“ワクチン”オリンピックまで世界に供給は不透明 新型コロナ

“ワクチン”オリンピックまで世界に供給は不透明 新型コロナ
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ切り札とされるワクチンは、一部は年内に有効性が確認される可能性があるとされていますが、来年の東京オリンピックまでに世界各国に供給されるかは不透明な状況で、専門家は「期待はしつつも決して楽観できない状況だ」としています。
新型コロナウイルスに対するワクチンの開発は、最新の遺伝子技術を活用するなどして、これまでにないスピードで進められていて、WHO=世界保健機関によりますと今月20日の時点で、世界中で合わせて166の計画が進められています。

このうち、少なくとも24のワクチンについては、実際に人に接種して安全性や有効性を確かめる臨床試験が始まっていて、一部では初期の臨床試験で、免疫の反応が引き起こされたとする結果が報告されています。

そして、
▽オックスフォード大学とイギリスに本社がある製薬大手「アストラゼネカ」のワクチン、
▽中国の製薬会社「シノバック」のワクチン、
▽アメリカの製薬会社「モデルナ」のワクチンは、
多くの人に接種して安全性や有効性を確認する最終の第3段階の試験が始まっています。

また、中国では別の会社「カンシノ・バイオロジクス」のワクチンが、最終段階の試験に入る前に特別に承認され、軍を対象に接種が行われると報道されています。

ワクチンについて、アメリカのトランプ政権で、感染対策にあたるアンソニー・ファウチ博士は、ことしの年末か来年の初めには、少なくとも1つは、有効性や安全性が確認される可能性があるとする見通しを今月、示しています。

ただワクチン開発が成功しても、生産量は限られることが懸念されるため、WHO=世界保健機関は、必要とする人にワクチンが行き渡るよう、各国が協力する必要があると再三、強調してきました。

専門家「過度な期待は慎むべき」

新型コロナウイルスのワクチンの開発が、1年後に迫った東京オリンピック・パラリンピックに間に合うのかについて、ワクチン開発に詳しい東京大学医科学研究所の石井健教授は「期待はしつつも決して、まだ楽観できない状況だ」と述べ、過度な期待は慎むべきだという考えを示しました。

石井教授は最近の開発状況について「アメリカやイギリスで臨床試験の最初の結果が発表され、それぞれ強い免疫誘導能があると分かった。ただ、いま分かったことは、ワクチンを打つと抗体ができたり、免疫反応が出たりするということだけで、その免疫反応が新型コロナウイルスを防御するために働くのかや、悪く作用しないのかは、全く分かっていない。期待はしつつも決して、まだ楽観できない」と説明しました。

そして「通常であれば安全性の試験を徐々に進めるが、今回はどんどんと前進し、安全性に問題があったときに“後悔先に立たず”という事態になるリスクが残ったままだということは理解すべきだ」と指摘しました。

そのうえで、今後の開発の見通しについて「これからワクチンの有効性や安全性を見る中で、最初の結果がよくても、あとから何が起こるか分からない状況がしばらく続く」としたうえで「“オリンピックに向けて”とか“オリンピックまでに”とか、ワクチンを人質に取ったかのような表現があるが、よくない表現でやめるべきだ。オリンピックまでにワクチンを外国から輸入できる状況はありうるが、接種対象としては、医療従事者やリスクの高い人たちが優先だ。オリンピックまでにみんながワクチンを打てる状態には、ならないのではないか」と話しました。

実用化の時期は不透明

新型コロナウイルスの治療薬については世界中で急ピッチで研究、開発が進められています。

ただ、これまでに実用化された薬は重症の患者などを対象にしたもので、今のところ特効薬となる薬はできていません。

新薬の開発は通常、何年もかかりますが、現在はすでにほかの病気に使われている治療薬を、新型コロナウイルスに応用することで早期に実用化できると期待されています。

このうち国内ではことし5月、アメリカの製薬会社がエボラ出血熱の薬として開発を進めてきた「レムデシビル」が、新型コロナウイルスの重症の患者などへの治療薬として「特例承認」の制度で承認されました。

また、ステロイド剤の「デキサメタゾン」も海外の研究で重症患者の治療に有効性が確認されたことから、今月、厚生労働省は重症の患者への投与を推奨することになりました。

現在、研究が進められている主な薬としては新型インフルエンザの治療薬、「アビガン」のほか、関節リウマチの治療薬、「アクテムラ」や「サリルマブ」、それに「オルミエント」などがあり、新型コロナウイルスの薬として承認を受けるため、実際に人に投与して安全性や有効性を確かめる治験が行われています。

このほか、ぜんそくの治療薬「オルベスコ」や、すい炎などの治療薬「フサン」、それに寄生虫による感染症の治療薬、「イベルメクチン」やエイズの治療薬「ネルフィナビル」なども、研究が進められています。

一方で、これまでの研究で、当初は効果が期待されたものの、新型コロナウイルスに対しては十分に有効性が確認されなかった薬も複数あり、インフルエンザに対する抗ウイルス薬のように、多くの人が使うことができる治療薬がいつ頃、実用化されるかについては、不透明な状況です。