コロナ禍で見つめ直す “最期”

コロナ禍で見つめ直す “最期”
もし、家族や大切な人が病気で回復の見込みがない状態に陥ったら、人工呼吸器の装着などの延命治療を希望しますか?
その選択はコロナの場合でも同じですか?
新型コロナウイルスの感染が拡大し、国内の死者がクルーズ船の乗客も含めて1000人を超える中、自分や大切な人の“最期”を見つめ直そうという動きが広がっています。
(社会部記者 永野麻衣)

コロナで変化 “どう最期を迎えるか”

およそ80人が入居している大阪市内の特別養護老人ホーム。終の住処とするつもりで入居し、ほとんどの人が施設内での看取りを希望することから、どのような最期を迎えたいか、入居時に必ず意向を尋ねています。
心肺蘇生や人工呼吸器による延命治療を受けるため、病院に移ることを希望するか。
延命治療は望まず、苦痛緩和のための医療だけを受けるか。
それとも、施設にとどまり、栄養や水分の補給を行いながら最期を迎えるか。

施設長の田中綾さんは、入居者や家族と日頃から話し合いを重ね、確認してきました。
「苦しい、しんどいはイヤ」
「本人の負担となる過度な医療行為は望まない」

こうした意見が多く、入居者の84%が「延命治療は希望しない」としていました。

ところが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて改めて確かめたところ、ある変化が見えてきたといいます。
コロナに感染した場合、人工呼吸器の装着などの延命治療を希望する人が43%と大幅に増えたのです。
施設長 田中綾さん
「ふだんは延命治療を選択しないという人がほとんどなのに、今回は40%以上が延命治療を希望すると、数字が大きく変わりました。全く想像していなかったので、驚きました」

考えが変化 なぜ?

なぜ、考えが変わったのか。施設では、今、聞き取りを進めています。

話を聞くことができた23人のうち半数以上が「コロナは苦しいと聞くので、苦しまないようにできるかぎりの治療をしてあげたい」と回答。「新型コロナウイルスだと最期に会えないので、コロナで命を落としてほしくない」という意見もありました。

田中施設長は感染拡大をきっかけに、入居者やその家族が最期の迎え方について、より具体的・現実的に考えるようになったととらえています。
施設長 田中綾さん
「会えないのがつらいのでなんとか生きる選択をしたいということで、人工呼吸器の使用を選んでいるご家族もいます。選択に対して、一人一人真剣に考えていて、思いが一人一人あることがわかってきました。今回の意向確認の結果をどう受け止めて、どう生かしていくかが今後の課題で、なぜ選んだのかということをもっと丁寧に聞いていく必要があると思っています」

若い世代 向き合い始めた生と死

新型コロナウイルスの感染拡大は、幅広い世代に変化をもたらしています。
もしものときに備えて自分の希望などを記すための「私の生き方連絡ノート」。医師などで作る団体が、ことし4月、ホームページ上で公開しました。若い世代を中心にアクセス数が伸びています。
東京の22歳の会社員の女性は、都内で感染が広がる中、最近このノートを使い始めました。きっかけは「コロナ感染によって誰もが急に亡くなるおそれがある」という、胃がんを患った経験がある母親の勧めでした。
女性
「もちろん、私にもそのうち死が来るというのはわかっていましたが、海外では若者もコロナに感染して亡くなっているというのを見て、今、毎日電車に乗って人混みの中を歩いて出勤していることを考えると、ひとごとではないな、準備をしておく必要があるなと感じました」
もし急な病気や事故などで長い間意思表示ができない状態になったら、どうするか。

「生活の質が落ちる 後遺症が残る治療は 望みません」
「回復の見込みがない場合は、治療を止めてください」
女性は、こう記しました。自分が生きていくうえで、そして人生を終えるうえで、大切にしたいことは何かを考えた、現時点での結論だといいます。
女性
「もちろんそういった状況で生きている方もいらっしゃる、頑張っている方もいらっしゃるし、母の望みと私の望みというのはたぶん違うと思うんですけど、後遺症が残る状態で生き続けて今後長い人生を送る自信が、自分にはまだないなと思いました。私がこのノートを書くことで、いざというときに責任が母にいかず、判断のポイントや助けになると思うので、書いて残すというのは家族のためになると思います」
一方、娘が書いた内容を知った母親は。
母親
「私としては後遺症があっても生きていてほしいので、そこら辺はさらに深くお互い話し合いが必要だと思っています。環境が変わると気持ちも変わると思いますし、娘も結婚、出産すれば、何としても生きたいと思うかもしれないですし、環境が変わるたびに書き換えていく必要があると思っています」
ノートに書いた内容を互いに見せ合い、話し合ってきた娘と母。女性は、何を大切に生きていきたいか、見つめ直すきっかけになったといいます。
女性
「私が今後どうやって生きたいのかというのが定まっていない状態なので、大切にしたいことがまだブレがあって、まだ書くのが難しいなと感じました。今は正直、記入欄が埋まっていないところが多いんですけど、今後、大事なものができた時に書いていけたらいいなと思います」

“なにが大切か” 考えるきっかけに

感染拡大をきっかけに人々が向き合い始めた生と死。患者の意思決定支援に携わってきた専門家は、次のように指摘しています。
患者の意思決定支援に携わってきた紅谷浩之医師
「私たちが聞くべき人の意思というのは、延命治療をしてほしいかどうかだけでなく、人生において本当に大切にしたいことは何かということなので、矛盾するような考えが表れた時は、ある意味では、本当の思いを探るチャンス、しっかりと聞いておける大事な時期だと言えます。新型コロナウイルスが急激に新しく出てきて、命に関わるのではないかと恐怖や不安をあおられ、人生の最後について考えなきゃいけないと追い込まれるように決めてしまうのはよくありません。恐怖や不安に振り回されずに、自分の人生や生活、大事な人、大切にしたいことを考え、振り返るきっかけにしてもらえたらいいと思います」
社会部記者
永野麻衣