その親子関係、どうしますか?

その親子関係、どうしますか?
「ああしたほうがいい」「こうしたほうがいい」。親は子どもについ口を出してしまいがちです。「自分のやりたいようにやらせてくれよ」。子どもはきっとそう思っているでしょう。わが身を振り返っても、親子の距離感は微妙なものです。微妙な親子関係。実は会社にもあります。親会社と子会社がそれぞれ株式を上場する「親子上場」という状態です。日本で特に多く、欧米の投資家が問題視してきました。最近、親子関係を解消する動きも目立ってきていますが、どう考えたらいいのか、探ってみました。(経済部記者 新井俊毅 古市啓一朗)

際立つ日本の親子関係

「親子上場」。

耳慣れないことばですが、日本の企業グループの1つの特徴です。東京証券取引所によりますと、親とともに上場している子会社の数は、7月27日時点で294社。上場企業全体の8%を占めています。

世界はどうでしょう。定義が異なるため一様に比較はできませんが、親会社が株式の50%以上を握ったうえで上場している子会社で比較すると、2018年12月現在で、アメリカは28社、フランスは18社、そしてイギリスは0社…。この数字を見ると、確かに日本は親子上場が多い国といえそうです。

代表的な親子上場は、ソフトバンクグループ(親)ーソフトバンク(子)。日本郵政(親)ーゆうちょ銀行・かんぽ生命(子)。トレーニングジムなどを展開するRIZAPのように、数多くの子会社を上場させている企業も少なくありません。

子会社の上場にどんなメリットがあるのでしょう。1つは、資金を集めやすくなることです。携帯電話など特定分野で事業を展開する子会社の株式上場は、集めたお金を何に使うのか、投資家もイメージしやすくなります。

業績が上向けば、ダイレクトに株価の上昇につながりやすくなりそうです。

また、上場企業になれば社員の採用などに有利に働くことも考えられます。子会社のブランドイメージにもプラスと考えられているようです。

親の顔色ばかり気にする子でいいのか?

しかし親子上場は、海外の投資家からは評判が悪く、長年、批判の的になってきました。どこに問題点があるか。大きな指摘は「利益相反」のおそれです。

親会社が子会社にあれこれ口出しし、不利な取り引きを強要したり、多くの配当を支払うよう求めたりと、子会社が“搾取”される懸念が拭えないというのです。

確かに、親会社の顔色ばかりうかがい、一般の株主の利益にならない経営が行われるおそれがあることは、否定できません。

親子関係 この際解消します

こうした批判も背景に、ここにきて、親子上場を解消する動きが加速しています。
東芝は、上場していた子会社3社の株式を、ほかの投資家から買い取る形で、非上場の完全子会社にしました。経営の迅速化を進め、利益相反の可能性などを回避するためと説明しています。

一方で、日立製作所は、事業の選択と集中を進めるため、逆にみずからがもつ株式を売り払って子会社の日立化成との親子関係を解消しました。

子の独立性確保を 進むルール変更

そうした動きを後押ししているのが、東証のルール変更です。経済産業省が去年6月、親子上場の問題を含めた企業グループの統治に関する指針をまとめ、東証が、それに歩調を合わせて、子会社の独立性を高めるために、ルールの厳格化を決めたのです。

内容は、ひと言でいえば、社外取締役や監査役の資格の厳格化。親会社の経営幹部を務めた人は、ことしの株主総会後からは、退任から10年以上たたないと、上場子会社で独立社外取締役や社外監査役にはなれないようにしたのです。親会社からあれこれ指図を受けず、子会社が独自に判断しやすくするルール変更です。

国内の投資家からも呼応する動きが出ています。年金資金などを預かり、投資をしている三井住友トラスト・アセットマネジメントは、ことしから、独立した社外取締役が過半数に満たない上場子会社に対しては、原則として、株主総会で取締役の人事案に反対する方針を明確にしました。従来よりも一歩踏み込んだ対応です。

規制強化で、親子上場解消を

日本特有の親子上場。どうしていったらいいのでしょうか。三菱ケミカルホールディングスの小林喜光会長は、親子上場は解消するべきだという立場です。
三菱ケミカルホールディングス 小林喜光会長
「親子上場の問題は、親会社からすると、幹部人事やコンプライアンスで手を深く突っ込めそうで突っ込めないし、子会社からしても、親会社がすべてをコントロールしているような誤解を招いていて、中途半端な状態だ。政府が中心になって数年前から上場企業の統治改革に取り組み、海外から『日本企業も変わってきたな』と好感されている中、最後の大きなテーマが上場子会社だ。国や東証がガイドラインを定めて、子会社では、独立社外取締役を少なくとも3分の1、いずれは過半数を占めるようにして、その次に、親会社が100%の株式を取得して完全子会社化するか、売却するかを選ぶように企業に求めていくべきだ」
小林氏が会長を務める三菱ケミカルホールディングスは、去年11月に、子会社の田辺三菱製薬を完全子会社化にする意向を表明し、ことし3月に完了しています。

さらなる規制は慎重に

一方、国などによる過度な規制には慎重な意見もあります。企業統治などに詳しい森・濱田松本法律事務所の澤口実弁護士は、親子上場は企業を強くする働きもあるとしています。
森・濱田松本法律事務所 澤口実弁護士
「改革の方向性は理解する。親子上場に問題がないわけではないが、最優先の課題だとは思わない。日本企業は『事業の選択と集中』が遅れており、子会社の上場は、親会社が事業再編を進める手段の1つだ。また、上場子会社の株式は、長年、投資対象としても定着しており、投資家もその課題を理解したうえで行動している。親子上場を一律で禁止するなどの強い規制を行うのではなく、市場の選択に委ねるべきだ」

親子の適度な距離感は、どこに

振り返ると、就職などを機に家を出て独立したことをきっかけに親子の関係が少し変化し、今までよりスムーズになった人も多いのではないでしょうか。家庭内で、子どもの意思を尊重するようなルールを決めることで、うまくおさまったという経験をお持ちかも知れません。

欧米の投資家が外から見て、おかしいと感じている日本企業の親子関係。その懸念をどう払拭(ふっしょく)していくのかは難しい課題です。親子の距離感の在り方は、企業にとっても悩ましい問題です。
経済部記者
新井 俊毅

平成17年入局
北見局・札幌局を経て現所属
デジタル経済や統計問題・防災など幅広い分野を取材
経済部記者
古市啓一朗

平成26年入局
新潟局を経て
現在 金融業界を担当