遺言書作りました 30代ですが

遺言書作りました 30代ですが
皆さんは、万が一のために遺言書を書いていますか。いずれ作るつもりはありますか。残される人たちが相続でもめないためにも遺言は重要です。ただ、せっかく遺言書を書いても、家族が見つけられなければ意味がありません。そこで7月10日から、法務局が遺言書を保管してくれる新たな制度がスタートしました。この機会に30代前半の記者も遺言書、作ってみました。(経済部記者 寺田麻美)

大相続時代 増えるトラブル

高齢化が進むいまは“大相続時代”といわれます。遺産分割のトラブルも増えています。

最高裁判所によれば、昨年度に全国の家庭裁判所が新たに受理した遺産分割に関する調停や審判の件数は速報値で1万5000件余り。10年前に比べて17%増えました。しかも、相続争いは、資産家に限った話ではありません。
遺産額が1000万円以下のトラブルが33%。1000万円超~5000万円以下が42%なのです。この数字をみれば、一般の家庭でトラブルが起きていることがわかります。

トラブルを回避するために、死後、誰に何を相続させるか遺言しておくのは“残される家族へのマナー”ともいえそうです。

遺言書 作るのは10人に1人

では、遺言書はどうやって作るのでしょうか。大きく分けて2つ方法があります。

1つは公証人という法律の専門家のアドバイスを受けながら作る「公正証書遺言」です。遺言書は、財産に応じて数千円から数十万円の手数料を支払って作り公証役場に保管されます。

もう1つは自分で書いて自分で保管しておく「自筆証書遺言」。死後、家族などが、家庭裁判所に提出して、裁判官や相続人の立ち会いのもと、中身を確認する「検認」という手続きをする必要があります。去年、作成された「公正証書遺言」は11万件余り。裁判所に持ち込まれた「自筆証書遺言」は昨年度、1万8000件余りでした。

この2つを足して、去年の死亡者数で単純に割ると、およそ10人に1人が遺言書を書いていたという計算です。2つを比べると手軽なのは「自筆」のほうです。保管方法も自由ですが、死後、家族が見つけられずにせっかくの遺志が生かされない、あるいは、見つけた家族が自分の都合のよいように改ざんするおそれもあります。

法務局で預かります

そこで、より安心して遺言を残せるようにと7月10日から始まったのが、自筆の遺言書を全国312の法務局が保管する制度です。自筆の遺言書の手軽さを残しつつ「公正証書遺言」のように公的機関で保管できるようになるという仕組みです。

遺言を残したい人は、自分で書いた遺言書を持って法務局に出向き、申請をすれば、原本とそのデータを保管してくれて、その人が生きている間は、ほかの人が見たり、持ち出したりできません。
死後、相続人などが保管されている遺言書を見ることができる仕組みで、検認は必要なく、保管の手数料は1件3900円。法務局は形式はチェックしますが預かるだけで遺言の中身が法律にのっとっているか確認したり相談に応じたりはしません。

遺言書、作ってみました

これを機会に、記者は、自分で遺言書を作ってみることにしました。今月、オンラインで行われた遺言書作成セミナーに参加しました。

セミナーの前に、まず、自分の財産の情報集めです。不動産を持たない30代の記者の財産といえば、いくつか持っている銀行口座の預金と生命保険くらいですが、記帳せずしまい込んだ通帳と保険証書を探し出すのに一苦労しました。
資料がそろったら法務省のホームページにある遺言書の見本を印刷して下書き。用紙はA4サイズの大きさで、ボールペンで、夫と子どもに財産を相続させる旨を書きました。財産目録の部分には、預金通帳や生命保険証書をコピーして準備完了。いざ、オンラインセミナーです。
この日のセミナーには、30代から60代のおよそ30人が参加しました。講師の柿沼大輔司法書士がひととおり説明したあと、質疑がはじまりました。
Q 通帳がないインターネットバンキングの口座はどう財産の目録に記すのか?
A 紙の通帳がない場合は、会社や支店、口座番号を書いてもいいし、ネットの画面のスクリーンショットをプリントアウトしてもよいです。ただしIDとパスワードは、防犯の観点からは、遺言書には書かないほうがいいです。
Q 遺言執行者とは、何をする人か。誰を指定すればいいのか?
A 遺言の内容に沿って手続きする人を言います。相続でもめるリスクが低いという人は、相続人の一人を遺言執行者にしてもいいし、書かなくてもいいです。もめる可能性がある人は、事前に専門家に相談して報酬の打ち合わせをしたうえで、遺言執行者として指定したらよいと思います。
このほか講師があげた注意点は、「遺言書を作成した年月日を書く」こと。「令和2年7月吉日」とか「令和2年7月大安」といった表現では無効になるそうです。

また「遺言書と財産目録にはそれぞれ署名と押印が必要」だそうです。

さらに、遺志を伝えて家族がもめないようにするために「なぜ財産をそのように分けようと思ったのか」を遺言書にしっかり書いておくことが重要だと強調していました。

セミナーに参加した49歳の男性は、「自分の財産をまとめて、一つ一つどう相続させるかこれまで考えたことはなかった。遺言書を一から書くのは大変だったが、今回のようにアドバイスをもらえてよかった」と話していました。

遺言書、書き方のポイント

参考に、講師があげたポイントをまとめます。
・全部自筆で書く、日付を特定(吉日・大安は避ける)。
・財産目録の一枚ごとに自分の署名と押印を(印鑑は実印がおすすめ)。
・相続させる人の、住所と氏名、生年月日、続柄を書くのがいい。
・遺言書に封印は必ずしも必要ではない。
・不動産は、登記されている地番か家屋番号を書く。
・財産の部分は、パソコンで書くことが可能になった。
・自分の思いを書いておくといい。

それでもトラブルになる場合も

ただ、注意しなければならない点も少なくありません。

1つは、法務局では、遺言書の内容までチェックはしないことです。例えば、妻と長男、長女を残して亡くなった男性が「長男に全財産を相続させる」と書くと、法律上、妻と長女に認められる最低限の取り分(遺留分といいます)を侵害する内容になり、トラブルになってしまう可能性があります。

また、自分で書かないといけませんし、法務局で保管してもらう場合、本人が出向かないといけないため、高齢で字が書けなかったり、入院していたりすると、利用できません。
柿沼司法書士
「公証人の手数料がかかっても安全確実な方法を選びたいという人は、公正証書遺言を選ぶといい。また、50代や60代のまだまだ元気な人たちは、自筆の遺言をまず作って法務局に保管しておいて、状況が変わったら書き直すという選択肢もある。その人の健康状態や財産の状況などで、どちらがいいか変わってくると思うので、専門家に相談するとよい」
遺言書を書くか、書かないかは人それぞれです。記者は、自分が死んだあとのことを考えるのに少し抵抗を感じました。ただ自分の財産をしっかりと把握し、これからの生き方や人生設計を考えるきっかけになると感じました。
経済部記者
寺田麻美
平成21年入局
高知放送局をへて経済部で消費の現場から相続問題まで幅広い分野を取材