イタリア人作家からの警告 コロナ時代の生き方とは

イタリア人作家からの警告 コロナ時代の生き方とは
新型コロナウイルスの感染拡大はなぜ起きたのか。コロナ以前の世界を思い出し、ふと考えることがあります。その答えが「私たち自身のせいだ」と言われたら、皆さんはどう思うでしょうか? 今、コロナで深刻な被害を受けたイタリアを代表するベストセラー作家、パオロ・ジョルダーノさんが書いた本「コロナの時代の僕ら」が、世界中で注目されています。感染が拡大したイタリアで何を思い、これからの時代をどう生きるべきだと感じたのか。作者のジョルダーノさんが本に込めた思いをインタビューで聞きました。(国際部記者 山田奈々)

世界に警告する手段

「この本は、コロナがイタリアの問題でも中国の問題でもなく、世界全体の問題だと警告するための手段として書きました」
イタリア人作家のパオロ・ジョルダーノさんは、インタビューの中で本を書いた理由についてこう述べました。

「コロナの時代の僕ら」はジョルダーノさんがことし2月末から3月初旬にかけて書いた27編のエッセーをまとめたものです。当時はまだ、多くの人が新型コロナウイルスは深刻な問題ではないと捉えていたといいます。
「本を書くことで、この混乱を少しでも整理できるのではないか」「欧米の中でも感染拡大の最前線にいるイタリアには、他の国に対する責任もあったと思う」
ジョルダーノさんは、4か月前をこう振り返りました。

イタリアの芥川賞とも言われる「ストレーガ賞」を受賞したこともあるベストセラー作家が“世界に対する警告”として書いたこの本は、34か国で合わせておよそ200万部出版されています。外国の翻訳書であれば1万部で成功とされる日本でも、4月末の発売以来、5万部を超える静かなヒットとなっています。

“わかりやすさと共感”

この本がなぜ、世界中で注目されているのでしょうか。その答えは「わかりやすさと共感」にあります。
まず「わかりやすさ」。作者のジョルダーノさんは大学院で素粒子物理学を専攻したのちに小説家になるという異色の経歴の持ち主です。本では科学者として未知の感染症について、冷静、正確な事実把握につとめながらも、小説家ならではの豊かな表現力でわかりやすく描写します。例えばジョルダーノさんは本の序盤で、感染症がどのように広がっていくのか、私たち一人一人をビリヤードの球に例えて説明しています。
「感染した球が1つ猛スピードで突っ込んでくると、その球は2つの球にぶつかってから動きを止め、弾かれた2つの球は、それぞれがまた別の2つの球にぶつかる。このパターンが延々と繰り返されて感染症の拡大が始まる」
感染が広がるスピードについて感染症に詳しくない人にもイメージしやすく説明しているのです。

もう1つのポイントは「共感」です。例えば、イタリアで急速に感染が拡大するなか、ジョルダーノさんが友人宅に夕食に招かれるシーン。

「感染者数が2000人を超えたら自主隔離しよう、これが最後だ」と自分に言い聞かせて出かけます。しかし、食事中に友人たちが「あと何日かすれば元の生活に戻れる」と話すのを聞き違和感を感じます。

そして、「感染症の流行に際しては、実現性の低い未来を待ち望めば、人はたび重なる失望を味わうはめになる」と指摘しているのです。

実際に「あと何日か」では感染が終息しなかったいま、多くの人が同じような葛藤や失望を身をもって経験し、ジョルダーノさんに共感できるのです。

間違いは“平時”にすでに発生

いくつものエッセーの中で、たびたび触れられているのが、なぜ新型コロナウイルスの感染が拡大したのか、その根本的な原因についてです。

ジョルダーノさんは、地球温暖化や森林破壊など、環境に対する人間の攻撃的な行動が生態系を壊し、絶滅していく動物の体内に生息していた細菌などが行き場を失っていると説明。その細菌の“引っ越し先”として、病原体に感染しやすい人間が選ばれやすく、今後も未知の病原体と接触する可能性は高まるばかりだとしています。

そして「どうしても犯人の名を挙げろと言うのならば、すべて僕たちのせいだ」と述べて、新型コロナの原因は、私たち自身にあると繰り返し訴えています。
(記者)
世界中で感染が拡大してしまうにあたり、私たちはどこで、何をどう間違えてしまったのでしょうか?

