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ロシア 抗議活動3週間余 収束めど立たず 1日も極東など各地で

ロシアで、プーチン政権与党と距離を置く極東の知事が逮捕されたことをきっかけに、3週間余り続いている抗議活動は、1日も極東など各地で行われ、政権側は事態の鎮静化を図ろうとしていますが、収束のめどは立っていません。
ロシア極東のハバロフスク地方では先月、政権与党と距離を置く極右政党のフルガル前知事が、15年以上前の殺人事件などに関与した疑いで逮捕されたことを受けて「政治的な圧力だ」などとして、地元の住民や野党勢力が3週間にわたり抗議活動を続けています。

ハバロフスクでは1日も、中心部の大通りで抗議デモが行われ、地元メディアによりますと、1万人以上が参加して前知事の保釈や公正な裁判を求めるとともに、「プーチン大統領は退陣しろ」などと声を上げていました。

参加した女子学生は「社会の不満のレベルが高いので、抗議に多くの人が参加している。政府は私たちの声に耳を傾けるべきだ」と話していました。

プーチン大統領は、フルガル氏を解任して、同じ極右政党の下院議員を知事代行に任命し、地元に追加予算を割り当てる意向を示すなどして事態の鎮静化を図ろうとしています。

しかし、抗議活動は極東やシベリアのほかの都市で行われたほか、ロシア西部でも予定されるなど広がりを見せていて、収束するめどは立っていません。

連日続くデモ

フルガル前知事は先月9日、公用車で移動中に突然、治安機関に拘束されて、そのまま、航空機で首都モスクワに移送され、15年以上前の殺人事件などに関与した疑いで逮捕されました。

治安当局から頭を押さえつけられて連行される映像が流れると、地元の支持者らは「政治的な圧力による見せしめだ」と強く反発し、抗議活動は先月11日から3週間にわたって続く異例の事態となっています。

地元当局は新型コロナウイルス対策を理由に、抗議集会やデモの開催を許可していませんが、参加者らは「広場のはとに餌をあげるため」との名目で集まって、毎週土曜日には数万人規模の抗議デモが行われています。

これまでのところ、治安当局も多数のデモ参加者の拘束などは行わず、当面は情勢を見守る構えです。

抗議活動には、プーチン政権を強く批判してきた野党勢力も加わり、極東の中心都市ウラジオストクやシベリアの都市など各地にも広がって、長期政権に対する不満が地方で高まっていることをうかがわせる形となっています。

フルガル氏とは

逮捕されたフルガル前知事(50)は、ロシア極東アムール州出身で、2000年代には木材や金属を取り引きする会社を経営し、その後、ハバロフスク地方議会の議員や下院議員を務めました。

おととし行われたハバロフスク地方の知事選挙では、極右政党「ロシア自由民主党」から立候補し、プーチン政権与党「統一ロシア」の現職との争いとなり、決選投票の結果、得票率69.57%で、27.97%の現職に大きな差をつけて圧勝しました。

ロシアの州や少数民族の共和国、モスクワなどの大都市では、プーチン大統領に指名された政権与党出身のトップがほとんどで、ほかの政党出身の知事は数少ない存在です。

フルガル氏は知事就任後、みずからの報酬を削減し、地元政府が所有していたヨットや高級車の売却を決めたほか、SNS上で住民と頻繁に対話して医療や教育の拡充などを訴え、さらに支持を広げました。

去年行われた地元の議会選挙でも、フルガル氏の支持基盤「ロシア自由民主党」が躍進し、政権与党は大きく議席を減らしました。

そして、先月1日に行われたプーチン大統領の続投を可能にする憲法改正の全国投票では、全国平均に比べて、投票率は低く、反対票は10ポイント以上も高い36.64%で、ほかの地域に比べて政権への反発が際立つ形となりました。

プーチン政権は、軍事パレードを行って愛国心を高め、国営メディアを総動員するなどして憲法改正への支持を訴えてきただけに、政権にとって満足のいく結果を出さなかったフルガル氏に対して不信感を強めたとみられています。

