コロナ対策で3割の避難所が収容制限 豪雨被害4県でアンケート

コロナ対策で3割の避難所が収容制限 豪雨被害4県でアンケート
九州北部や東海などで甚大な被害となった先月の豪雨で、NHKが特に被害の大きかった熊本、福岡、大分、岐阜の4県の避難所を対象にアンケートを行ったところ、新型コロナウイルスの感染対策として避難者の受け入れ人数を制限し、廊下やロビーなど避難スペース以外で対応したケースが3割に上りました。感染対策をしながら住民の安全をどう確保するか、改めて課題が浮き彫りとなりました。
NHKは、先月下旬から今月上旬にかけて、熊本、福岡、大分、岐阜の4県で、避難所の担当者を対象に新型コロナウイルスの感染対策などについてアンケートを行い、143か所から回答を得ました。

このうち避難所で受け入れられる人数、収容人数については、全体の31.4%が「制限を設けた」と答えました。

また、従来の避難スペース以外に寝泊まりをした人がいたと回答した避難所が31.2%ありました。

具体的には「避難所の廊下」や「ロビー」「学校の音楽室」などとなっています。

さらに、24.4%の避難所では「感染症対策を理由に、車の中など避難所の建物以外で過ごした避難者がいた」と回答しています。

中には「子どもは避難所、親は車中と分かれて過ごしていた」というケースもありました。
また、避難所の対応について豪雨の前に訓練したか尋ねたところ、「実践型の訓練をした」が24.8%、「机上で手順を確認した」が48.9%、「訓練はしていない」が26.2%でした。

回答では、段ボールベッドや支援物資で避難スペースが埋まってしまい、想定の半分から3分の1程度しか収容できなかったとか、初めての経験で訓練が必要だと感じたといった声が多く寄せられました。

今回の豪雨では、大分県や岐阜県の避難所で避難した人が入りきれず、別の場所に再避難したケースもあり、新型ウイルスの感染拡大が続くなか、台風などのシーズンを前に、実際の運営を想定した事前の計画づくりや訓練の必要性が改めて浮き彫りとなりました。

調査結果について、災害時の避難所の運営に詳しい東京大学大学院の松尾一郎客員教授は「従来の避難所は3密であり、ソーシャルディスタンスを保つためには収容できる人数が3分の1に減ってしまうなど、実際にやってみないとわからないことも多い。本格的な台風シーズンが来る前に自治体は実践的な訓練を行い、円滑な避難所運営につなげる必要がある」と話しています。

避難所担当者の自由記述から

新型コロナウイルスの感染防止対策と避難者の安全確保の両立という初めての対応について、アンケートでは避難所の運営担当者が感じた率直な印象や課題を自由記述で答えてもらいました。

資材準備も活用できず 事前訓練の必要性

まず、多くの意見が寄せられたのは「事前の準備や訓練」の重要性です。

今回、65.7%の避難所では「感染症対策をする上で足りない物資はなかった」と回答し、段ボールベッドや仕切りなどを事前に準備していたところも多くありました。

ところが、実際の災害時には「段ボールベッドや仕切りを設置するためには想定以上にスペースが必要となり、結局、設置できなかった」とか「2メートルの間隔が必要だが、支援物資や段ボールベッドでスペースが埋まる。想定の3分の1くらいしか避難者を収容できないと思った」などと資材があっても十分に活用できないケースがあったことが分かりました。

また、対応を事前に決めていた避難所で「マニュアルでは1人ずつ囲いを作るとなっているが、避難者が急増し、準備できなかった」と対応に課題をあげた人もいます。

ところが、こうした事態に備えるため、本番と同じ手順で避難所の運営を確認する「実践型の訓練」を事前に実施していた避難所は、全体の4分の1の24.8%にとどまりました。

今回の教訓についての記述では「誰もが初めての経験であり訓練が必要だ」など「感染拡大から時間がなく、事前に訓練をしておくべきだった」といった意見が数多く寄せられ、ふだんから災害を想定した具体的な訓練を行うことが大事だとしています。

