしさを実感したとともに、軽装備で特段の準備もせずに海に子どもを連れて来てしまった心構えのなさを大いに反省した出来事でした。

海開きしない海岸が危険な理由

新型コロナウイルスの影響で海開きしない海岸が多いことしの夏。監視態勢が手薄なため例年よりも危険性が高まっているという指摘もあります。
日本ライフセービング協会によりますと、監視活動に協力している全国の209の海水浴場のうち、7月末の時点で6割近い122の海水浴場が海開きしておらずこのうち107か所ではライフセーバーによる監視活動が行われていません。

こうした場所では救護所がなかったり海中で安全が確認されている「遊泳エリア」の区切りがなく、危険な場所がどこかわかりづらくなっている場合もあるのです。

海難事故は増加傾向

実際、海での事故は増加傾向にあります。海上保安庁によりますと今月に入って10日までに海難事故に遭った人は全国で57人。去年の同じ時期に比べて4割以上(39人)増えています

緊急事態宣言が出されたことし4月以降でみても、発生件数こそ185人と去年(198人)よりもやや少ないものの、海水浴中におぼれて亡くなったり行方不明になったりした人は35人と去年(33人)を上回るペースで増えているのです。

監視員がいない海辺で子どもが事故にあうケースが複数起きていることも分かっています。
廣瀬係長
「ふだんであれば監視員が危険を呼びかけているがことしはいない海水浴場が多い。万が一事故が起きても監視の目が届かずに救助が遅れてしまう危険性があるので海水浴場が開設されている場所で遊ぶようにしてほしい」

親が救助するのは「無理です」

「万が一子どもが溺れても、自分が助ければいい」こう思っている人、いませんか?そうした考えは危険だと警鐘を鳴らすのが、水難事故を研究している長岡技術科学大学の斎藤秀俊教授です。
斎藤教授
「親がみずから海に飛び込んで救助なんて、できません。溺れた子どもが助かって、助けようとした親が溺れるという痛ましい事故はあとを絶ちません」
斎藤教授によると助けに向かった親が溺れてしまうケースは大きく3つに分けられます。
1 助けようと飛び込むものの自分も陸に上がれなくなり溺れてしまうケース

2 潮に流されるなどした子どもを泳いで追いかけようとして途中で力尽きるケース

3 子どもを陸にあげてから力尽きるケース
溺れている人のところまで泳いでいって助け上げるというのは想像以上に困難で危険なことなのです。

さらに溺れると子どもよりも大人のほうが助からないという分析も。警察庁のデータを基に去年1年間に溺れた人のうち、救助されるなどして助かった割合を「生還率」として計算したところ中学生以下の子どもの生還率は約85%だったのに対し、大人は約50%と大きな差が出たそうです。

背景には溺れた際の正しい対処方法を学んでいる世代とそうでない世代の違いがあると指摘します。
斎藤教授
「大人の中には今でも“溺れたら着ている服を脱ぐ”とか“手を上げて助けを求める”のが正しい対処方法だと思っている人がいますが、それは迷信です。こうしたことをすると、体力を消耗して逆に状況が悪化してしまいます」

助かるためには「浮いて、待て」

学校現場で20年ほど前から教えられているのが「浮いて、待て」の原則です。
着ている服や靴はそのまま。落ち着いて体の力を抜き、大きく息を吸って「大」の字になって水面に浮く。あおむけの状態で浮きながら、救助を待てば、体力を消耗せず状況の悪化を防ぐことができるのです。この時、親の役割は“飛び込んで助けにいく”のとは別にあるといいます。
斎藤教授
「ライフセーバーや119番、海上保安庁の118番などに救助を求めること、そして子どもに向けて“浮いた状態で待て!”と声をかけ続けることです。子どものそばに寄り添いたい気持ちは分かりますが、飛び込んでも子どもをかえって不安にさせ、自分が事故に遭う危険性を高めてしまうおそれがあります」
海水浴場が閉鎖されたり、ライフセーバーがいなかったりする今シーズンは、すぐに救助が来ないことも想定されます。救助が来るまでの時間を稼ぐためにも、この「浮いて、待て」を覚えておいてほしいと話していました。

危険な状況にならないために

海上保安庁では、海に入る際はできるだけライフジャケットを着用するよう呼びかけています。もし流されてもライフジャケットを着用していれば、助かるための大原則「浮いて、待つ」ができ生存率があがります。また体がすり抜けてしまわないよう体のサイズに合ったものを正しく着用することが重要だということです。

ことしはヒザ下までで遊ぼう

海や川など、水辺で遊ぶ際に気をつけたいことについて、斎藤教授は次のように話していました。
斎藤教授
「水に入るのであれば、子どものヒザ下までの高さであれば危険性は小さくなります。ヒザより上の高さだとちょっとした波や流れで流されてしまうことがあります」

いつもと違う夏だから

花火大会やお祭りなど、みんなで集まっての夏の恒例行事が次々と中止になっていることしの夏休み。「海で遊びたい!」という子どもの声と向き合っている人も多いのではないでしょうか。

新型コロナウイルスの影響でいつもと大きく違うことしの夏。海に遊びに行く際はぜひ、心にとめておいてください。