資生堂流人事の極意 “脱・年功序列”で会社が変わる?

資生堂流人事の極意 “脱・年功序列”で会社が変わる?
終身雇用・年功序列の日本型雇用とは異なる制度として、最近、ビジネス界で話題になっている「ジョブ型」という働き方。仕事の質や成果をより評価する人事制度です。資生堂は来年1月から、一般社員およそ3800人を対象にジョブ型を導入、思い切った改革が始まります。ジョブ型の導入で社員や会社はどう変わるのか。6年前、外部から招かれて資生堂のトップになり経営改革に取り組む魚谷雅彦社長に聞きました。(経済部記者 白石明大)

資生堂が生き残れない!?

1872年に東京 銀座で調剤薬局として創業した資生堂。現在はおよそ120の国と地域で化粧品事業を展開しています。

新型コロナウイルスが私たちの生活を大きく変える中で、実は化粧品も大きな変化が始まっています。マスクで口元が隠れてしまうためか、このところ口紅の売上げは減少。
一方で、マスクを着けても露出する目元を強調するアイメークや、マスクの長時間の着用による肌荒れをケアするスキンケア商品の売れ行きが伸びています。
また、これまで海外の旅行客が日本で大量に商品を購入する「インバウンド消費」によって支えられていましたが、最近は観光客の激減で販売が大きく落ち込んでいます。

一方でネット通販は大きく伸びています。商品ラインナップの見直しや、店頭販売を軸にした従来のビジネスモデルからの転換が求められています。

そんな変革の時代にトップを務める魚谷雅彦社長。外資系の大手飲料メーカー社長などを歴任し、「プロ経営者」として知られる魚谷社長は、就任当初から資生堂をグローバルで戦える組織に変えないと生き残れないという危機感を持っていたといいます。
魚谷社長
「資生堂は変わらないといけないという強い危機感を持っていました。10年後、20年後、100年後を考えると、グローバルでの成長をさらに進めていかないといけない。そのためには、会社の中の風土やプロセス、仕組みの再構築を行い、社員の多様性や働き方の柔軟性を持たせないと会社の未来は作れないと思っています」

究極の適材適所とは?

「資生堂を変える」ために、魚谷社長が今、変えようとしているのが人事制度です。5年前の2015年から、本社の管理職およそ1200人を対象にジョブ型の制度を導入。来年1月、一般社員およそ3800人を対象に制度を拡大します。
日本の大企業を中心に広がっている終身雇用・年功序列といった「メンバーシップ型」の雇用制度ではなく、「ジョブ型」を取り入れることで、多様なバックグラウンドを持つ社員を登用し、その個性を引き出して会社経営に生かすことがねらいです。
魚谷社長
「ジョブ型を取り入れている欧米の企業の在り方がすべて称賛すべきことだとは決して思っていません。ただ、私はジョブ型が『究極の適材適所』だと考えています。ダイバーシティー(多様性)を進めるうえで、女性の活躍を推進するだけでなく、外国人にもっとビジネスに参画してもらう。あるいは新入社員から育ってきている人と同時に、外部から採用して入ってもらうなど、さまざまな形で人材の多様性を高めていくとなると、新卒一括採用・年功序列・終身雇用といったいわゆる日本型の雇用慣行は、高度成長期の日本ではよかった仕組みだと思いますが、今の時代に合わなくなってきていると思います」

資生堂のジョブ型の仕組みとは

管理職を対象にした資生堂のジョブ型雇用は具体的に次のような仕組みです。
・営業・開発・マーケティングなどおよそ20の部門で各ポストに応じたグレード(職級)を設定。
・社員は、自分の持つ専門性や職務経験などを考慮したうえで、希望するポストを会社側に伝える。
・会社側は、ポストで定めた専門性や経験に対して社員の適性を見てグレードを定め、要件を満たすポストに社員を登用。
・ポストについた社員は直属の上司と面談し、今後達成する目標や具体的な計画などを決め、ジョブディスクリプション(職務記述書)と呼ばれる文書を作成。
・ジョブディスクリプションで決めた目標の達成度合いに応じて、給与や次のポストが決まる。
多くの日本企業で導入されている年功序列や労働時間による評価に基づいた雇用制度だと、たとえば育児や家事をしながら時短で働く人や、海外から転職した外国人などは自分の能力や成果に応じた登用が進みにくいという課題がありました。

資生堂は、ジョブ型の導入で多様な立場の意見が経営に生かせるとともに、社員個人の成長も促せるとしています。実際にジョブ型制度で働く社員の話を聞いてみると、「目標が明確になった」「むだが減った」といった声が。
管理職社員
「職務記述書を作るのは大変ですが、達成すべき目標や成果が明確になることはいいことだと思います。達成できないのではないかとプレッシャーを感じることもありますが、徐々に慣れてきました」
管理職社員
「従来の時間管理だと、どうしても育児や家事で時間が足りなくて難しいところもあります。むだをそぎ落として、本当にやるべき本質的なことにしっかりと向き合えるようになったと思います」

人事からイノベーションを

魚谷社長は、ジョブ型を導入すること自体が目的ではなく、多様な個人の力を伸ばすことで、ビジネスにイノベーションを起こし、企業価値の向上につなげることが重要だと話しています。
魚谷社長
「時代が大きく変わる中で、従来のやり方ではなく新しい発想、新しい価値を創造していく必要があります。新型コロナウイルスの影響で、女性活躍の推進やSDGs、サステイナビリティーの動きが鈍くなるのではという見方が一部ではあると聞いていますが、私は逆だと思っています。今、経済的にはどの企業も苦しい状況になっていますが、だからこそ多様で柔軟な個の力を発揮できるような会社の基盤や制度を充実させてこの苦境を乗り越えていく力にしていきたいと思っています」
人事制度を改革することでイノベーションにつなげたい資生堂。年功序列や労働時間に縛られずに、自分のキャリアプランが実現できることは、「働き方の多様性」にもつながると取材を通じて感じました。

魚谷社長が言うように、欧米型がすべて正しいわけではありませんが、企業を人事から変えていこうという取り組み、期待して注目していきたいと思います。
経済部記者
白石 明大
平成27年入局
松江局を経て経済部で化粧品から鉄鋼業界までメーカーを幅広く取材