霞が関の就活に異変 “事前面談”に広がる困惑

霞が関の就活に異変 “事前面談”に広がる困惑
国家公務員の総合職の採用試験は、コロナ禍でことしは延期を余儀なくされました。官僚志望の学生たち、「きっと大変だろうな」と思っていると、ツイッター上で気になる書き込みを見つけました。
「事前面談会はまんま官庁訪問でした」
これはいったいどういうことなのか、取材することにしました。
(霞が関リアル取材班 荒川真帆)

コロナ禍で総合職試験の時期、大幅見直し

まずは国家公務員になるための採用活動を簡単に整理します。
いわゆるキャリア官僚と呼ばれる総合職の場合、1次試験のマークシート試験、さらに2次試験の筆記試験などに合格すると、「官庁訪問」と呼ばれる面接に進みます。
この「官庁訪問」というのは、官僚を目指す学生が、希望する官庁で、志望動機や自己PRなどを行う、民間企業の面接試験のようなもので、これを経て、ようやく内々定を得ることになります。
しかしことしはコロナ禍により、例年春に実施される試験が7月5日に延期されたため、そのあとの「官庁訪問」も、7月下旬へと大幅に後ろ倒しになりました。

事前面談会って何?

コロナ禍で採用スケジュールを見直しているのは、民間企業も同じです。ただ、ここ数年、官僚の志望者は減少し続けているので、霞が関も採用が遅れて大変だろうと思っていると、ツイッターなどのSNS上でこんな気になる書き込みを見つけました。
「事前面談会はまんま官庁訪問でした」
「事前面談会の制度そのものに疑問を抱いてしまうし、国家公務員がルールを守らなくて誰が守るのって言いたくなる」
『事前面談会』?初めて聞いた単語です。
そこで、人事院などのホームページを調べてみると、ありました。
そこには、事前面談会というのは、「コロナ禍で受験生に不安を与えているので、その不安を解消し、役所の職員が直接学生と話して理解してもらう」などと、そのねらいが書かれていました。
さらに、
開催時期は1次試験の前
採用に向けた選考は一切行わない
「事前面談会」への参加が「官庁訪問」で優遇されることはない
と記されています。
つまり、正規の「官庁訪問」と違って、採用に直結する面接ではないと明記されています。
それなのに、どうして参加した学生たちからさきほどのような声があがったのでしょうか?

参加した学生に直撃、何を感じた?

そこで、参加者にアプローチしたところ、この「事前面談会」に参加したという1人の女子学生が取材に応じました。
女子学生
「面談会はオンラインもありましたが、対面でも行われました。1日がかりで行われ、遅いときには終電間際までかかることもありました」
そのスケジュールを教えてもらうと…
(ある省庁での一日)※女子学生の話より
▽午前9時ごろ スタート
▽面談会担当者との面談 15分程度
▽現場職員との面談(その1)1時間前後
▽現場職員との面談(その2)1時間前後
▽現場職員との面談(その3)1時間前後
▽面談会担当者との面談 15分程度
▽人事課などの職員と面談 30分~1時間程度
志望動機や今の社会課題の解決方法などについて、長い時には2時間近くも議論。若手から上は局長級まで、多い日は6人ほどの職員と面談したといいます。
「筆記試験も通る前の学生に、そこまでみっちりやるのか」と驚いていると、この女子学生はさらにこんなことを口にしました。
女子学生
「職員の人たちは丁寧に話を聞かせてくれましたが、一方で違和感も感じました。『採用、選考には一切関係ない』という説明だったのですが、実際にはそうではないと思うことがあったからです」

