高級魚「サクラマス」の養殖 “ロケットの町”で新たな挑戦

高級魚「サクラマス」の養殖 “ロケットの町”で新たな挑戦
「サクラマス」をご存じですか。「サクラ」の名前で分かるように、主に春先に漁獲され、寿司ネタやソテー、フライなどになる、知る人ぞ知る高級魚です。このサクラマス、旬ではない冬に出荷するため、ことしから全国で初めてとなる養殖試験が始まりました。その場所は、ロケットの打ち上げでも知られる北海道大樹町。選ばれた理由は、独特の自然環境にありました。(帯広放送局記者 加藤誠)

秘密は海水温にあり

ベンチャー企業の民間ロケットの打ち上げ拠点として知られる大樹町。7月下旬、打ち上げ場の南側にある小さな港、旭浜漁港を訪ねると、岸壁のすぐそばの水面に生けすが設けられていました。
5メートル四方、深さ3.5メートルの生けすには、350匹のサクラマスが元気に飛び跳ねていました。サクラマスの養殖は、これまで「ます寿司」で有名な富山をはじめ、各地で行われていますが、出荷の時期は春です。

今回、大樹町で行われるのは、夏場に海面で養殖し、冬場に出荷するというもの。北海道の栽培水産試験場によりますと、この時期の海での養殖・出荷はこれまで成功例はなく、全国で初めてだということです。
難しいサクラマスの養殖にこの場所が選ばれたポイントが、まさに海水温です。取材したこの日の海水温は17.2度。道によりますと、夏場の最も暑い時期でも平均水温が20度を超えません。北から冷たい水を運ぶ親潮が港まで流れ込んでいることが理由の1つです。

また、沿岸部は冷たい海水で空気が冷やされ、曇りになることが多く、海水が日光で温められにくいことも要因として考えられるとのことです。海水温が18度以下だと餌の食いつきがよくなるサクラマスにとって、絶好の場所として着目されたのです。

養殖を始めた切実なワケ

養殖は、ことしから大樹町の若手漁業者およそ10人が試験的に始めました。
背景には、これまで主力だった秋サケの不漁があります。去年、道内での秋サケの水揚げ量は1522万匹と、この30年余りで最も少なく、ピークの平成15年に比べると4分の1にまで落ち込んでいます。

大樹町でも漁獲金額の半分を占めていた秋サケ。その厳しい不漁に直面して、新たな収益源としてサクラマスに目を付けたのです。
養殖を始めたことし5月下旬以来、1日1回の餌やりも慎重に行っています。気温を見ながら海水温を予想し、いちばん食べる時間帯に生けすに入れるなど細心の注意を払っています。

その結果、平均で19センチほどだった体長は、この2か月で30センチに成長しました。今後、45センチ、重さ1キロ程度にまで育てて、ことし12月に初めての出荷にこぎつけたいとしています。
高橋会長
「大樹町の海がサクラマスにとってちょうど居心地のよい水温帯だとは勉強するまでわからなかった。養殖はこれからきっと、盛んな事業になると思うし、それが大樹でできるというのは非常に大きい。親も漁師で、ずっとその姿を見て育ってきて、代替わりしても守っていかなければならない。悪い状況を変えられるようにぜひ頑張っていきたい」

生で食べられる!

地元の大樹漁協は、天然のサクラマスの旬と重ならないよう、年末商戦に照準を合わせています。
特に生で食べられるメリットをアピールするねらいです。餌が管理されている養殖は、天然物とは異なり、寄生虫の心配がないからです。加工も地元で手がけることで、地域への経済効果ももたらしたいと考えています。
伊藤専務理事
「秋サケの減少で、漁業者に加え、仲買人、関係団体、加工会社や、資材会社が年々厳しくなっている。サクラマスに期待する気持ちは大きい。ただ市場に出すのではなく、うちの工場で加工しながら、大樹のブランド品、名産品にしたい」

地域の新産業に

期待は地域の飲食店の間にも広がっています。
帯広市でサクラマス料理を扱う店では、大樹町での養殖の話を聞き、定番のます寿司の中に、地元産のチーズをはさみ、山ワサビを添えている一品を考案しました。
青木料理長
「サクラマスは脂がのっていながら、くせがなくさっぱりして上品。和洋中でも、食材と組み合わせても万能で、私は『女王様』のようなイメージです。天然物が出回る期間が短いのですが、養殖されて安定して入るようになればぜひ使いたい」
秋サケの不漁という苦境から始まった、今回の挑戦。失った利益をサクラマスの養殖が補うには、まだまだ時間がかかりそうですが、漁業関係者からは、今後の可能性に確実に手応えを感じている様子がうかがえました。

初めての出荷まであと4か月。サクラマスが地域の新しい産業の創出につながっていくのか、注目していきたいと思います。
帯広放送局記者
加藤誠
平成21年入局
毎週火曜日放送の「ナットクとかちch!」で地域のお悩み解決を取材