紙製ボトルから見えるワイン業界の不都合な真実

紙製ボトルから見えるワイン業界の不都合な真実
いまヨーロッパで、一風変わったワインボトルが話題を呼んでいます。主な材料は、ガラスではなく、なんと、紙! 今年6月末、イギリスのベンチャー企業が販売を始めたところ、わずか1か月足らずで、世界各地から700件もの問い合わせが殺到しています。ワインボトルは、400年も前から、ガラス製のボトルが伝統的に使われてきました。紙製ボトルから見えるワイン業界が直面する不都合な真実とは?(国際部記者 田村銀河)

「紙ボトル」あらわる!

「紙ボトル」を開発したのは、ロンドンから北東に100キロほど離れた都市イプスウィッチにある創業4年目のベンチャー企業、フルガルパック(Frugalpac)です。

この会社では、もともとリサイクル可能な紙コップを開発していました。会社の説明によりますと、通常、紙コップは防水加工されている紙を使うためリサイクルできないということですが、コップの内側だけに耐水性のポリエチレンのシートを貼ることで分別してリサイクルできるようになり、独自に紙コップを開発したということです。
今回、このアイデアと技術を、ワイン用のボトルにも応用したということです。コストも、ガラス製のボトルと同じレベルに抑え、イタリアのワイナリーと連携して販売にこぎ着けました。
「ワインを作っている世界中のあらゆる国から問い合わせが寄せられました。それもほとんどが有名な業者や、国際的なブランドです」
紙製のボトルってどんなものでしょうか?見た目はガラス製のボトルと変わりませんが、手にとってみると、驚くほどの軽さです。重さは83グラム。ガラス製のボトルの5分の1程度だそうです。
キャップは、プラスチックのスクリュータイプになっていて、外側は1ミリほどの厚さの紙を重ねた厚紙になっていて、内側は耐水性がある薄いポリエチレンを使った二重構造。いずれもリサイクルが可能なうえ、ワインの長期輸送にも耐えられる強度を保っているということです。

キーワードは「脱炭素化」

それでは、なぜいま、この紙製のボトルへの関心が高まっているんでしょうか。その背景には、「脱炭素化」、気候変動対策への意識の高まりがあります。
ワインの生産から、ボトルの製造、各地への輸送までの一連の過程で排出される、温室効果ガスの量を世界各地のワイナリーやワインの業界団体が複数の試算を出しています。それによりますと、ワインの生産過程を差し置いて、ボトルの製造から輸送の過程で発生するガスが、実に、全体の半分、試算によっては、7割近くも占めているというのです。

高温でガラスのボトルを成形する過程や、重いワインボトルを運搬する過程で、多くのエネルギーが必要になるのです。つまり、「脱炭素化」を進めるためには、ワインの生産よりも、ボトルの製造や輸送の段階で、温室効果ガスを減らすことが、ワイン業界にとって重要なことになります。
フルガルパックは、ボトルの主な材料を、ガラスより軽い紙に置き換えることで、ワインボトルの製造や輸送などの過程で排出される温室効果ガスは、6分の1になるとしています。

ワイン産地の異変も後押し

とはいえ、ワイン業界からの温室効果ガスの排出は、産業全体でみればそれほど大きくありませんし、ぶどう畑は温室効果ガスの吸収にも貢献しているようにも見えますが、どうしてワイン業界が積極的に気候変動対策に取り組んでいるんでしょうか。ワインの産地で、気候変動が影響しているとみられる被害がますます深刻になっていることが背景にあります。
世界有数のワイン産地、チリ。乾燥した地域で、かんがいによって広大なぶどう畑を耕して、ワインの生産を行ってきました。

しかし今、気温の上昇や、干ばつの進行によって、栽培ができない土地が増えているといいます。
日本でもよく見かける自転車のマークをあしらったラベルのシリーズを持つ、チリの大手ワイナリー、コノスルも、干ばつによって井戸水が枯れ、ぶどうの栽培に必要な水が取れなくなるなど、気候変動への対策は喫緊の課題だといいます。
産地の5か所に太陽光発電施設を導入し、再生可能エネルギーを利用しているほか、輸送の過程で排出される温室効果ガスの量を差し引きゼロにする取り組みを続けています。このため今回の紙ボトルの開発についても、歓迎していました。
「私たちが創業以来掲げている3つの柱は、“品質”、“イノベーション”それから“持続可能性(サステイナビリティ)”です。この理念は私たちのすべての分野に通底していて、もちろんボトルにも言えるのです」

市場の10%を紙に置き換える

気候変動対策で遅れを取っているワイナリーのワインを消費者が遠ざける、そんな日も遠くないのかもしれません。

フルガルパックのウォーCEOは、紙製のボトルは、ワインを長期間貯蔵する目的では、ガラス製のボトルには勝てないものの、環境問題への意識が高い若い世代に比較的受け入れられるのではないかとみています。10年後には、ワインボトル市場の10%を、ガラス製から紙製に置き換えることが目標だと話してくれました。
「私たちが提案しているのは代替案です。ガラス製のボトルは伝統的で、機能は良いのですが、昔からの古い技術であり、製法やリサイクル、それにエネルギーなど、いまの人々の考え方にとっては進化してきませんでした。そうした環境への負荷のことを知り、なんとかしたいと思っている人にとってはぴったりな商品だと思います」

取材を終えて

取材を進めていた、7月13日、イギリスの酒類メーカー、ディアジオも、スコッチウイスキーのジョニーウォーカーのボトルを、来年から、紙にする方針を発表しました。
去年、デンマークのカールスバーグは木質の繊維を使ったビール瓶のプロトタイプを公開していて、こうしたボトルの“脱ガラス化”はワイン業界だけではなく、アルコール業界全体で進んでいるようです。
フルガルパックは、日本酒を扱う会社からも問い合わせがあったと打ち明けてくれました。「気候変動」と聞くとつい身構えてしまいますが、環境に優しいボトルやお酒を選んで飲むことでささやかな貢献ができるのであれば、なじみのお酒もふだん以上においしく感じられるかもしれません。

新型コロナウイルスでワイン業界も大きな影響を受けているということですが、未来への変化に期待しながら、飲んで応援したいと思います。
国際部記者
田村銀河
平成25年入局
環境分野を担当し、気候変動による世界への影響や、COP24、COP25を取材。ステイホーム期間は、オンラインで世界のワイナリーツアーに参加。