(ジョルダーノさん)
感染拡大を抑えるためにどうすればよかったのか、具体的なことはまだはっきりしていません。しかし、今言えるのは、大きな間違いはコロナの感染が拡大する前に、つまり平時にすでに起きていたということです。コロナは予期せぬことだと言う人たちがいますが、それは全くのうそです。2003年のSARSの流行以降、専門家たちはこうした感染症が再び流行する可能性を警告していましたが、平時には、私たちはそうした声に耳を貸しませんでした。コロナは、世界全体の懸念です。グローバルな問題に対しては、グローバルに対応しなければ、同じ間違いを何度も繰り返してしまうことになります。自分たち中心のローカルな思考回路を変えなければなりません。

忘れたくないことリストを書こう

本の最後で、ジョルダーノさんは新型コロナウイルスが「過ぎたあと」のことを念頭に読者にこう呼びかけています。
「僕は今、忘れたくない物事のリストを作っている。誰もがそれぞれのリストを作るべきだと思う」
このリストはここまで状況を悪化させた原因を探るために作るものだということで、平穏なときが戻ってきたらリストをもとに、するべきことを考えたいとしています。

そして、「僕は忘れたくない」というフレーズを10回にわたって繰り返し、自身のリストを紹介しています。このうちヨーロッパが感染拡大の危機の際に結束できなかったことについても「忘れたくない」としています。

(記者)
危機の際にヨーロッパが結束できなかったことをどう感じていますか?
(ジョルダーノさん)
ヨーロッパが結束できなかったことがこのコロナ危機の最も絶望的なところです。みな自分がいる場所、自分の国にばかり目を向けていました。イタリアで感染拡大がひどくなった時、寂しく、一人ぼっちのような気がしました。隣国でさえこのコロナの感染は自分たちには関係ないことのようにふるまっていたのです。私たちの他者に対する思いやりがとても限られたものであることに失望するとともに、恐怖を覚えました。コロナの時代を生きていくのに最も大切なのは結束のはずです。

犠牲者の死を忘れるな

本の出版以降も、およそ4か月にわたって、この「忘れたくないことリスト」を書き足し続けてきたというジョルダーノさん。今ではそのリストがノート3冊分の長さになったといいます。

(記者)
この4か月間を振り返り、最も忘れたくないことは何ですか?

(ジョルダーノさん)
コロナの犠牲になった人たちのことです。亡くなった人たちのことを忘れることは、私たちが考えるよりずっとたやすいことだと思います。彼らの死は、私たち一人一人に対しての、同じことが起きないようにするための警告です。私たちの自然や環境、社会に対する接し方を変えるべきだという警告なのです。すぐに忘れるなんてもってのほかですが、私の周りではすでに彼らの死を忘れている人が多いように感じています。

取材を終えて

日本国内で死者数が減少傾向にある今、私たちは亡くなった人たちからの警告に、どれだけ心の耳を傾けることができているでしょうか? ジョルダーノさんに、まるで自分のことを指摘されたような気がして、ハッとさせられました。

この本は、私たちが自然との接し方についてみずからの行動を改めないかぎり、たとえワクチンや薬が開発され、コロナが過ぎ去ってもまた同じような感染症が繰り返し発生するにちがいないというジョルダーノさんからの警告です。

この警告を聞いて、皆さんはどう感じるでしょうか?私も自分の生き方を見直すきかっけにしたいと思います。
国際部記者
山田奈々

平成21年入局。長崎局、千葉局、経済部を経て現在、国際部でアメリカ、ヨーロッパを担当