コロナ禍で働くということ ~伊藤忠商事 岡藤会長にきく~

コロナ禍で働くということ ~伊藤忠商事 岡藤会長にきく~
午後8時以降の残業を原則禁止する一方、午前5時から9時までの早朝勤務に割増手当を支給。会社員の働き方で、いち早く“朝型シフト”を導入したのが大手商社、伊藤忠商事です。その伊藤忠、新型コロナウイルスの感染拡大で多くの企業が働き方の見直しに取り組む中、どのような働き方を目指しているのでしょうか。岡藤正広会長に聞きました。(経済部記者・池川陽介)

働き方先進企業 伊藤忠

社員4300人余りの伊藤忠、これまで働き方改革でも注目を集めてきた企業の1つです。最も特徴的なのは2013年に始まった「朝型勤務」。商社の代名詞とも言われた夜の長時間残業をやめて、生産性を高めようと導入されました。
伊藤忠の朝型勤務
▽午後8時~午後10時 「残業原則禁止」 午後10時~翌日午前5時 「残業禁止」

▽午前5時~午前9時 「割増手当」 午前8時までに出社 軽食を無料提供
今では、午後8時以降に残業する社員は全体の5%に減った一方、午前8時より前に出勤して仕事をする社員は半数近くになりました。全体の残業時間も10%程度減ったそうです。

このほかにも「飲み会は1次会のみ、午後10時まで」「脱スーツデー」「がんと仕事の両立支援」など、働き方に関して斬新な取り組みを相次いで打ち出しています。

その伊藤忠、緊急事態宣言を受けて、どんな働き方をしてきたのでしょうか。
岡藤会長
「在宅勤務など、とにかく会社には来るなと言ってました。社員には、とにかく命を大事にせよと。命さえあれば仕事はいつでもできる、こう指示したんですね」
まずは、社員の命を守るため在宅勤務を徹底して行いました。宣言の期間中、出社した社員の割合は1割程度。ふだんならば4000人が働く東京・青山にある本社ビルの中は、ひっそりと静まり返っていたといいます。

社員から届いた1通のメール

ただ、岡藤さんは在宅勤務一辺倒ではない働き方も必要だといいます。

「客のもとに足を運び、同じ目線に立つ」という商社の社員としての基本を忘れてはならないと考えているからです。そう考えるようになったきっかけは、社員からの1通のメールでした。
岡藤会長
「あるメッセージというか、メールが僕のもとに入ってきたんですよ。女性総合職の社員なんですけどね、在宅勤務をしている時に、自分が担当している婦人服メーカーがデパートにコーナーを出してて、心配になったのでずっとまわったと。その時に鏡の前で女性スタッフがマスクをしながらなんかウロウロしている。なんだと言ったら、マスクをしていてもお客さんに笑顔をどう伝えられるか、必死になって研究していると。これに、その社員は感激して、一日売り場に立って、帰りに自分で服買って帰った。僕はね、これがやはり商人の姿勢じゃないかなと」
現場の課題は、現場に足を運ばないとわからない。在宅勤務を続けるとしても、商社の社員としての仕事の基本は忘れてはならない、という訳です。
岡藤会長
「(会社の中で)国民生活に密着した部署の人間は、例えば取引先のコンビニとか、デパートに店を出している人と同じ目線でやらないと。過度に自分たちの安全を優先するというのは、商人としていかがなものかと。こう思ったんですよね。したがって、宣言が解除された後に、これからはそういう部署に関しては原則出社する。こういうふうに変えたんです」
もちろん、全員一律に出社を求めたわけではありません。小さい子どもや介護が必要なお年寄りがいる社員は在宅勤務を継続するなど、社員一人一人の実情に応じたきめ細かな対応を取りました。

社内の感染防止対策も徹底しました。例えば、会社の入り口を分けたり、食堂のレイアウトを変えたりするなどして、3密にならないようにしています。

ウィズコロナの働き方とは

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、日本企業の間でも新しい働き方を導入する動きが相次いでいます。

日立製作所は来年4月から国内およそ3万3000人の従業員のうち、製造現場で働く人などを除いて週2、3日をテレワークにし、出社する人数を半分に抑える方針です。

大手菓子メーカーのカルビーは、オフィスで働くおよそ800人は、原則テレワークにし、業務に支障がないと会社が判断した場合は単身赴任をやめることにしました。

では、コロナ以前から働き方改革に積極的に取り組んできた伊藤忠は、これから先、どういう働き方を目指すのでしょうか。
岡藤会長
「感染者が増えると、出社の数を抑えないかんし、状況を見ながら判断していくことになる。働き方も在宅か、出勤かの二者択一ではなく、個人や部署に応じて、対応を個別にしていくべきだということを指示しているんですよね。働き方改革はこれ、楽することではないと。いかに効率を上げて、家庭との両立をするかと、ま、こういうことですから」
実際、全国的に感染が拡大している現在の状況を受けて、伊藤忠は7月20日から、在宅勤務の社員を再び増やし、出社する社員の割合を5割程度に抑えることにしました。

~在宅か、出社か~“仕事の棚卸し”の必要性

コロナ禍で、在宅勤務を初めて経験した人も多いと思います。それをきっかけに、「毎日、満員電車に揺られて会社に行く必要ある?」とか、「仕事の“成果”って何?」って考えた人もいるかもしれません。

かくいう私も緊急事態宣言の期間中、在宅勤務をやりました。オンラインでのインタビューも体験し、対面より時間や距離の制約が少なくなる分、気軽に応じてもらえるという発見もありました。

一方、記者の仕事の基本は、現場に足を運んで、相手と直接を話をすることだと考えています。そうすることで信頼関係が生まれ、時に固く口を閉ざす相手から真相に迫る情報を引き出すことにつながるからです。

そんな私にとって“コロナ禍”は、まさに戸惑いばかり。取材相手との接触の機会は激減し、記者会見もほとんどオンラインになりました。オンラインでは真実を引き出すための相手との丁々発止のやり取りもできず、もどかしい思いばかりが募りました。
ただ、1つ気付いたことがあります。それは「仕事の棚卸し」の必要性です。情報を調べて整理したり、原稿にまとめたりすることは在宅でもできますが、重要な情報を手に入れるためには、実際に現場に足を運び、人に会わなければいけません。同じようにいろんな仕事も「在宅でできるもの」と「在宅では置き換えられないもの」があるはずです。

働き方が大きく変わろうとしているこの機会に仕事の中身を一つ一つ見直し、在宅でできること、できないことを整理して、自分なりに働き方を組み立ててみる。

その試行錯誤の先に、自分の新しい働き方を見つけ出したいと考えています。
経済部記者
池川 陽介
平成14年入局
仙台局、山形局などを経て
現在は貿易や雇用を取材