長い長い休み “僕たちは勉強したかった”

長い長い休み “僕たちは勉強したかった”
新型コロナはさまざまな形で私たちの暮らしに影響を与えています。3月からの一斉休校で、子どもたちの学習も大きな影響を受けました。中でも、親が働きに出なければならないひとり親の家庭や生活が苦しい家庭では、深刻な事態になっていることがわかってきました。あるアンケート調査には“勉強したかった”という、叫びにも似た声が寄せられました。(ネットワーク報道部記者 野田綾)

突然の休校 募る不安

アンケートを行ったのは、埼玉県の一般社団法人「彩の国子ども・若者支援ネットワーク(通称・アスポート)」です。この団体は、自治体からの委託を受けて、ひとり親の家庭や生活が苦しい家庭、そして親が心の問題を抱えている家庭などを対象に、学習教室を開き、子どもたちを支援しています。
子どもたちの居場所でもあり、親の心の支えにもなっていましたが、学校が休校になった3月上旬以降は教室を開くことができず、必要に応じて行っていた家庭訪問もできなくなりました。

学習支援員の土屋匠宇三さんは、子どもたちの様子を直接知る機会がなくなり、大きな不安を感じました。
そこで子どもたちの様子をアンケート形式で尋ねることにしました。緊急事態宣言が解除される直前の5月下旬、教室に通っていた小学3年生から高校3年生の559人の家庭を対象に、休校中の生活で困ったことを聞きました。

回答を寄せた128人の子どもやその親から多く聞かれたのは、「学習の遅れ」に対する不安でした。新型コロナの影響で、多くの家庭で学習に遅れが出ていましたが、アスポートの教室に通っているのは、もともと親が学習に目を配る余裕がない家庭の子どもたちばかりです。

アンケートからは、土屋さんが心配していたとおりの状況に陥っていたことがうかがえました。

アンケートから見えたものは

まずは勉強の時間についての回答です。
最も多かったのが、「1時間未満」で31人。
次いで「2時間未満」が30人。
アンケートに答えた子どものうち半数近くが、1日2時間も勉強していませんでした。

そして運動の時間。
82人、全体の6割以上が「1時間未満」と回答しました。

では、多くの時間を何をして過ごしていたのでしょうか。
テレビを見ていた時間を尋ねると、全体の3割以上が3時間以上見ていたと答えました。

そしてゲームについても、全体の3割以上が3時間以上していたと答えました。

自由記述欄で不安に思うことを尋ねると、感染や家計に関するものもありましたが、いちばん多かったのは、勉強に関するものでした。
「勉強の遅れが心配」
「高校に入れるか不安」
「べんきょうがぜんぜんわかりません」
「勉強に追いつけているか心配」
「どんな勉強をしたらいいかわからない」

母親からも、「勉強ができる子だったのに、休校でゲームに夢中。これからが心配」といった声が寄せられました。
子どもたちは、「勉強したい」という気持ちはありながらも、誰もいない家にぽつんと取り残されたり、逆に、親が家にいても心の問題を抱えているため勉強を見てもらうことができなかったりして、ついテレビを見たりゲームをしたりしてしまっていたのです。

そして「勉強が遅れる」という不安が募り、ストレスを感じてまたゲームをしてしまうという悪循環に陥っていたことがうかがえました。

大切なのは、不要不急のおしゃべり

子どもたちを家で孤立させたくないという思いから、土屋さんたちは、教室を開けない間、それぞれの家庭に週に2回は電話をかけ、困ったことはないか、様子を確認しました。

そこから見えてきたのは、「勉強はしたいけど1人ではうまくできない」というもどかしい気持ちでした。
土屋さん
「学校にも学習教室にも通えなくなってしまい、子どもたちは、社会とのつながりを絶たれてしまいました。子どもたちにとって、勉強すること、そして友人と話すことが、社会とのつながりでした。そのつながりが絶たれてしまったことから、子どもたちはより『勉強したい』という思いを強くしていたように感じます」
電話をかけて「気にかけているよ」と伝え、雑談をすることで、不安で凝り固まっていた気持ちが少しずつとけていくのを感じました。そして、雑談の最後には、勉強についても少しずつ意欲を見せ、質問もしてくれるようになっていったといいます。

一方で、親も苦しんでいる様子でした。コロナ禍でもパートで働きに出なければならなかったり、自分の心の病気のために勉強を見てあげることが難しかったりして、不安を感じていたのです。
土屋さん
「うちで勉強をさせられないということが、親にとって相当なストレスの原因になっていることがわかりました。多くの親は、親自身も問題を抱えており、子どもに勉強をさせたり見てあげたりする気力も体力もありません。しかし、子どもの勉強の遅れはとても気になることです。さらに5月に入ってからは学校から大量の宿題が届き、宿題すらさせられないということが大きな負担になっていきました」
そこで土屋さんたちは、ビデオ通話で子どもたちの宿題を見てあげたり、子どもたち一人一人に合った学習プリントを用意して各家庭に送ったりして、オンラインでの指導を開始しました。

子どもたちに学習への意欲を取り戻させたり、親のストレスを減らしたりすることができたと感じています。
土屋さん
「週に数時間程度でしたが、子どもの勉強を見てあげることが、親にとっても心の平穏につながったようです。指導後に『勉強させられて安心しました』『勉強しろと子どもに言って、親子関係が悪化することが減りました』といった声が聞かれました」

対面でなければ聞き出せない悩みも

一方で、直接会えないと聞き出せなかった悩みもありました。5月下旬に家庭訪問を再開。地域の社会福祉協議会と協力して、支援が必要な家庭に弁当を届けたりしながら、親子に直接話を聞けるようになりました。

つながりが絶たれないように支援を続けてきたつもりでしたが、この時、オンラインではくみ取りきれなかった家庭内のストレスに気がついたといいます。
土屋さん
「やはり会って話して初めて聞ける悩みがあると感じました。弁当を配りながら話を聞き始めた5月下旬、3件の虐待など深刻な事案を確認したのです。中には、子どもの勉強の遅れを心配した親が、なかなか言うことを聞かない子どもの目の前で『あなたが言うことを聞かないからよ!』とリストカットをしたということもありました。長い外出自粛生活で、親のストレスはピークに達していたと思います」

教室の再開で子どもたちには笑顔が

6月に入り、学習教室が再開。子どもたちは、たまっていた宿題を手に、教室に戻ってきました。ある中学1年の女の子は、学校から出された小学校の復習の課題を1人ではできずに悩んでいました。父子家庭で、父親は仕事が忙しく、子どもなりに気をつかって相談できないまま、宿題が進まない状況が2か月も続いていたのです。

アスポートの学習支援員は、彼女が小学生の時に特に苦手だった算数をマンツーマンで教えました。2か月もの間、解けずにいた問題は、少しサポートしてあげただけで、どんどん解けるようになったといいます。
土屋さん
「この子は算数が苦手だったというので、いつも嫌いだと言うのです。でもこの日の感想は『楽しかった』でした。できないと思っていたものが、できるようになった。その喜びが『楽しかった』ということばになったのでしょう」

学習の機会を失わせないで

土屋さんは、学習指導の後に子どもたちが見せてくれる笑顔と「楽しかった」ということばに希望を感じています。
土屋さん
「支援が必要な家庭の子どもにとっては、勉強するということが社会とつながる手段であり、また、明日の自分を作るために必要なものなのだと思います」
今、新型コロナの感染が再び拡大していますが、どのような状況でも、子どもたちの学習の機会を失わせてはいけない。そのために、私たち大人が、知恵を絞っていく必要があると強く感じました。