ことしの夏山 登って大丈夫?注意点は?

ことしの夏山 登って大丈夫?注意点は?
1年間で全国でもっとも登山者が多い夏、ことしも夏山シーズンがやってきました。しかし、心配なのが、新型コロナウイルスの影響です。「ことしは山に行って大丈夫?」、「注意するところは?」という疑問が多くあると思います。ことしの夏の登山はどうすればよいのか、山での取材を手がけるNHKの山岳カメラマンがその疑問を取材しました。(映像センター 山岳取材班)

そもそも、山に登っていいの?

全国各地の山では感染拡大の影響で山岳に関わる団体が一時期、登山の自粛を呼びかけました。「密閉していない外の登山なのに何で自粛?」という声がインターネットなどでも相次いで聞かれました。
その主な理由は、山でも混雑する場所があり感染のおそれがあること、万が一遭難などした場合、山がある地元の医療機関をひっ迫させるおそれがあることなどがあげられていました。

緊急事態宣言が解除された5月下旬以降、一部の山で登山が再開されましたが、山によってその対応は分かれています。
山梨県、静岡県境にある日本最高峰の富士山は、5合目より上のすべての登山道が閉鎖され、登ることができません。また南アルプスでは登山道の利用が禁止されたり登山の自粛を呼びかけたりしているところがありますが、制限のないところもあり対応が分かれています。
そのほか、北アルプスや中央アルプス、八ヶ岳や尾瀬など登山の規制がない山でも一部で営業を休止している山小屋があります。山小屋は宿泊や食事をとることもでき、万が一の際には避難場所にもなる登山者にとって重要な拠点で、ここが営業を休止していると登山計画に大きな影響が出ます。

同じ山でも自治体や山小屋によって対応が異なるため、まず事前に、自治体や観光協会、それに山小屋などに最新の情報を確認する必要があります。

変化した山小屋

感染拡大で大きく変化した登山。登山者にとって大切な拠点となる山小屋も変化しています。槍ヶ岳や穂高連峰、立山などを擁する北アルプスでは例年より数か月遅れて、7月中旬から多くの山小屋で営業を再開しました。
その1つ長野県松本市の上高地近くにある山小屋、「徳澤園」。感染防止のために何ができるのか考え、7月18日から営業を始めています。

対策の主な柱は登山者の密集を避けることです。
▽宿泊の定員を制限して完全予約制に。
▽室内に登山者が集まるのを避けるため宿泊の受付を山小屋の外に初めて設置。
▽必要な書類もあらかじめホームページに掲載して、入山前に記入してもらうことでチェックインの際の時間短縮をはかる。
▽このほか、食堂のテーブルに1人ずつ間仕切りを設置する
などさまざまな対策をとりました。

徳澤園を経営する上條靖大さんはできるかぎりの対策を行う一方で登山者の側も、感染防止を心がけてほしいと呼びかけています。
上條さん
「安心して山小屋を利用してもらうために新しいスタイルをお客様と協力して作り上げていきたい」

命を守る拠点も変化

変化したのは山小屋だけではありません。登山者の健康と安全を守る大切な施設も大きな変化が起きていました。
それが登山者の多い夏山シーズンに開設される「夏山診療所」です。医師や看護師、それに医学部の学生などが山小屋に交代で泊まり込んでケガをしたり体調を崩したりした登山者などの診療をボランティアで行っています。

全国19の大学が北アルプスや富士山など、23か所で運営しています。日本登山医学会によると、おととしは3400人余りを診療していて、「夏山診療所」は登山の安全を守る大切な役割を担っています。
しかし、ことしは23の夏山診療所のうち、半数以上の13か所で開設を断念したことがわかりました。7か所でも、開設はするものの例年、医師のサポートにあたる大学生が参加できなくなっているほか、夏山診療所に詰める医師や看護師などの数を減らしたり、開設する期間を限定したりして、例年より態勢を縮小せざるをえない状況です。

その理由は、登山道が閉鎖され開設できなかったことのほか、医師や学生らに感染への不安があり、病院にウイルスが持ち込まれるおそれがあること、それに、終息の見通しが立たず、感染拡大に備えた大学での医療態勢を考慮すると派遣する医師や看護師の確保が難しかったことなどが挙げられています。

「新しい登山様式」とは?

新型コロナウイルスの影響で大きく変化した登山。では、安全に登山するためにはどうすればよいのか。登山客の安全を確保しながら山を案内する経験豊富なプロの登山家である山岳ガイドたちが医師のアドバイスを受けて「新しい登山」を考え、動画で発信しています。
ほかの登山者との距離は?
・お互いに手を伸ばして触れない距離を確認し、ソーシャルディスタンスを確保しながら登る。
・登山道でほかの登山者とすれ違う時は、1か所で固まらず比較的広い場所でお互いの距離を保ちながら行い、あいさつも控えめに。
消毒や食事は?
・鎖やはしごなどは多くの登山者が触れるため、触った後には必ず消毒や手洗いをすること。
・山での食事はなるべく直接触らずに食べられるものを選び、体を向かい合わせにせず、同じ方向を見ながら食べること。
マスクの着用は?
マスクは熱中症のリスクもあるため登山中の着用は勧めていません。
一方で、公共交通機関での山までの移動や急病人の救護など人と近づくときには、着用するよう提案しています。

専門家が呼びかける行動

山岳医療の専門家で日本登山医学会の代表理事、臼杵尚志さんは多くの登山者も安全に山を楽しむ方法を考えてほしいと訴えています。
臼杵さん
「登山者はふだん以上に慎重な行動をする必要があります。もし10の力があるとすれば、ことし山に登るのは7とか8とかのところの山でやめていただきたい。自分の力を過信しないでほしい」

慎重さと自覚、対策を

楽しいはずの登山はことし大きく変化しています。安心、安全な山登りを実現するためには、山小屋などの施設側だけでなく、私たち登山者側一人一人にも慎重さと自覚、そして対策が求められています。

最後に長野県が作成した「登山者への5つのお願い」を紹介します。
1 体調に不安がある場合は、絶対に入山しないこと。
2 山小屋・テント場の営業確認、事前予約を徹底すること。
3 十分に難易度を落とした山選びをすること。
4 混雑を回避する登山計画により行動すること。
5 感染予防グッズを携行し、ゴミは持ち帰ること。
こうした点に注意しながら山の自然を楽しんでください。
映像センター カメラマン
岡部馨
平成19年入局
大学時代は山岳部所属。室蘭局、長野局などで山の取材を継続
今の目標は小学生の息子と一緒に富士山に登ること
映像センター カメラマン
小柳一洋
平成21年入局
火山の成り立ちを調査する番組の取材ではプロのクライマーに同行
約100mの岩場にしがみつきながらの撮影経験も