衛星通じたネット通信 “漏えいの危険性” 英の研究者が指摘

衛星通じたネット通信 “漏えいの危険性” 英の研究者が指摘
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人工衛星を通じて行われているインターネット通信に、セキュリティー上の弱点があり、通信の中身が漏えいする危険性があるほか、深刻なサイバー攻撃にも利用される可能性があることがわかりました。サイバーセキュリティーの国際会議で実態を報告したイギリスの研究者が対策の必要性を訴えました。
これは、オンラインで開かれている世界最大のサイバーセキュリティーの国際会議、「Blackhat」で、オックスフォード大学のジェームズ・パヴォー氏が日本時間の6日報告しました。

それによりますと、北米からヨーロッパ、中国にかけての地上およそ3万キロの宇宙空間にある放送用の人工衛星18機からの電波を市販のアンテナなどで受信し、独自に開発した方法で、通信データを分析したところ、18機すべてで、暗号がかけられずに通信が行われ、機密情報が見られる状態になっていたということです。

人工衛星を介したインターネット通信は、主に、通信基地がない山間部や、海上の船、飛行機などからの通信に利用されていますが、このうち船舶では、入国の際の乗組員と港湾当局とのやり取りで、パスポートの情報が見られたほか、航空機では、機内からネットを使って地上と会議をしている内容がわかる状態になっていたということです。

また、ヨーロッパの風力発電システムでは、システムを制御するためのログインページの認証情報が見られる状態になっていて、システムの乗っ取りなどのサイバー攻撃のおそれもあることが指摘されました。

パヴォー氏は、すでに関係する当局や企業に危険性を通知したものの、依然として対応が不十分なものが多く残っているとして、「衛星通信の安全対策は、10年ほど前から進んでおらず対策を急ぐ必要がある」と訴えました。

日本の衛星通信にもリスク

国の情報通信研究機構によりますと、人工衛星を利用した通信は、日本国内でも、航空機や船舶のインターネット利用サービスや災害現場での自衛隊や警察の活動の際の通信など、幅広く使われています。

こうした通信で、暗号化などの対策が十分でないと情報漏洩やシステムの乗っ取りのリスクがあるとして、国も対策を進めています。

宇宙サイバー攻撃リスクも

今回の発表では通信が傍受できることを悪用して、人工衛星自体が乗っ取られるといった深刻なサイバー攻撃のおそれも指摘されました。

宇宙空間のサイバーセキュリティー対策に取り組む三井物産セキュアディレクションによりますと、ここ数年、人工衛星が乗っ取られたり、通信を妨害されたりするサイバー攻撃が確認されています。

このうち、2008年には、NASA=アメリカ航空宇宙局の衛星を運用するシステムが乗っ取られ、この衛星には、日本の政府機関が利用している資源探査用の観測機器も搭載されていたということです。

また、2011年には、イランの情報収集のために活動していたアメリカのCIA=中央情報局のドローンが、衛星から受けていた位置情報の電波を改変されて、イランに捕獲されたということです。
三井物産セキュアディレクションの高橋康夫シニアリサーチャーは、「宇宙は夢のある空間だが、さまざまな形で利用が進む中で脅威が高まっていることをシステムを運用する側も、利用者も認識する必要がある」と話しています。

各国でより高度な安全対策を検討

人工衛星の通信の安全性を高めるにはどうすればいいのか。防衛や警察など、機密性の高い情報を扱う通信については、より高度な安全対策が求められていて、アメリカや中国をはじめ世界各国で検討が進められています。

日本では国の情報通信研究機構などが次世代の衛星通信で活用するため、原理的に盗聴ができない、量子暗号と呼ばれる技術の開発を進めています。

東京・小金井市に、研究開発の拠点が今年度中に設けられる予定です。

一方で、6日行われた発表で、オックスフォード大学のジェームズ・パヴォー氏は、現在、幅広く商用利用されている人工衛星の通信そのものをすべて暗号化することは、コストや技術面から容易ではないとしました。

そのうえで、暗号をかけられるメールソフトの利用などユーザー側でできる対策も必要だと指摘しました。