安全確保と感染対策 どう両立するか

続いて、課題として多かったのは「避難した人たちの安全確保と感染対策」の両立です。

避難所では、多くの人たちが安全な場所を求めて避難し、地域の人たちと一緒に寄り添いながら過ごすことで災害時でも安心して過ごすことができます。

ところが避難所ではそうした関わりが、いわゆる「3密」の状態を作り出しやすく、今回のケースでは、「ご近所どうしが長時間話していた」「危機感が薄く、高齢者の1割はマスクを外していた」など、避難所の中で互いの距離を保つよう促すことに苦慮したという意見も見られました。

避難所を支えるスタッフの支援も課題に

そして最後は、避難所を支える「職員たちの負担」です。

多くの避難所では避難所の運営は自治体の職員が担当します。

アンケートでは通常の運営業務に感染症対策も加わることで仕事の量が増えるだけでなく、避難者と接することによる“心理的負担”も増大していたとの回答も目立ちました。

具体的には「感染症対策に完璧な対応をしようとすれば明らかにキャパシティを超えてしまう」とか「職員の人数が足りない」「発熱した人が避難してきて別棟で対応することとなった場合、今の態勢で対応できるのか不安」「感染のリスクと戦いながら対応」などといった声が寄せられました。

また、今後必要な対策としては「在宅での避難や民間施設にも協力してもらい、避難者を分散させる必要がある」や「このような状況下では、家族や親族間で身を寄せることが現実的」として、できるだけ避難所以外の場所への避難も促すべきだとしています。

一連の豪雨の対応にあたり、大分県のある避難所の担当者は、「いままでは『場所を提供する』の意識で避難所の鍵を開けることが主な仕事だったが、今回、意識を変えることが必要だと思った」と話しています。

これから秋にかけて本格的な台風シーズンを迎える中、新型コロナウイルスの感染対策の必要性も引き続き、重要な課題となっていきます。

災害から命を守るために、避難所の運営担当者が感じた『事前の準備の重要性』や『職員の負担』の課題を教訓としていく必要があります。

専門家「知見を共有して」

アンケートの結果について、災害時の避難所の運営に詳しい東京大学大学院の松尾一郎客員教授は「自然災害と感染症の2つが同時に進行する、いわば複合災害と言える。今回は、あまりにも準備期間がない状況の中で災害が発生したため、対応に苦慮した自治体は多かったと思う。従来の避難所は3密であり、実際に運営をやってみないとわからないことも多い。自治体は、事前に実践的な訓練を行い、円滑な避難所運営につなげる必要がある」と指摘しています。

そのうえで「豪雨や台風、地震などはいつでも起こりうる。全国的に感染症がまん延する中で、避難所の対応で何が課題だったのか、ぜひ、今回の経験で得た知見を全国の自治体で共有して、対策にいかしてほしい」と話しています。

想像以上の避難者でマニュアルの対応できず 福岡 大牟田

福岡県大牟田市では、ことし6月に避難所での新型コロナウイルス対策のマニュアルを作成していました。

マニュアルでは、避難者を受け入れる際に手の消毒やマスクの配布を行い、検温や健康状態の確認を行ったうえで、感染の疑いがある人とそうでない人で避難スペースを分けることが定められています。

また、避難スペースでは避難者どうしの間に間仕切りを設置するなどして、避難者どうしが密にならないようにすることが定められていました。

大牟田市では、避難所ごとに職員など3人を配置していました。

しかし、先月の豪雨では、短い時間に大雨が降ったことで、多くの避難者が短時間に避難してきたため、マニュアル通りの受け入れをできなかったり、想定した人数を大幅に超える人が来たことで、十分なスペースを確保することができなかったりした避難所が多かったということです。

大牟田市防災対策室の栗原敬幸室長は「大雨にはある程度対応できるのではないかと思っていたが、想像していた以上に短時間で避難者が来たので対応が難しくなった。一人一人が避難するときに感染対策を準備をして避難してもらうとともに、身の回りで危険な状況を感じたら、早め早めの避難を心がけてほしい」と話していました。