介護施設で相次ぐクラスター コロナ感染の経緯は?課題は?

介護施設で相次ぐクラスター コロナ感染の経緯は?課題は?
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新型コロナウイルスの感染が再び拡大する中、重症化のリスクが高い高齢者が利用する「介護施設」で、集団感染が相次いでいます。
このうち、東京・荒川区の介護老人保健施設「ひぐらしの里」では、今月15日までに入所者25人、職員7人の合わせて32人の感染が確認されました。

また、東京・足立区の通所介護施設「足立ケアコミュニティそよ風」では、18日までに利用者と職員合わせて30人の感染が確認されました。

東京都以外でも、千葉県松戸市の特別養護老人ホーム「松戸陽だまり館」で今月11日までに入所者と職員、合わせて5人の感染が確認されたほか、福岡県うきは市の通所介護施設「ひまわりの郷吉井」では19日までに職員と利用者、合わせて8人の感染が確認されています。

厚生労働省によりますと第一波の時も含めてこれまで少なくとも全国47の介護施設で集団感染が報告されています。高齢者は重症化するリスクが高いだけに厚生労働省は介護施設に対し、「感染者が出た場合にどのような対応を取るのか十分に確認して備えを進めてほしい」と呼びかけています。

発生の経緯は?

集団感染が確認された介護施設のうち、千葉県松戸市の特別養護老人ホームがNHKの取材に応じました。

特別養護老人ホーム「松戸陽だまり館」は、今月11日までに入所者2人、職員3人の合わせて5人の感染が確認され、千葉県はクラスターが発生したと公表しています。第一波のあと各施設が警戒を強める中、どのようにして感染は広がったのか。

施設を運営する社会福祉法人によりますと、最初に感染が確認されたのは6月29日、30代の男性職員でした。感染経路は不明で、市中で感染したのではないかとみられています。

その2日後(7月1日)に、男性職員と一緒に利用者の入浴介助などを行っていた別の職員と、この職員が勤務していたフロアにいる90代の入所者の女性の合わせて2人の感染が確認されました。

施設は、入所者のいるフロアを感染のリスクが高い「レッドゾーン」と位置づけ、入所者がほかのフロアの人と接触することを防ぎ、職員にはガウンやゴーグルなど防護具の着用を徹底させるなどして感染拡大の防止を図りました。

その結果、別のフロアから感染者は出ませんでしたが、今月6日には同じフロアに入居する80代の女性、10日にはこのフロアに応援に入っていた男性職員の感染が確認されました。

感染が確認された5人のうち職員3人はすでに全員退院し、入所者2人は今も入院していますが、症状が重い人はいないということです。

施設を運営する社会福祉法人の木村哲之本部長は「施設にウイルスを持ち込まないよう職員も相当気を付けながら生活を送っていたが、突然にすっとコロナウイルスが足元に忍び寄ってきた感覚だった。施設で感染が拡大しないよう早い段階でゾーニングを行うなどできるかぎりの対策を実施した」と話しています。

課題は?

さらに取材を進めると松戸市の特別養護老人ホームでは、対応にあたる上でいくつかの課題に直面していたことがわかってきました。

1 全員のPCR検査が認められない

その1つは「検査」です。最初に男性職員の感染が明らかになった時、施設は保健所に対し、入所者や職員の全員などおよそ160人にPCR検査を実施してほしいと要請しました。

しかし保健所が行政検査の対象としたのは男性職員が担当するフロアの入所者や職員などのおよそ40人でした。

これに対し、検査の対象に含まれなかった職員などからは不安の声があがりました。中には、同居する家族に高齢者がいて、帰宅せずに廊下に設置したベッドや車の中で寝泊まりする職員もいたといいます。

その後、施設は市や医師会が開設した検査センターと交渉し、ようやく全員の検査が実現しましたが、最初の感染者が確認されてから2週間がたっていました。

検査の結果、陽性となった人はいませんでしたが、施設を運営する社会福祉法人は、職員が安心して仕事できるよう国や行政はできるかぎり検査の対象を広げてほしいと考えています。

