EU コロナ“復興基金”の設立合意 経済立て直しへ約92兆円

EU コロナ“復興基金”の設立合意 経済立て直しへ約92兆円
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EU =ヨーロッパ連合は、予定を大幅に延長して5日間にわたって首脳会議を行った結果、新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた経済の立て直しに向けておよそ92兆円の基金を設立することで合意しました。感染拡大で世界経済が大きな影響を受ける中、今回の合意によってEUが経済を立て直すことができるかどうかが注目されます。
EUは感染拡大で打撃を受けた経済の立て直しに向けて、17日から首脳会議を開き、7500億ユーロ、日本円でおよそ92兆円の基金を設立する案について協議しました。

当初の案では、基金のうち3分の2の5000億ユーロを返済義務がない補助金に、残りの2500億ユーロを融資にするとしていましたが、補助金に多くを割り当てることについて財政規律を重視する国々が強く反発し、当初2日間の予定だった会議は繰り返し延長されて5日間に及ぶ異例の事態となりました。

EUのミシェル大統領は新たな案を示すなどして協議を続けた結果、各国は21日未明になって補助金を大きく減額して3900億ユーロ、融資を3600億ユーロとすることで合意しました。

各国は、これらの財源を景気対策や環境、デジタル分野などへの投資に優先的に使って経済再建と雇用拡大などを同時に目指すことになり、合意によってEUが経済を立て直すことができるかどうかが注目されます。

資金はEUの執行機関、ヨーロッパ委員会が債券を発行して市場で調達するため、事実上、各国が共同で債務を負うことになり、EUの財政政策の統合に道を開く可能性もあると指摘されています。

各国は決裂を目前に何とか結束を示した形で、ミシェル大統領は会議後の記者会見で「ヨーロッパにとって歴史的な合意だ」と述べ、意義を強調しました。

仏マクロン大統領「歴史的な日」

EUが経済の立て直しに向けた基金の設立で合意したことについて、フランスのマクロン大統領は、みずからのツイッターに「ヨーロッパにとって歴史的な日だ」と投稿して、その意義を強調しました。

伊コンテ首相「野心的な復興計画」

イタリアのコンテ首相は、首脳会議のあとの記者会見で「EUが、直面している危機にふさわしい野心的な復興計画で合意できたことに満足している。合意によってイタリアを力強く再始動させ国を変革できる可能性を得た」と述べて、歓迎しました。

イタリアは、新型コロナウイルスの死者がこれまでに3万5000人を超え、EU加盟国の中で最も多いほか、感染拡大を抑えるために行った2か月近くに及ぶ外出制限で経済も深刻な打撃を受けています。

EUが今月発表した予測では、イタリアのことしの経済成長率はマイナス11.2%と加盟国の中でもっとも落ち込む見通しで基金の設立を強く求めてきました。

独仏首脳 合意の意義強調

EUの経済の立て直しに向けた基金の設立に向けて、議論を主導してきたドイツのメルケル首相と、フランスのマクロン大統領は21日、共同で会見を行い、首脳会議での合意の意義を強調しました。

この中でメルケル首相は「とてもほっとしている。今回はやり遂げることができた」と述べて、予定を大幅に延長して行われた厳しい協議を振り返りました。

そのうえで「異なる背景をもつ27の加盟国からなるEUが、ともに行動できることは、ヨーロッパを越えて重要なシグナルになる」と述べ、新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に続く中、多国間で協調する重要性を訴えました。

また、マクロン大統領は「合意できなければ今後、数か月、あるいは数年、もっと多くの出費を迫られていた」と述べて、今回の首脳会議で合意に至った重要性を強調しました。

マクロン大統領は今回、設立された復興基金でEU加盟国の共同の責任のもと、市場から資金を調達する仕組みが盛り込まれたことについて「ヨーロッパの結束に基づく復興基金は、ヨーロッパにとって。そしてユーロ圏にとって歴史的な変化だ」と指摘しました。

