生と死で揺れ続けた ~反響を呼ぶ 難病と生きる詩~

生と死で揺れ続けた ~反響を呼ぶ 難病と生きる詩~
ALS患者の嘱託殺人事件をめぐり、ネット上には安楽死や生死をめぐる意見が盛んに投稿されています。こうした中、ある難病患者の詩が反響を呼んでいます。絶望的な心境に何度も襲われながらも死を思いとどまったという作者を取材しました。(ネットワーク報道部記者 田隈佑紀)

反響を呼んだ詩

7月23日、全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病、ALSの女性患者の依頼を受けて、薬物を投与し殺害したとして、医師2人が逮捕されました。

逮捕翌日、ツイッターに投稿されたある詩が、注目を集めました。
詩集『点滴ポール 生き抜くという旗印』より

「貧しい発想」

管をつけてまで
寝たきりになってまで

そこまでして生きていても
しかたがないだろ?

という貧しい発想を押しつけるのは

やめてくれないか

管をつけると
寝たきりになると

生きているのがすまないような
世の中こそが

重い病に罹っている
投稿は反響を呼び、リツイート数は5000、「いいね」の数は1万6000を超えています。

投稿したのは、詩人、岩崎航さん(44)。全身の筋力が衰えていく進行性の筋ジストロフィーを患い、24時間ベッドの上で過ごしています。

「貧しい発想」は2013年に出版された詩集に収められています。今回の事件の全体像はまだ解明されていませんが、これを機に難病などに苦しむ人たちへの支えについて広く社会で考えてほしいと改めて投稿しました。

病に絶望し、死のうと思った

岩崎さんは介助を受けながら仙台市で両親と暮らしています。ビデオ通話で話を聞きました。
岩崎さん
「事件にはすごくショックを受けました。どうしても寝たきりになるような病になると『そういう身体になって生きていてもしかたがないのではないか』と、本人だけでなく、周りがそういう意識を持つ風潮のようなものが根強くあると感じています。自分の経験から、死を選ぶ選択肢だけじゃなくて必要な手助けさえあれば生きる希望を持てる可能性があるというのを多くの人に知っていただきたいという思いが強くありました」
岩崎さん自身は3歳のときに発症。できないことが増えていく根本的な治療法がない病に何度も絶望し、死を選ぶところまで追い込まれたといいます。
詩集『点滴ポール 生き抜くという旗印』より

かつて僕は、自分で自分の命を絶とうと思ったことがある。十七歳のときだった。前途には何の希望もないように思えた。家人のいない、ある午後、目の前にナイフがあった。これですべてが楽になるのかなあと、ふと考えた。涙が止めどなく溢れた。
その場はなんとか踏みとどまりましたが病気はさらに進行し20歳をすぎてから寝たきりの状態になりました。
鼻から管を入れての経管栄養と人工呼吸器の使用を始めてからは、激しい吐き気に悩まされる日々が4年も続きました。
詩集『点滴ポール 生き抜くという旗印』より

吐き気というのは、それがあまりにも強く長く続くと、思考も気力も奪い去っていく。生きていく意志そのものすら奪い去っていくような恐ろしさがある。「地獄とは、こういうものか」と僕は思い知ることになった。(中略)僕は生きる執着を失いつつあった。「もう何も望まない。どうしてこんなに苦しまなければならないのか。僕は、もうただ静かに余生を送りたいだけなんだ!」
終わりの見えない、地獄のような苦しみの中で、生きていく意志を見いだせたのは、そばで支えてくれる人の存在でした。
詩集『点滴ポール 生き抜くという旗印』より

悔しくて、辛くて、涙が止まらなかった。母は、黙って僕の背中をさすり続けた。あるとき、その地獄のまっただ中で、僕の中にパチンと何かが弾けるような一つの感情が生まれた。(中略)僕の苦しみを自分の苦しみとして、そこにいてくれる人の存在。そう思うと、ポロポロと涙がこぼれてきた。「お母さん、ありがとう。僕は、がんばるから」震えながら、背中の母にそう言った。この母のためにも、僕は絶対に負けない!心の中で、そう誓った。

何も言わずに
さすってくれた
祈りを込めて
さすってくれた
決して 忘れない
何でもいいから自分にできることをしようと考えるようになった岩崎さん。詩の創作を始めました。

死ぬことだけが希望にならない社会を

今回の事件で、女性患者は病状に苦悩し死を選んだとみられています。岩崎さんは本人の選択自体を否定できるものではないし、絶望する気持ちは痛いほどわかるとしています。

一方、今「死にたい」と思っている人も、自分自身がそうだったように時間はかかるかもしれないが人との関わりの中で「生きたい」という気持ちに変化することがあるーー岩崎さんはまずはできるだけそうした可能性を支える社会であってほしいと話します。
岩崎さん
「最近は、生産性とか、役に立つとか、何かができるかできないかとか、経済の効率性というところで、人の価値が決めつけられてしまう風潮が強まっているのを感じます。自分自身も、自殺を考えていたとき、病を持った身では生きていても不幸なだけだと決めつけていたのは、そういう考えになっていたからだと思います。今もこの全身動かない病を持つがために苦しいことがありますし、つらいことも多いです。人の手を24時間借り続けなければいけない状況が一生続くのかと思うと、弱い気持ちになることがあります。それでも、これまで生きてきてよかったと思っています。人との関わりの本当にささいなときにふいにそうした感情が湧いてきます。なんとか生きる方向を考える社会であってほしい」
岩崎さんが病が最も苦しかったとき、命が絶望に覆われていたと感じていたときのことを書いた詩です。病に限らず、人生で死なずにはいられないと感じるときでも心の奥底では、「生きたい」と思う気持ちは消えないと強く信じています。
詩集『点滴ポール 生き抜くという旗印』より

誰もがある
いのちの奥底の
燠火(おきび)は吹き消せない
消えたと思うのは
こころの 錯覚
岩崎さん
「いま苦しい状況にある人に向かって、『生きていればよいことがある』というような単純な話では無いとわかっています。ただ『本人の意思だから』といって突き放すんじゃ無くて生きることが絶望にならず、死ぬことだけが希望にならないように、周りの人が生きる方向に手助けをできる、支えになってほしいなと思います。死にたくなる苦しみをどうやって取り除いていけるのか、そういう社会の方向にしていけるかをまず考えることがとても大事じゃないかと思います」