浮かび上がった疑問

最初に人事院のホームページを紹介しましたが、筆記試験の合格者が対象となる「官庁訪問」と違い、「事前面談会」は、あくまで説明会であり、採用とは関係ないはずです。
しかし、取材に応じた学生によると、評価を言い渡される場面があったといいます。
女子学生
「面談会の終盤に『あなたは極めて高い評価です』と言われました。『(評価が高いので)就活はもう辞めて大丈夫です』『ほかの省庁には行かないでいいですよ』と内々定に近いことをほのめかされた友人もいました。私も、ほかにどの省庁を受けようとしているかを職員から聞かれて、『うちのほうがおもしろいことができる』などと他省庁に行かないよう、強く説得される場面もありました。前日に面談した省庁から電話がかかってきて、きょう訪ねた省庁では何を聞かれたのかと、根掘り葉掘り聞かれることもあったんです」
これらはルールから逸脱しているのではないか?
学生向けのガイドには、面談会に違反があったら通報するようにとまで、書かれていました。
「事前面談会の運営方法に違反するおそれ。速やかにいずれかの府省等に通報してください」
そこで、「役所に指摘しなかったのですか」と尋ねると、取材に応じた女子学生は、こう言いました。
女子学生
「確かに面談会のガイドにはおかしな運営があれば通報するようにと書いてはあるのですが、通報先は各省庁です。今後の採用に不利になってしまうかもと思うと、とても言えませんでした。省庁に魅力を感じなくなり、民間の就職に切り替える学生もいました」

省庁に聞いてみたら

この悩みはもっともです。そこで、私から各省庁の人事担当者に、これらの疑問を聞いてみると、あくまで採用に関わる面談会ではなかったという回答が返ってきました。
農水省
「省に入ってうまくいくかどうか、あるいは違う方向に進んだほうがよいのではないかとアドバイス的に行う場だった」
経産省
「あくまでマッチングの場であり選考ではない」
総務省
「学生が不安になっているなかで早め早めに省庁側との距離を詰めるような場が必要だった。1対1で対面し、リアルにお互いのことを知る大事な機会だった」
厚労省
「官庁訪問がスムーズに行われるように、面談会でマッチングを進めることが目的だった」

ホンネとタテマエ

しかし、もう少し突っ込んで聞くと、省庁名は明かさない前提で、こんな本音を口にした担当者が複数いました。
男性官僚A
「学生を絞りこんでいくという意味では、採用の側面があるとは思います」
男性官僚B
「『きょうここで決めてください』と学生に迫ったり、本人への評価を口にしたりと、そんな言葉が飛び交うこともあったようです。事前に決めたルールがなし崩しになり、のりを超えてしまったところがあると思います。学生が戸惑いや憤りを感じたことについては申し訳ないと思います」
男性官僚C
「全体の採用日程が後ろ倒しになったことで、民間との引き合いが特に強い省庁を中心に、今回は学生を引き止められないという危機感から始まった面談会だった。ある意味、事実上の採用活動で官庁訪問が前倒しされてしまったような面もあると思います」

全体をまとめる人事院は…

取材して感じたのは、霞が関の焦りです。
今年度の総合職採用試験の受験申し込み者数は、1万6000人余り。
今の試験制度になった2012年度以降、過去最低となりました。
最後に、取材で分かった事前面談会の実情を人事院に説明すると次のような回答が返ってきました。
人事院担当者
「官庁訪問の場合は、人事院と各府省等で連携してルールを作りますが、事前面談会は初めての前例のない取り組みで各府省が申し合わせて取り組んだもので、人事院が音頭をとったわけではありません。具体の運用は各府省に任せ全体の詳細はこちらで把握はしていませんでした。もし本当に学生への評価や深夜の拘束などがあったとしたならば問題だと思いますし逸脱していると思います。来年以降この面談会をやるかどうかは全く分かりませんが、学生を混乱させることは避けなければいけません。その在り方についても考えていかなければいけないと思います」
かつてはエリートたちがこぞって目指した霞が関ですが、時代は変わり、よい人材を集めるのは一苦労だといいます。
しかし、なんと言っても国家公務員の採用試験です。
公正さとともに、学生にとっても納得がいくよう心がけてほしいと思います。