なぜデモ続く?その背景とは

ロシア極東で異例の抗議活動が続く背景には、蓄積されてきたプーチン政権や首都モスクワに対する根強い不満があります。

ロシア極東はロシアの3分の1余りの面積を占める一方で、人口は600万人余りと4%にすぎず、プーチン政権は、この地域の開発を国の優先課題と位置づけてきました。

しかし極東では、住宅や医療をめぐる環境は、首都モスクワに比べると立ち遅れ、中央と地方の格差が大きな課題となっています。

また、地元にある石油やガス、森林などの豊富な資源は、モスクワに拠点を置く大企業が管理し、地元はその恩恵を十分に得ていないという不満もあります。

プーチン大統領は、極東の生活レベルを全国平均よりも高くすると繰り返していますが、ハバロフスク地方では去年、1700以上の中小企業が閉鎖に追い込まれるなど、経済状況は改善していません。

抗議活動に参加している技術者のリャボフさんは、70年前に建設された古いアパートに住むことを余儀なくされていて、プーチン政権が約束した建て替えも実現していないと批判しています。

リャボフさんは「ロシア政府の計画は口先だけのもので、市民は納屋のような家に住み続けている。私たちの状況に政府は背を向けている」と述べ、地方の声に耳を傾けるよう訴えています。

抗議活動をきっかけに、これまでに蓄積されてきたプーチン政権に対するさまざまな不満が一気に噴き出し、ほかの地域にも広がる要因となっています。

プーチン政権 一丸となって地元の不満抑え込む構え

プーチン大統領は事態の沈静化を図ろうと、先月20日、フルガル知事を「信頼の喪失」を理由に解任し、同じ「ロシア自由民主党」の下院議員で39歳のデグチャリョフ氏を知事代行に任命しました。

プーチン大統領はデグチャリョフ知事代行と会談し「あなたは非常に若いが、質の高い教育を受け十分な政治経験を積んでいる」と、カメラの前で称賛して送り出しました。

さらにプーチン政権は、デグチャリョフ知事代行が率いるハバロフスク地方政府へのてこ入れに乗り出し、ミシュスチン首相が23日、13億ルーブル(およそ18億円)の追加予算を割り当てる意向を示しました。

また、ノバク・エネルギー相が24日現地入りし電気代やガソリン代を値下げする計画について知事代行と意見を交わすなど、プーチン政権が一丸となって地元の不満を抑え込む構えです。

デグチャリョフ知事代行もハバロフスク地方の各地を訪れ、フルガル前知事の政策を踏まえて住民のニーズに合わせた政策を進めるとアピールし、地元に歩み寄る姿勢を見せています。

しかし、フルガル氏の支持者らは、デグチャリョフ知事代行について「地元と何のつながりもなく、フルガル氏と同じ政党とは言え、政権側が送り込んできたよそ者だ」として強く反発しています。

専門家は

ロシアの内政に詳しい政治学者のニコライ・ペトロフ氏は、フルガル前知事が逮捕された背景について、おととしの知事選挙で政権与党「統一ロシア」の現職知事に圧勝し、地元でプーチン大統領を上回る支持を得ていたことを挙げています。

これについて、ペトロフ氏は「かつて中央政府は、多額の資金を分配することで、地方に強い忠誠心を要求することができた。しかし昨今の経済危機によって資金が減少し、地方の忠誠心を金で買うこのやり方は、もはや機能しなくなっている」と分析しています。

その一方で、「ロシアでは、すべての重要な決定は首都モスクワで下され、クレムリンにとって中央集権を維持することが何よりも重要だ」と述べ、プーチン政権の意向に従わない地方の動きは許されないと指摘しました。

そして、ペトロフ氏は、ことし9月に統一地方選挙、来年秋に下院選挙が予定されていることを挙げ「プーチン政権は選挙に向けて、『われわれのルールに従え』というシグナルを、地方の政治エリートに送っている」と述べ、今後、地方への政治的な圧力はさらに強まるとしています。

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