またPCR検査を行う際にも課題に直面しました。

保健所から検体を採取する医師は施設みずからが探すように言われたのです。

ふだん施設で診察を行っている嘱託医は自宅待機となり、対応してくれる医師がすぐには見つからなかったといいます。

2 すぐに入院させられない

もう一つ大きな課題となったのが、「感染者を即座に入院させられないこと」でした。

今月1日、施設で3人目となる90代の入所者の女性の感染が確認された際、受け入れ先の病院がすぐには決まらず、女性は一晩、施設内で過ごさざるをえませんでした。保健所が調整を進めたほか、施設も近隣の病院に受け入れを依頼しましたが、すぐには見つからなかったということです。

施設は急きょ、夜勤の職員を増やして対応にあたりました。

すぐに入院させられなかったことで、感染が広がったかどうかはわかっていませんが、施設側は高齢者は重症化のリスクも高いので、できるだけ早く入院させてほしいと訴えています。

施設を運営する社会福祉法人の木村哲之本部長は「感染者が1人出た場合、施設内で感染の拡大を食い止めることが何よりも重要で、そのためにも全員のPCR検査や感染者の入院が速やかに実施できる仕組みを検討してもらいたい」と話しています。

専門家「迅速な入院と徹底した検査を」

全国各地の介護施設で集団感染が相次いだ第一波では、感染者の入院や入所者の検査がスムーズに進まず、結果的に感染が拡大したと指摘されるケースもありました。

介護行政に詳しい淑徳大学の結城康博教授は「ウイルスを施設に持ち込まない対策をどれだけ徹底しても、職員などが市中で感染してしまうことがある。感染者が出てしまった時にいかに早期に拡大を防ぐかが重要で、迅速な入院と徹底した検査は最低限の対策だ」と指摘しています。

そのうえで、「介護に対応できる医療機関は少なく、高齢の感染者が入院を断られるケースが出てくることも想定されるため、できるだけ早期に、医療現場で介護に対応できる人員を拡充したり、介護に対応した宿泊療養施設を整備したりすべきだ」としています。

千葉県の対応は

松戸市の特別養護老人ホームの集団感染への対応について、千葉県は「県の対応に問題はなかったが今後も幅広く施設関係者からの話を聞いて真摯(しんし)に対応していきたい」としています。

まずPCR検査について、すぐに入所者や職員全員の検査を行わなかったことについて、千葉県は感染症専門の看護師などが何度も施設に入って濃厚接触者を精査し、検査の対象者を決めたとして、「『安全』のための検査をもれなく実施した結果すべての感染者を県の検査で把握できた」としています。

そして検査対象には優先順位をつける必要があるとしたうえで「県として『安心』のための検査は今はできない状態だが、国から対象を拡大すべきという新たな通知が来れば、それに沿って実施していく」と話しています。

また、PCR検査の検体を採取する医師の確保については、施設には2人の嘱託医が登録されているほか、協力する医療機関もあったことから協議の結果、医師は施設側で見つけられると考えていたとしています。

今回は「どうしても見つからないという相談があれば保健所で対応したと思うがそこまで医師の確保に苦労しているという認識はなかった」としたうえで「特別養護老人ホームや介護老人保健施設には入所者の健康管理を行う医師が配置されているので特に、今回のように認知症の人などがいる場合にはふだん診ている医師が対応したほうがスムーズなので原則、自分たちで確保してほしい」と話しています。

また、感染者を即座に入院させられなかったという指摘については、千葉県は「受け入れる側などの準備や搬送する車の手配もあるので病状にもよるが入院に際して1、2日かかるのはやむをえない」としたうえで、今回のケースについては検査結果がわかったのが午後で翌日には病院で受け入れていることから「今回はスムーズに入院調整ができたケースだ」としています。

そのうえで、今回のクラスターの対応について「物資の支援や専門家の派遣を何度も行い、県としては『5人という人数で抑えることができた』という認識だった。今後、こういった施設がどんな対応を求めているのか幅広く聞き取りを行っていくとともにいったん感染者が出た際に感染拡大させないための対策の周知などに力を入れていきたい」と話しています。