#買い占め 本当に必要な人が伝えたいこと

#買い占め 本当に必要な人が伝えたいこと
「会見を見てすぐさま買いに行った」
「俺は買った。踊らされていると思ってばかにするならすればいい」
ネット上では、薬局などでうがい薬を買い求めた人たちのツイートが見られ、品切れも相次ぎました。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、ことしに入ってからたびたび売り切れたトイレットペーパーやマスク、そしてガーゼなどの商品。でも、誰かが買い占めたものを常に必要としている人がいて、その現状を知ってほしいと訴えた漫画が大きな反響を呼んでいます。(ネットワーク報道部記者 野田綾・目見田健・秋元宏美)

本当に必要な人に届かなくなるという現実

その漫画は、広島県に住むKAKOさん(55)が新型コロナウイルスの感染拡大で品薄が続くことし3月ごろ、ドラッグストアを訪れた場面から始まります。
その日は、ふだんなら売っているはずの医療用ガーゼが見当たりませんでした。

店のスタッフに尋ねると、新型コロナウイルスの影響で売り切れたマスクの代用品に、医療用ガーゼが相次いで購入され品切れになってしまったという回答。

再び入荷する見通しもなく、途方に暮れたKAKOさん。
KAKOさんは、6年前に肺や食道など合わせて3か所でがんが見つかって以来、管を通して腸に直接栄養を送り込む“腸ろう”で栄養を補給しています。

管が差し込まれているおなかの皮膚を滅菌処理した医療用のガーゼで保護してから、管が抜け落ちないようテープで止めているため、毎日ガーゼが欠かせないのだといいます。
今月は、うがい薬も店頭から消えてしまいました。

抗がん剤治療をしていた時、副作用でできた口内炎の痛みから救ってくれたのは、子ども用のうがい薬だったといいます。
KAKOさんは、最後にこう訴えました。
KAKOさん
「健康な人が知らない、考えない、感じも思いもしないような病気の症状があり、健康な人が買い占めた商品を何年も必要としながら命を繋いでいる人が居るということを知ってほしいんだ」

どうか思いが伝わりますように

この漫画は今月6日、「どうか思いが伝わりますように」というメッセージと一緒にSNS上に投稿されると次々に拡散され、6万以上リツイートされ、10万の「いいね」がつきました。

この漫画を描いたKAKOさんに連絡を取ると、がんの手術で声を失ったためダイレクトメッセージで取材に応じてくれました。夫と2人の子どもと暮らすKAKOさんは、日常や闘病生活の様子をネットで発信しています。

今月、うがい薬の買い占めが各地で起きたことについて尋ねると。
KAKOさん
「またか…というような、諦めにも似た失望でしょうか。ほとんどの消費者は『ついでに…』という意識や、どうせなくなるなら『あるうちに買っておこう』と気軽な気持ちで買っていると思います。でも、1人が余分に1つ買うと日本全国でいくつ消費されるでしょうか。買い占めが続く理由は、“想像力の低下”だと思います。私のような障害がある病人の存在も感じていただきたいです」

医療機関でも手に入らない 必要な患者にも…

「業者から『ない』とそのひと言だけ言われ、怖くなりました。まさかこんな事態になるとは思ってもみなかったです」

医療機関でもうがい薬が手に入らなくなり治療で必要な患者に行きわたりにくくなっていると訴えるのは、大阪・西成区で歯科医院を経営する小澤力歯科医師です。

歯科医院では、うがい薬は抜歯の前や後に使って傷口から菌が入るのを防ぎ口の中を清潔な状態に保つのに必要不可欠なものだといいます。

この医院では、今月4日に注文したうがい薬が1週間たっても納品されず、今後入るめども立っていないため治療で必要な患者にうがい薬が行きわたりにくくなっているといいます。
小澤力 歯科医師
「これまでうがい薬はすぐに手に入るものだったのでほとんど在庫を置いておらず、なくなったころに頼めば翌日には来る状況だったので、まさかこんな事態になるとは思ってもみなかったです」
大阪府内のおよそ4200人の歯科医師で作る大阪府歯科保険医協会は、「瞬く間に『うがい薬』が市場から消えてしまい、多く使用している歯科医療機関でさえ手に入らなくなっている」として、大阪府に対して慎重な発言を求めました。

