ALS患者の女性「惨め、安楽死を」 父「ひと言 話したかった」

ALS患者の女性「惨め、安楽死を」 父「ひと言 話したかった」
難病のALSの女性患者の依頼を受け、京都市の自宅に出向いて薬物を投与し、殺害した疑いがあるとして、医師2人が嘱託殺人の疑いで逮捕されました。女性は症状が進む中、ツイッターに「屈辱的で惨めな毎日がずっと続く。ひとときも耐えられない。安楽死させてください」などと投稿していました。
家族などによりますと、今回の事件で亡くなった女性患者は京都市生まれで、大学を卒業したあと、東京のデパートで働き始めました。

その後、アメリカに渡航して大学で建築を学び、帰国してからは東京の設計会社で働いていました。

しかし40代になった10年ほど前、道路を駆け足で渡ろうとしたときに、突然、足に違和感を感じ、病院を受診したところ、ALS=筋萎縮性側索硬化症と診断されたということです。

その後、仕事を辞めて京都に戻り、マンションでヘルパーの支援を受けながら1人で暮らしていました。

はじめのころは車いすに乗って外出することもありましたが、徐々に全身の筋肉が動かなくなり、亡くなる前は視線を使って、パソコンで文字を入力したり、文字盤の文字を示したりして、意思疎通を図っていたということです。

症状が進む中、去年9月、女性はツイッターに「屈辱的で惨めな毎日がずっと続く。ひとときも耐えられない。安楽死させてください」などと投稿していました。

父「娘にとって苦渋の決断…」

NHKでは亡くなった女性の父親に取材を重ねてきました。逮捕前の取材に対し、父親は「娘はどうして自分が病気になるのかとずいぶんと落ち込み、ショックを受けていました。私も初めて聞く病気で何をしてあげればいいか分からず、暗中模索でした。頭はしっかりしているだけにつらかったと思います」と振り返りました。

また、娘が医師に殺害を依頼したとみられることについて、「知っていたらもちろん、止めています。娘の気持ちは尊重したいですが、これでよかったのかとも思われますし、本当に複雑な気持ちで葛藤しています」と、自分に言い聞かせるように語っていました。

23日、医師2人が逮捕された後の取材に対し父親は「捕まってほっとしました。うやむやに過ごしていた日常に、やっとひと区切りをつけられました」と話したうえで、「複雑な気持ちです。娘も殺害を委託しているし、犯人を一方的に責めることはありません。娘にとって苦渋の決断だったと思います」と述べました。

そして「亡くなる寸前の時に、ひと言話したかった。目を合わせたかった。手を握りたかった。急にこんなことが起きるなんて夢にも思いませんでした。それがいちばん残念です」と話していました。

ALS患者の現状と課題

ALS=筋萎縮性側索硬化症は運動神経系に障害が起き、手足やのど、呼吸に必要な筋肉が徐々に動かなくなる進行性の病気です。発症の原因は不明で根本的な治療法はなく、難病に指定されています。

患者団体によりますと、ALSと診断され、障害者手帳の交付を受けた人は、去年3月末時点で全国で9800人余りいるということです。

症状が進行するスピードは人によって異なりますが、自力での呼吸が難しくなると人工呼吸器の装着が必要になります。体を動かすことができなくなったあとも、視覚や聴覚、体の感覚、目を動かす筋肉などは障害を受けにくいとされ、文字盤を視線で追うなどの方法で会話をしています。

ただ、患者団体によりますと、将来に希望が持てなかったり、「生きたい」という気持ちがあっても介助する家族などの負担を考えたりして、人工呼吸器をつけない人も少なくないということです。

患者は公的な保険制度や福祉サービスを活用して医療やヘルパーによる介助などを受けることができますが、病状が進むと24時間、365日の介護が必要になる一方で、地域によってはヘルパーの数が十分ではなく、療養を支える体制には課題もあります。

患者が生きることを諦めず、生きがいをもって生活するために、家族を含めて社会でどう支えていくのかが大きな課題となっています。

患者団体「ついに起きてしまったか」

今回の事件について、ALSの患者や家族からなる日本ALS協会近畿ブロックの会長で、みずからもALSを患う増田英明さんは「驚くと同時に、ついに起きてしまったかという思いです。女性が安楽死を望み、強い希望を持って何度も語ったことは不思議でありません。生きることが当たり前の社会で、私たちは常に生と死のはざまにおかれています。社会はALSなど重度の障害者が生きることを簡単には認めてくれません。私も彼女も同じです。彼女を死に追いやった医師を許せません。私たちが生きることや直面している問題や苦悩を、尊厳死や安楽死という形では解決できないし、そうやって私たちの生を否定しないでほしいです」と話しています。

ALS患者で医師の太田守武さん「悲しくて言葉が見つからない」

今回の事件について、千葉県八千代市に住むALS患者で、医師でもある太田守武さん(49)がNHKにコメントを寄せ、無念の気持ちを明かしました。

太田さんは医師として働く中で、9年前にALS=筋萎縮性側索硬化症を発症しました。現在は体や手足を自由に動かすことはできませんが、今回の事件を受けて目の動きを感知して文字を入力できるシステムを使ってコメントを寄せました。

この中で太田さんは「正直、悲しくて言葉が見つかりません。私もALSだと分かった時死にたいと思いました。でも、家族が、仲間が、生きる希望を持たせてくれました」と振り返りました。

そのうえで、医師2人が逮捕されたことについては「医師としては死を選択させるのではなく、患者に生きる喜びを見いださせてほしかったです」として、無念の気持ちを明かしました。

太田さんは難病患者などの心のケアに関する講演会などを精力的に行っていて、「ALSであっても自分らしく生きられることをもっともっと啓蒙しなくてはと改めて胸に刻みました。お亡くなりになった患者様に心よりお悔やみ申し上げます」と結んでいます。