フレンチトーストはなぜバズったのか?

フレンチトーストはなぜバズったのか?
フレンチトースト好きですか?この料理の意外な作り方を解説したテレビ番組を、ちょっとしたことばを添えて紹介したツイートが注目されています。でもそれだけで注目されるの?とも思いました。「目の付けどころ」「共感ポイント」「秘けつ」はどこにあるのか?フレンチトーストから考えました。(ネットワーク報道部記者 有吉桃子 松井晋太郎 鮎合真介)

家庭科で学びたかった!

ツイッターより
「NHK『フレンチトーストを作る際、牛乳と卵を混ぜた液にパンを浸しがちです。でも卵が混ざると染み込みにくくなる上に、卵に火が通らないと生臭くなります。牛乳と砂糖を混ぜた液にパンを浸し、卵液はフライパンでパンを焼く際に上からかけましょう』私は…こういう知識を…!家庭科で学びたかった!」
投稿したのは2人の男の子を育てながら都内で働いている「おたまさん」です。在宅勤務の日、お昼休みを取りながら番組を見ていて、こんな作り方があるのかと驚き、思わずテレビ画面をスマートフォンで撮影したそうです。
そして、自分のメモ代わりにもと冒頭の文章とレシピを投稿しました。投稿翌日の昼には、8万以上リツイートされ、36万のいいねがつきました。

番組担当者も驚いた!

「まさかSNSを使っている世代を中心にこれほど話題になるとは思っていませんでした」
この反応にいちばん驚いたのはNHKの番組「ひるまえほっと」を制作した担当者かもしれません。

料理はこの番組のコーナーの1つ「かんたんごはん」の中で30日に紹介されたもので、正式な料理名は「レーズンパンのパンペルデュ」です。手軽にできる料理を紹介して昼ごはんやおやつに作ってもらえたらと制作しているコーナーです。
松本エグゼクティブプロデューサー
「今回注目されたのは大変ありがたいことです。若い世代にも見てもらえるようなレシピのほか、在宅で仕事をすることも多くなると思うのでそういった人も意識した提案をしていきたいです」

なぜバズったのか?

それにしてもフレンチトーストの作り方だけでなぜここまで共感が集まるのでしょうか?ツイートをしたおたまさんに話を聞くと次のように分析してくれました。
1『フレンチトースト自体が持つ力』
「フレンチトーストを好きな人が多く、『これは』というレシピを持っていたり、映画『クレイマー、クレイマー』のワンシーンなど『フレンチトースト』ということばを見ると何かしら言いたいことが出てくる人が多かったのではないでしょうか」

2『驚き、そして知らせたい』
「今までと同じ材料で単に順番を変えるだけというレシピの簡単さへの驚きとそれをほかの人にも教えたいという思いでいいねなどをした人も多かったのではないでしょうか」

3『共感性』
「NHKでこんなことを言っていたと紹介しただけではここまで“バズらなかった”かもしれません。字数が余ったので私は“感情”を加えました。要はもう少し早く知りたかったという感情を具体的にして、『家庭科で学びたかった』と書きました。感情があると共感を得やすく、さらに今回の場合は多くの人が“家庭科”に対していろんな思いを持っていたということもあるのではないでしょうか」

それは映画から教わった

ツイッターより
その昔、中学の社会の授業でクレイマー・クレイマー見てから、フレンチトーストには強烈な想い入れがあり、定期的に食べたくなります。せっかくなら上手に作りたいのでこの情報ありがたいです
おたまさんの投稿にこうコメントしたのは、大阪府に住む41歳の会社員、石倉誠一朗さんです。石倉さんは子どものころからフレンチトーストを食べるのが好きだったそうですが、そのきっかけを作ったのが、映画「クレイマー、クレイマー」でした。

1979年に公開されたアメリカ映画で、妻の自立や父子家庭、それに離婚や親権といった現代社会が抱える問題を描いた名作です。
この作品に登場するのが、ダスティン・ホフマン演じる夫が息子にフレンチトーストを作るシーンで、はじめはうまく作れません。しかし、映画の最後に、息子と一緒になってフレンチトーストを作り上げるシーンは、見る人の心を動かします。
石倉さん
「中学の現代社会の授業でこの映画を見ました。それがきっかけで母親に作ってほしいと頼んで食べたのが最初です。以来、自分でもよく作って食べていました。現在、3歳半の息子がいますが、息子が離乳食を終えたあと1歳半までは、固いパンに移行するまでよくフレンチトーストを食べさせていました」
そんな石倉さんがおたまさんの投稿に反応した理由は、やはりその作り方でした。
石倉さん
「映画でも牛乳と卵は混ぜて作っていましたし、これまで見たレシピも、混ぜるものが普通だったと思います。卵だけ別に分けるという発想がなかったので驚いたのと、せっかくならおいしいフレンチトーストを作りたいし、試してみたいとの思いでコメントしました」