オーストリア首相「いい結果 倹約国で連携」

今回の首脳会議で、財政規律を重視するオランダ、オーストリア、そしてデンマークやスウェーデンなど北欧の国々は「倹約国」と言われ、当初、EU=ヨーロッパ連合が提示した案に反対し、補助金の割合を減らすよう強く主張し、復興基金については、環境やデジタル分野などへの投資に使うよう求めていました。

合意について、オーストリアのクルツ首相はツイッターに投稿し、「EUそしてオーストリアにとっていい結果を達成した」と評価しました。

また、クルツ首相は、記者団に対しても、「これは歴史的なものだ。『倹約国』との協力はきょうで終わりではなく、今後も続けていく。それがEU内の力のバランスにも関わるものとなる。EU内では大国のドイツやフランスが音頭をとっているため小国であるオーストリアなどが、立場を主張することは難しいが、首脳会議では最後の数日、われわれ小国が結束を示したことで、いい合意をもたすことができた」と述べ、今後もオランダなど財政規律を重視する国々と連携し、EU内で存在感を発揮したい意向を示しました。

米英韓の経済対策は

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、世界各国では大規模な経済対策が行われています。

〈アメリカ〉
このうちアメリカでは、今月までに日本円で総額300兆円規模の経済対策が発表され、職を失った人に対する失業保険の給付や、中小企業の支援などにあてられています。

〈イギリス〉
また、イギリス政府は、GDP=国内総生産の15%にあたる45兆円規模の企業の資金繰り支援に加えて、仕事がなくなった従業員の賃金の支払いを肩代わりしたり、飲食や観光の分野で日本の消費税にあたる付加価値税の税率を半年間、大幅に引き下げたりするなど、さまざまな対策を相次いで打ち出しています。

〈韓国〉
韓国では、これまでに3つの補正予算を成立させるなどして、日本円にしておよそ25兆円規模の政策パッケージを推進し、経済対策や感染対策などを行っています。
ムン・ジェイン(文在寅)大統領は先週、経済対策として、「韓国版ニューディール」と名付けた新たな計画を発表し、医療や教育をはじめ、あらゆる分野でデジタル化を進めるなどしてウイルスによる危機を克服していくとしています。

専門家「基金通じた支援はEU復興の起爆剤に」

EU=ヨーロッパ連合が経済の立て直しに向けて、およそ92兆円の基金の設立で合意したことについて、第一生命経済研究所の田中理主席エコノミストは「EUは、危機の初期段階で自国で医療資源を抱え込んで国境を閉鎖してしまい、イタリアやスペインに医療支援を提供できないなど必ずしもうまく対応できなかった。今回の復興基金の設立でEUが結束しなければ、その存在意義を問われかねない状況だった。債務の統合を部分的にでも実現できたことで結束は保たれた」としています。

そのうえで、この基金の設立がEU経済の回復につながるかどうかについて「イタリアのように財政不安を抱えていて、自力での財政出動が難しい国もある中で、基金を通じた支援はヨーロッパの景気回復につながる政策だ。環境やデジタルなどへの投資も含まれていて、EUの復興の起爆剤になる可能性を秘めている」と分析しています。

そして「アメリカなど世界での感染が増加の一途をたどっても金融市場は意外なほど安定している。その理由は、各国が財政政策や金融政策を総動員しているためだ。万一、基金の設立で合意できていなければ、金融市場に非常に動揺が広がっていただろう」と述べて、今回の合意は、日本を含め世界経済にとってもよいニュースだという見方を示しました。

さらに、今回合意したEUの基金のように、複数の国の共同の責任のもと市場から資金を調達する仕組みが他の地域でも可能かどうかについては「EUは、長年時間をかけて通貨などの統合を進めてきた。今回の基金の設立の合意は、そうした経緯があってようやくできた債務の共有化だ。他の国のために国民の税金を提供するのは非常に難しいことで、ほかの国や地域では非常にハードルが高い」として、こうした合意はEUだからこそ実現できた政策だと強調しました。