おいしいご飯でつながろう 地域を救う“シブ飯”とは?

おいしいご飯でつながろう 地域を救う“シブ飯”とは?
新型コロナウイルスで各地の飲食店の苦境が続いています。およそ1500の飲食店が立ち並ぶ東京 恵比寿の街も例外ではありません。その恵比寿の飲食店と地元の住民、企業を「お弁当」でつなぎ、コロナショックを乗り越えようという模索が始まっています。コロナの影響は長引きそうです。ほかの地域でもヒントになるかも知れません。(経済部記者 菅澤佳子)

もうダメだ… 相次ぐ閉店

恵比寿の街で、飲食店の支援に走り回っているのは高橋賢次さん。地元の飲食店情報など地域密着の話題を10年以上にわたってWEBで配信している“恵比寿新聞”の編集長です。

多くの客で賑わってきた地元の飲食店が、厳しい状況に追い込まれているのを見て「何もしないわけにはいかない」と思ったそうです。
高橋さん
「知り合いの飲食店の人から泣きながら電話がかかってくることもありました。もうダメだと。恵比寿では、3月以降、私が把握しているだけでも30軒以上の飲食店が閉店しています。こんな光景は見たことがありません」

こどもごはん 地域がつながるきっかけに

高橋さんは、手探りでできることを始めました。

まず恵比寿新聞のSNSアカウントを開放し、地元の飲食店が、“新聞”の2万人のフォロアーに自由に情報発信できるようにしました。個別のお店では届けられない情報を、多くの読者に広めるねらいでした。

またテイクアウトを始める飲食店が増えたのをみて、4月からは、“テイクアウト・デリバリーMap”を作って情報発信。
さらに、緊急事態宣言中の5月には、“こどもごはんプロジェクト”を始めました。外出できず自宅で過ごす子ども向けのお弁当を地元の飲食店に作ってもらい1食300円で販売する試みです。

「在宅で仕事をしながら子どもの食事を1日3食作るのは大変」
「テイクアウトは大人向けの味付けが多いから、子ども向けもあったら嬉しい」という読者の声がヒントでした。
ただ1食300円では、もうけが出ないため、読者に1口3000円の寄付を呼びかけ、参加してくれた飲食店に届ける仕組みにしました。プロジェクトに参加した恵比寿の焼鳥店は、地元のありがたさを実感したと話します。
長谷川店長
「緊急事態宣言が出て、もう無理かもと、毎日、心が折れそうでしたが、やれることは何でもやろうと続けてきました。そうこうしているうちに、お弁当を買ってくれた家族が週末、店まで食事に来てくれたり、パパが飲みに来てくれたりしたんです。コロナ以前は集客のことばかり考えていましたが、この仕事も地域に貢献できると思えるようになり、お店を続ける原動力になりました」
プロジェクトには、途中、ありがたい援軍も登場しました。

渋谷区が本拠地のプロバスケットボールチーム、サンロッカーズ渋谷のベンドラメ礼生選手です。自らデザインしたTシャツ600枚の売上げ100万円を寄付してくれたのです。
ベンドラメ礼生選手
「学校が休みになって元気をなくしている子ども達に何かしたいと考えました。子どもが喜んでくれたら、そのお母さんとか大人を喜ばせることもできる。私は元々作りたかったTシャツを作れるし、ファンも喜んでくれる。そして寄付した飲食店も喜んでくれる。Happyを連動させたいと思ったのです」

もうかる仕組みとは?“シブ飯”始動

“こどもごはんプロジェクト”は、地元の子育て世帯の反響も大きく、地域住民と飲食店をつなぐのに一役買いました。ただ、飲食店のまとまった売上げにはならず、支援策としては力不足なことも分かりました。

緊急事態宣言が解除されたあとも、来店客が、以前のように戻るまでには相当な時間がかかりそうです。どうすればいいか。高橋さんは地元を回って模索を続けます。
そして考え出したのが“シブ飯”プロジェクト。恵比寿周辺の渋谷区内の企業が、地元の飲食店に定期的にまとまった量(10食以上)のお弁当を注文するという仕組みです。企業という大口の顧客と飲食店をつなぎ、お弁当販売を軌道に乗せようと考えたのです。

7月中旬には、試しに恵比寿のワインバーが、徒歩5分のところにあるマーケティング会社に自慢のハンバーグカレー弁当12個を届けました。
北村店長
「まとまった注文だと作業効率も上がって運営もしやすいです。プロジェクトに期待しています」
山口さん
「近くのお店からできたてのお弁当が届くのがいいですね。地域の飲食店のためにもなるのならなおさらです」
お弁当をきっかけに地元の企業と飲食店が結びつけば、地域はもっとコロナを乗り越える力をつけられると高橋さんは期待しています。

今月中には企業と店をつないで注文を取り次ぐ特設サイトを立ち上げる予定で、いま企業や飲食店を回って参加を呼びかけています。

恵比寿の味を冷凍に

アイデアはまだあります。恵比寿の味を冷凍食品にして販売する試みです。とある場所の冷凍庫には、冷凍のパエリアやミートボールが保管されています。

先日、恵比寿のスペイン料理店のシェフが、衛生管理が徹底された埼玉県内の工場に出張して、自慢の料理をまとめて100食分作り、マイナス50℃で瞬間冷凍したものです。
解凍するだけで、お店の味を自宅で楽しむことができます。調理した時点で、高橋さんらが全部買い取る仕組みにすることで、飲食店にはまとまった収入が入ります。

スペイン料理店のほか、中華料理店のマーボー豆腐、担々麺など種類を増やし、7月中に販売を始めたい考えです。

地元をくっつけるハブに

ただ、取材していて私には1つ疑問がありました。高橋さん自身の儲けはほとんどないというのに、なぜ飲食店のためにそこまでするのか、という点でした。
高橋賢次さん
「恵比寿の街にお世話になってきたし、そんなお世話になった人たちが苦しんでいるのを見るのは耐えられないのです。お金は後から絶対ついてくると信じています。私なりの人脈を活かして、くっつけ屋さんというか、ハブにならなきゃいけないなと思っています。そういう人が1人くらいいてもいいのかなと。こんな時ですから、小さな個性が助け合って回っていくような仕組みを恵比寿の街で作りたいのです」
地域のつながりに改めて可能性を見い出してコロナ危機を乗り越えようという、草の根の試み。ほかの地域でも参考になるのではないかと感じています。

一連の取り組みがどんな成果につながるでしょうか。恵比寿新聞から次にどんな情報が発信されるか、チェックを続けようと思っています。
経済部記者
菅澤 佳子
平成16年入局
札幌局を経て現所属