大阪府は、うがい薬について「うがいをすることで体内に広がっているウイルスを抑えたり、予防できたりするわけはなく治療薬でもない。感染を防ぐ効果が認められたわけでもない」としたうえで、使用する際には医師の指示や製品の使用上の注意を守るとともに、買い占めや転売はやめるよう呼びかけました。
小澤歯科医師は、次のように話しています。
小澤力 歯科医師
「患者の治療になくてはならないものがなくなってしまう状況に、現場は混乱しています。消費者の皆さんには、ひと呼吸ふた呼吸置いて冷静な行動をお願いしたい」

買い占めはなぜ続く?不安が拍車をかける

なぜ買い占めが相次いでしまうのか、社会心理学が専門で消費者の心理に詳しい関西大学社会学部の池内裕美教授に聞きました。
池内裕美教授
「うがい薬の品切れが相次いだのは、今は自分に必要ではないとわかっていも、手元にないと本当に必要な時に商品が手に入らなくなってしまうのではないかと混乱状況の中で不安になり、買い占めが起きたと考えられます」
これは「パニック購買」と呼ばれ池内教授は「新型コロナウイルスに関しては何が正しい情報かわからないことも多く、皆が買うのを見てつい買ってしまう同調行動が生まれやすい」と分析しています。さらに、マスクを始めトイレットペーパーなどこれまでにさまざまな商品が品切れになった経験が今回の状況をエスカレートさせていると指摘しました。
池内裕美教授
「“うわさ”や“デマ”による商品の品切れを皆が経験をしているのでまた商品がなくなってしまうのではないかという強迫観念が働いたとみています」
池内教授は消費者が不安を常に抱えている状況が続くかぎり、今後も買い占めが起きるおそれがあると指摘したうえで、自分の行動の「客観視(セルフモニタリング)」が安易な買い占めを防ぐ手だてにになると話しています。
池内裕美教授
「消費者が不安に駆られて自分の利益を優先しようとするかぎり、今後も買い占めは繰り返されるでしょう。それを防ぐ手だての1つは、情報に翻弄されて商品を買い占めている自分自身の姿をほかの人が見たらどう思うか、想像してみることです。そして、本当に必要な人の元に商品が届かなくなることへの想像力を働かせることです。買い占めをしようとしていたら家族で注意し合って冷静さを取り戻すよう促したり品切れは一時的なものだと諭すのも有効かもしれません」

愛する人を守りたいのは同じ

漫画で安易な買い占めをやめてほしいと訴えたKAKOさんは、今月10日、SNS上の反響を受けて、新たな漫画を投稿しました。反響のなかには、共感や応援のコメントが多かった一方で、考えさせられるものも届いたといいます。
「あなたが健康であっても同じ事が言えますか?」KAKOさんは、この問いの答えを探します。
「もし今から6年前の健康な私に同じ事が起きたら?同じようなマンガが描けただろうか…」
たどりついた答えは、次のようなものでした。
「愛する人がいつまでも健康とは限らない。だから病人や障害者やご敬老の存在を忘れて欲しくない。だけど特別じゃない。できるだけ謙虚に生きていきたい。『人』として忘れてはいけない事はみんな同じだ」
KAKOさんは最後にこんなメッセージを送ってくれました。
KAKOさん
「少なくとも私は病人だからというような優遇を求めていません。愛する人が健やかにそして、それを守ろうとする気持ちは誰もが同じ。でも、みんなが謙虚であれば、買い占めもおさまるかもしれないと思います」