マスクが苦手な人たち

マスクが苦手な人たち
マスクをつけることが難しいという人たちがいます。自分がつけることだけでなく親しい人がつけることも苦手だという人もいます。それぞれに理由があり悩みはつきないようでした。悩みからつながる心の痛みが少しでもやわらぐようにと今、支援の動きも出てきています。(ネットワーク報道部記者 和田麻子 大窪奈緒子 秋元宏美 高知放送局記者 野町かずみ)

たくさんの声

「マスクが苦手」「つけられない」
新型コロナウイルスの感染の広がりで、マスク姿が当たり前のようになる中、ツイッター上には“つけられないこと”を分かってほしいという声や、つらい気持ちを打ち明ける声がたくさんあることに気付きました。

声をあげているのは感覚過敏などの症状がある発達障害の当事者やその保護者が目立ちます。感覚過敏は視覚や触覚など五感への刺激で、痛みなどの過剰な感覚が引き起こされると考えられています。
(ツイッターより)
「自閉症ゆえの感覚過敏でマスクが嫌で、吐きながら泣きながら仕事で着用義務だからつけてる」
「(子どもがマスクをつけられないので)『入店お断り』は本当にツラい。この状況だししかたないよなぁ?と思う反面、やっぱ悲しいよね」
「つけないと外で他人に嫌な顔され、かと言って無理にマスクつけると(子どもが)大暴れ」
そして中には、親しい相手がマスクをつけていることが苦手というケースもあることがわかってきました。

ふだんと違うが苦手

取材したのは知的障害をともなう自閉症の子ども50人以上が通う神奈川県横須賀市の筑波大学附属久里浜特別支援学校です。

西垣昌欣校長によると自閉症の子どもは“ふだんと違うこと”を受け入れるのが難しいことがあり、先生のつけているマスクが気になって取ってしまうことがあるそうです。

取材した日も西垣さんのマスクが気になったのか、引っ張られて耳にかける部分が切れてしまい、思わず笑い声が出る出来事があったといいます。
西垣校長
「子どもの特徴によって、相手がマスクをつけているなどふだんと違うことを特段嫌がったり、受け入れられなかったりすることがあります。できるかぎりの感染対策をしたうえでですが、一律に、子どもと保護者にマスクの着用を求めるのではなく、子どもの特徴に合わせざるをえない状況もあるんだということを、少しでも知ってもらえたら、と思います」
また障害のある子どもたちにとって先生の「表情」や「口元」は重要な情報源でもあります。
ことばだけでの指導が難しい場合は必要に応じて先生がマスクを外して表情をしっかり見せたうえで身ぶり手ぶりも交えながら指導内容が「伝わる」よう授業を進めているそうです。

見えないので、食べられない

相手がマスクをしていることが“苦手”。そんな事態は高知市の保育園でもありました。

高知市にある福井保育園では、保育士全員がマスクをつけていますが、0歳児のクラスで、マスクをしたまま離乳食を食べさせていたところ、食べ物をかまずに飲み込む子どもが出てきました。
このため保育士が会話をせずに一時的にマスクを外し、もぐもぐと「かむ」お手本を見せたところ、子どもたちは口元の動きをまねて上手に食べられるようになりました。

安全と成長の両立を

また、1歳児のクラスではままごと遊びの時に、保育士がマスクをつけたまま食べるしぐさをしたところ子どもが怒り出すことがありました。そして声を出さないでマスクをずらし、口を見せたところ、子どもが笑顔になり次々とおもちゃの食べ物が口元に運ばれてきました。

乳幼児の保育の課題を調べている玉川大学教育学部の大豆生田啓友教授はこう指摘します。
大豆生田教授
「子どもは、口の動きをまねしたり大人の表情から気持ちを読み取ったりしているので、表情が見えないと不安になる」
「難しいことだが安全への配慮と、子どもの成長を支えるということを同時にやっていかなくてはいけない」
福井保育園ではどのように安全と成長を両立させていけばいいのか話し合いを続けているそうです。

マークで支援

やむをえない事情でマスクがつけられないことがあることを知ってほしいと、独自のマークを作って支援する動きもあります。
「マスクをつけられません」というメッセージと一緒に、申し訳なさそうにしている犬が描かれたマークの入ったバッジは、直径およそ5センチで帽子やかばんに取り付けられるようになっています。

またカードもあり、つけられない理由が書けるようになっていて、千葉県流山市でカウンセリングルームを運営する会社が、「わけがありますくプロジェクト」を立ち上げ、作りました。
相談者からマスクのできない子どもがいて、困ったりつらい思いをしたりしている話を聞いたことが作ったきっかけだそうです。

ことし6月、自費で1000個のバッジを作って、無料配布を始めると、感覚過敏の人やぜんそくなどの呼吸器の病気がある人などから依頼があり、これまでに400個ほどを届けたといいます。
「わけがありますくプロジェクト」 鈴木玲嘉代表
「新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、街なかでマスクをつけていない人を見かけると嫌な気持ちになったり、怒りを感じたりすることもあります。でも、中には事情があってつけられない人がいることも知ってほしいんです」
「マークを身につけた人を見かけたら、理由があるとひと目でわかるので当事者も周りの人ももう少しだけ楽に過ごせるのではないかと考えました」

助けられたのは私自身

マークの取材をしていると重い障害がある長男がいて、マーク作りに協力した編集デザイナーの女性に話を聞くことができました。

長男は口呼吸で、息がしづらいせいか、マスクが苦手。自分であごまで下げてしまったり、体温調節も苦手なため暑い時期になってからは取ってしまうことも増えました。

長男と一緒に外出する時は、人混みの中に極力入らないようにしていて、電車に乗る時もできるだけ車両の隅に移動したり壁側を向いたりする工夫をしているといいます。
「マスクをしていない長男を連れて歩いている時はどうしても周囲の目が気になりました」と話す女性。

マークの付いたバッジをつけるようになってからは自分自身が楽になったことに気付くようになりました。そして、ネット上に投稿した記事のコメントを送ってくれました。
「練習して、短時間ならマスクをつけられる時もあります。でも、息子の感覚や特性は変えられずしかたない事です。親の気持ちに余裕がないとマスクができない息子のことを、やっぱり時々責めてしまいます。声にしなくても態度に出ます。すると、それを息子が感じ取り、親子の関係が悪化します。マスク必須ではなかった頃はほんの少し前なのに遠く感じます…。バッジをつけるようになって、いちばん助けられたのは私自身の気持ちだと思います」
不安が広がる今だけども人のやさしさで人が救われる、そんな動きが広がっていきますように。