また集まれる、その日まで

また集まれる、その日まで
新型コロナウイルスの影響は地域の祭りや伝統文化にも及んでいます。23日から4連休。例年なら夏休みに入る時期ですが、ことしは、ふるさとに帰ることも地元の催しに参加することも大切な人たちとの再会もできず、夏をあきらめている人も少なくないと思います。そうした中で知恵を絞って伝統をつなごうという動きが出ています。
(ネットワーク報道部記者 郡義之・鮎合真介・國仲真一郎)

各地で“祭り不足”

京都の祇園祭の「山鉾巡行」、博多祇園山笠、青森のねぶた祭、徳島の阿波おどりなど、新型コロナウイルスの影響で祭りや伝統芸能の公演の中止が相次いでいます。

ネット上でも地域の祭りや行事への参加を楽しみにしていた人たちが次々と悲しみの声を投稿しています。
「地元の祭りが軒並み中止なのほんとつらい」
「今年、盆踊り無いから真面目に祭り不足…」
「毎年、この祭りの為に地元に帰ってたけど今年は落ち着くまで帰れんかな」
地域の伝統の継承に影響が出るのではないかという不安の声もみられます。
「祭りのために帰省してた人たちも帰れないということは、その祭りを運営進行する伝承が途切れるわけで、これ地方の幾多の無形民俗文化財が消滅の危機にあるよなぁ…」

コロナに加え豪雨被害も

伝統芸能に打撃を与えているのは、新型コロナウイルスだけではありません。
大分県由布市庄内町で盛んな「庄内神楽」。勇壮な舞とユーモラスな動き、それに力強い太鼓の音が特徴の伝統芸能で、例年、5月から10月まで定期公演が行われ、親しまれています。

しかし、ことしは新型コロナウイルスの影響で、すべての公演が中止。さらに今月の記録的な豪雨によって、一部の団体では衣装が水と泥につかり、使えなくなる被害が出ました。

ただ庄内神楽座長会事務局によると、座長会に加盟する各団体は新型コロナウイルスや大雨の影響を受けつつも、神楽の練習は何とか継続したいと話しています。

庄内神楽座長会事務局の松本元気さんは「神楽が見られないと悲しいと言う人がいるほど、庄内にとって神楽は宝であり、なくてはならないものです。11月には『庄内神楽祭り』という大きな祭りがあるので、開催できるかどうかはまだ決まっていませんが、準備をしていきたいです」と話していました。

どんな影響が…

祭りや地域に伝わる芸能は本番に向けた練習や運営の打ち合わせなどの段階から「密」の状態が懸念され、このコロナ禍で大きな影響が出ているはず。実際にどんな影響が出ているのか、郷土芸能の保存や振興に取り組む「全日本郷土芸能協会」に聞いてみました。

協会は、ことし2月から今月にかけて新型コロナウイルスによる影響について調査し、会員217団体のうち全体の約3割にあたる59団体から回答を得ました。

それによると「活動に何らかの影響あり」と回答したのは全体の92%に上りました。
具体的には定期公演の中止や延期、練習の中止、イベントキャンセルによる収入減などがありました。やはり、新型コロナウイルスの影響は地域の伝統文化にも及んでいました。
全日本郷土芸能協会の小岩秀太郎事務局次長は「ことしはオリンピック・パラリンピックが開かれる予定だったこともあり、日本の伝統文化を発信できる好機だったが、逆に担い手のモチベーションが下がり、存続の危機にひんしているところもある。もともと郷土芸能は先人たちのメッセージが込められたものだけに私たちが50年、100年と後世につなぐために頑張っていかないといけない」と話しています。

一方、こうした影響の中でも各団体ではケーブルテレビを使った上演動画の放送(長野)や、動画配信サイト「YouTube」を使った配信(島根)などで工夫しながら、なんとか郷土芸能の存続を図っていこうとしていることも今回の調査からわかりました。

オンラインでも灯はともせる

地域で続く祭りの灯を絶やしたくないと「新しい祭りの様式」の模索が始まっています。
岩手県一関市大東町の摺沢地区でお盆の時期に行われる「摺沢水晶あんどん祭り」です。

かつてこの地区で採れていたという水晶にあやかり、手作りの六角形のあんどんのやわらかな明かりが街を照らします。地元の人、そして帰省してきた人たちが参加する地域密着の祭りです。
ことしの開催に向けて準備を進めていた中、新型コロナウイルスが全国的に拡大します。そして5月、通常どおりの開催を見送ることが決まりました。

摺沢地区を含む岩手県内では感染者は出ていませんが、高齢化が進んでいることに加えて大きなあんどんを飾る作業で「密」が懸念されることや県外から訪れる人たちのことなど新型コロナウイルスの影響を考えた苦渋の決断でした。
祭りの企画や運営をサポートする「あんどんサポーター」の櫻井陽さん
「今後、新型コロナウイルスの状況がどうなるか分からない。ことし中止にしたとして、来年も同じ状況だったらまた中止にせざるをえない。もともと高齢化が進み、祭りを続けていくことが難しい中で、2年連続で中止にしちゃうと、もう祭り自体がなくなっちゃうんじゃないかと」
そうした中で出たアイデアが「オンラインでの開催」でした。
全国各地からオンラインであんどんのデザインを募集。例年祭りが始まる8月13日に合わせて特設のウェブサイトに掲載し、オンラインであんどんの“灯り”を楽しんでもらおうというのです。

7月から8月上旬までの期間で募集を始めたところ、地元の人だけでなく、ことし帰省が難しくなってしまった出身者からも応募が寄せられています。

また集まれる、その日まで

摺沢地区で生まれ育った櫻井さんは、小さいころからこの祭りに親しんできました。就職でいったん地区を離れたあと、3年前に戻ってきましたが、縁日の規模が縮小されていたり幼いころからやっていた盆踊りがなくなっていたりと祭りが「さみしくなっている」と感じていたといいます。

櫻井さんは祭りを元気にしたいと企画・運営に携わり、去年は例年より500人ほど多い約3000人が祭りに参加しました。

ことしの「オンライン開催」も祭りの歴史に新たな風を吹き込むチャンスだととらえています。
櫻井陽さん
「オンラインで開催することで、新たに祭りに関われる人が増えてくれるんじゃないかと期待しています。地元でこんなことやってる、おもしろそうと思って、地元を離れた人も参加しやすくなる。そして新型コロナウイルスが落ち着き、またみんなで集まれるようになったら、もっとおもしろい形でお祭りができるんじゃないか」

「全国的にはお祭りやイベントが中止になって、地域の伝統が続かなくなるという不安を抱えているところも多いのではないかと思います。自分たちの『オンライン祭り』が、こうしたところに前向きなメッセージとして届けばいいと思っています」