身近さと家庭科の記憶

さらに石倉さんはおたまさんの投稿が注目された理由として「身近さ」「家庭科」というキーワードも挙げてくれました。
石倉さん
「フレンチトーストって適度に身近な食べ物なんですよね。もっといい作り方があるってことに皆さん反応したんじゃないでしょうか。また、家庭科については男女の差もあると思います。私が中学生のときは、男子は技術、女子は家庭科と授業が別れていて、男子が家庭科で料理を学ぶ機会はほとんどありませんでした。いま振り返れば、私も家庭科で学んでみたかった。そうした家庭科をめぐる男女の差や考え方、価値観など、さまざまな軸がこのフレンチトーストのツイートにはあり、それに皆さんが反応したのだと思います」

“かんたんごはん”ではなかった

それにしてもなぜ今回、卵をあとでかけるフレンチトーストの作り方を紹介したのか。番組に出演したフードコーディネーターのナガタユイさんに話を聞きました。
ナガタさんによるとフレンチトーストは、本場フランスでは「パンペルデュ」と言われ、「失われたパン」という意味だそうです。日がたって乾燥してしまった「失われたパン」でも、こうすればおいしく食べられるということからその名が付いたそうです。

ナガタさんは、子どもの頃に母親に作ってもらったフレンチトーストが焦げていたり卵臭さがあったりでずっと違和感があった事や、フランスで食べたフレンチトーストがおいしかった事から「ラルース料理大事典」というフランス料理のすべてが書かれている本を手に入れて調べたそうです。
するとそこには、牛乳と砂糖と卵をすべて混ぜてからパンに浸すのではなく温めた牛乳と砂糖をパンに浸して後から卵をからめて焼く手順が書かれていて、実際に作ってみるとおいしかったということです。つまり、今回は「かんたんごはん」ではなく「正統ごはん」だったのです。

ナガタさんはふだん、SNSはやらないということですが「話題になっているのはうれしいです」と語ってくれました。
ナガタさん
「番組が放送された時間は学校や仕事で忙しい時間なのに、これだけツイッターで拡散されていることにびっくりしています。今は新型コロナの影響で外で食事をする機会が減っている中、スーパーマーケットで簡単にそろう食材でおいしい料理が出来ることで、食の楽しみも実感してもらえたのではないでしょうか。また、かつて家庭科の授業では、与えられた食材でみんな同じものを作る事を教わりました。でもパンと卵と牛乳は、フレンチトーストにもなるし単純にバタートーストに牛乳、目玉焼きにもなる。オムレツを挟んでサンドイッチにもなる。食材と食材をつなぐフードコーディネーターとして本当のおいしさを追求していきたいです」

きっかけは出産でした

日常生活の風景にちょっとしたひと言を添えて広まる共感。最初にツイートをしたおたまさんに聞くと、10年以上前からツイッターを使っていますが、その使い方が変わったきっかけは出産だそうです。

最初は“リアル”な友人とのやり取りや公式アカウントのフォローをしている程度でした。でも、子育てでなかなか自由に外に出られない中でも、社会とつながりたいと、ほかのママと育児の大変さや知識、子育ての“あるある”などを情報交換をするようになりました。

おたまさんはこれまでも、子どもの事故や児童手当に関するもの、ラジオ体操や食べ物に関することなどを投稿していて、その内容が注目されるようになりました。

共通するのは生活感のある身近な話題であること。育児中で忙しくても隙間時間で見られるSNSは非常に重要な情報収集手段となっていて、自分でも大切だと思う情報などを積極的に発信することにしているそうです。
おたまさん
「気をつけているのは『日本人は…』などとあまり主語を広げて批判しないことと思っています。新しいことを知った驚きや、ほかの人にも知らせたいと思ってもらえるもの、共感を呼ぶもの、そうしたツイートが多くの人に受け入れられるのではないかと思います」
簡単と思いきや実は奥が深いフレンチトースト。ネット記事を書く私たちにもその秘けつは深くしみこみました。