コロナ禍で高まる「オンライン保育」のニーズ

コロナ禍で高まる「オンライン保育」のニーズ
再び新型コロナウイルスの感染が拡大する中、保育所の利用を自主的に控える家庭などでは、オンライン保育のニーズが高まっています。
オンライン保育は、家庭の子どもたちにインターネット上で保育士などが歌や絵本の読み聞かせなどを行うサービスで、緊急事態宣言が出されたことし4月以降、利用者が増えています。

このうち横浜市の会社員、里見郁香さんは、先月から本格的に3歳の長女のためにオンライン保育のサービスを利用し始めました。

夫婦共働きでふだんは長女を市内の保育所に通わせていますが、感染者の増加を受けて、先月半ばから自主的に登園する日を減らし、週2回、在宅勤務で子どもの面倒をみています。

緊急事態宣言が出されていた4月と5月にも保育所からの要請で登園を控えましたが、当時はほとんど仕事にならなかったことから、利用を決めたということです。

里見さんは、当時について「仕事がはかどってきたところで中断して子どもの相手をしなければならないこともあり、効率や生産性は落ちるし、イライラしたり子どもにあたったりと、精神的につらかったです」と話していました。

この日は複数の家庭の子どもたちをオンラインでつなぎ、保育士や幼稚園教諭などの資格をもつスタッフによるダンスや絵本の読み聞かせが行われました。

長女が画面上のスタッフの動きに合わせて体を動かしたり、声がけに応えて手を振ったりして楽しんでいる間、里見さんは時折、声をかけながら仕事を進めていました。

現在は1回あたり1時間のため在宅勤務の作業効率をあげる効果は限定的ですが、今後、サービスがさらに充実することを期待しているといいます。

里見さんは「オンライン保育があるととても助かります。利用者が増えていけば、子どもをオンライン保育園に預けられる時間が増えていくと思うので、もう少し仕事の効率や生産性が上がるのではないかと思います」と話していました。

このサービスは、保育関連のITサービスを提供している民間企業がことし4月下旬から始め、運営費はインターネットのクラウドファンディングで募り、利用者に金銭的負担はかからない仕組みになっています。

運営会社によりますと、全国で保育所の休園や登園自粛の呼びかけが続いた4月から6月までの間に首都圏や大阪を中心におよそ700組の家庭がサービスを利用し、現在も問い合わせや申し込みが相次いでいるということです。

自治体として導入の動きも

保育所が再び閉園したり登園自粛を呼びかけたりする場合に備えて自治体としてオンライン保育の導入を進める動きも出ています。

千葉県松戸市では、子どもの見守りや家庭保育の補助的な支援策の1つとして市内の認可保育所にタブレット端末を配布し、先月からは保育士を対象に研修を始めています。

研修では、感染者数の増加から自主的に登園を控えている家庭とウェブ会議システムでつなぎ、保育士たちが子どもたちに語りかけます。

子どもたちはいつも慣れ親しんだ保育士が画面に現れると、問いかけなどに元気よく答えていました。

研修では、10分ほどで集中力が途切れてしまう子どものために一緒にできる手遊びにしたり、マスクをしたままだと表情が伝わりにくいため途中からフェイスシールドに切り替えたりして、どうすれば子どもたちの関心を画面越しでも持たせられるか試行錯誤を続けていました。

50代の保育士は「画面を通して子どもたちの反応や楽しんでいる様子がよくわかり、とてもやりやすかったです。こちらから子どもたちが楽しめるものを発信できるので、とても利用価値があるツールだと思いました」と話していました。

松戸市ではことし10月までには市内すべての認可保育施設でオンライン保育が利用できる環境を整備する予定で、厚生労働省によりますと自治体として導入を進めているケースは全国的にも珍しいということです。

松戸市保育課の山内将課長は「在宅が長期化すると子どもも大人もストレスを抱えます。保護者から仕事と育児の両立が非常に難しいという声がとても多かったので導入を決めました。『withコロナ』の時代の新しい選択肢の1つになれば」と話していました。

在宅勤務と育児の両立 アンケートでは

在宅勤務と育児の両立が困難なことを示すアンケート結果もあります。

共働きの保護者でつくるグループは、全国に緊急事態宣言が出されていたことし5月上旬、未就学児の保護者を対象に仕事への影響などを調査しました。

以前と比べてこなせる仕事の量が何割程度かを聞いた問いに、回答した1600人余りのうち、
▼「全くできなくなった」と回答した人が12%、
▼3割程度にまで減った人が10%、
▼5割程度が12%、などとなっていて、
こなせる仕事の量が以前と比べて半分以下になったという回答が過半数を占めました。

アンケートを行ったグループは「在宅勤務と育児の両立は難しいという前提を理解したうえで、集団保育ができない場合の対応を考えるべきだ。どうしても保育が必要な場合は、確実に保育所で受け入れるとともに、在宅の家庭向けに短時間でもオンライン保育を検討してほしい」と指摘しています。

専門家「受けられない家庭との差に国や自治体は配慮を」

感染が拡大する中で、オンライン保育が広がっていることについて、保育問題に詳しい東京大学大学院教育学研究科の秋田喜代美教授は「保育所の努力や企業のサポートで、子どもたちにとってより楽しい時間を保証することは、1つの知恵として大事なことだ。特に在宅勤務の保護者にとっては、子育て支援や子どものケアという意味で助かる部分は大きいだろう」と話していました。

一方で、
▼医療従事者など社会機能を維持するために仕事を休めない、いわゆる「エッセンシャルワーカー」は子どもを保育所などに預けざるをえないほか、
▼経済的な事情で通信環境が整わない家庭は、オンライン保育が利用できないなどの、
課題が多くあると指摘します。

そのうえで「オンライン保育はあくまでも日頃の保育の一部を代替して、感染予防のために行われていると理解している。国や自治体は、オンライン保育を受けられない家庭との大きな差に配慮する必要がある」と話しています。