アイヌ文化の発信拠点「ウポポイ」開業記念式典 北海道 白老町

アイヌ文化の発信拠点「ウポポイ」開業記念式典 北海道 白老町
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北海道白老町でアイヌ文化の発信拠点となる国立施設、「ウポポイ」が12日開業するのを前に、政府の記念式典が開かれました。
失われつつあるアイヌ文化を復興・発展させる拠点として、国が整備した「国立アイヌ民族博物館」を中心とする「ウポポイ」は12日、北海道白老町で開業します。

施設の正式名称は「民族共生象徴空間」で、愛称の「ウポポイ」は、アイヌ語で「大勢で歌うこと」を意味します。
11日開かれた政府の記念式典で、菅官房長官は「アイヌの方々が民族としての名誉と尊厳を保持して次世代に継承していくことは、多様な価値観が共生する社会を実現するために極めて重要だ。国内外から多くの人が訪れ、民族共生の理念に共感してもらえるようウポポイの魅力向上に全力で取り組んでいく」と述べました。

また、アイヌの地位の向上に取り組んできた北海道アイヌ協会の加藤忠 常務理事は「人間の本当の価値は民族の属性ではなく、個人の精神に宿るものだ。ウポポイが人類の和合と共生の精神に寄与する施設になることを確信している」と涙ながらにあいさつしました。
このあと施設内のステージでは、ユネスコの無形文化遺産に登録されているアイヌの古式舞踊が披露されました。

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、ウポポイの入場には予約が必要です。詳しくは、ウポポイのホームページをご覧ください。

ウポポイとは

「ウポポイ」は、失われつつあるアイヌ文化を復興・発展させる拠点として、政府が北海道白老町におよそ200億円をかけて整備しました。

およそ10ヘクタールの敷地には北日本で初めての国立博物館や、アイヌの歌や踊りを鑑賞できるホール、それに、アイヌの人たちの遺骨を慰霊する施設など、多くの施設が点在しています。

このうち「国立アイヌ民族博物館」には、アイヌの人たちが使っていた生活道具や資料など、およそ1万点が収蔵されていて、常設展示室では、歴史やことばなど、6つのテーマに分けておよそ700点が展示されています。

また500人以上を収容できる「体験交流ホール」では、ユネスコの無形文化遺産に登録されているアイヌの古式舞踊や伝統楽器の演奏などを鑑賞できます。

湖のほとりには、アイヌの伝統的な集落が再現され「チセ」と呼ばれる家の中を見学できるほか、神様に祈りをささげるアイヌの儀式を見学することもできます。

このほか、アイヌ文化を体験できる交流施設も整備されましたが、新型コロナウイルスの影響でアイヌ料理の調理や伝統楽器の演奏など、感染リスクのある体験プログラムは、当面、実施を見合わせることにしています。

ウポポイで新たな表現模索

ウポポイでは、アイヌ文化を新たな表現で発信していくことにも力を入れています。

開業にあわせて、アイヌ民族に古くから伝わる物語を描いたアニメーションが制作され、施設内のホールで毎日、上映されています。

アニメでは、アイヌの少年が「カムイ」と呼ばれる神様との関わりを通じて成長していく姿が描かれています。アイヌ独特の動きを再現するため、「モーションキャプチャー」と呼ばれる新たな技術を取り入れました。

ウポポイの職員で、アイヌにルーツを持つ山道ヒビキさん(31)の手足の動きをセンサーで読み取り登場人物の動きを作ります。また、アイヌの青年が神様に祈りをささげる声も山道さんが吹き込みました。山道さんは、アイヌの家庭で育ち若くしてアイヌ文化を伝える仕事に就きました。

しかし、伝統だけにこだわる従来の伝え方に限界を感じ、アイヌ文化が若い世代にも受け入れられるよう、ウポポイでは新たな表現を模索し続けたいとしています。

山道さんは「伝統的な暮らしや踊りだけを紹介すると、今もそういう暮らしをしていると誤解された。伝統的なものにこだわりすぎるのはよくない。アイヌ文化が先細りしていく原因の1つになる」と話しています。

そのうえで「昔のことを紹介しながらも、ウポポイでは、現代の人の感性でアイヌ文化を伝えていきたい」と話しました。

役割はアイヌ文化の復興

ウポポイには、国が進めた「同化政策」で失われつつあったアイヌ文化を復興するという大切な役割があります。

舞踊や工芸などの分野で過去の映像や音声資料などをもとに文化の復元や再生に取り組んでいて、ヒグマの魂を、感謝を込めて神の世界に送り届ける儀式「イヨマンテ」もその1つです。ホールで歌や踊りを担う舞踊グループは、「イヨマンテ」を舞台で表現する演目として披露することになっています。

ウポポイの職員で、舞踊グループのサブリーダーを務める地元、白老町のアイヌ、新谷史織さんは、伝統的な文化を受け継ぐ機会がないまま育ちましたが、京都での学生生活で、日本の歴史や文化に誇りを持つ人々と出会い、アイヌ文化を取り戻したいと考えるようになりました。

新谷さんは、イヨマンテの舞台に取り組む中、暮らしや環境が様変わりしたいま、かつての儀式に実感を持てないという課題に突き当たったといいます。しかし、メンバーたちと議論を重ねるなどして、厳かさだけでなく、楽しい雰囲気を醸し出すことで熊への感謝を自分たちなりに表現しようと考え、アドリブのアイヌ語で掛け声を入れるなど独自の工夫を始めています。

新谷さんは「昔と同じようなイヨマンテを行うかはわかりませんが、みんなで考えたり作り上げたりするところもお客さんに見てもらう。それも1つの伝承の形としてみてもらえるぐらいになったらおもしろいと思います」と話しています。

アイヌの歴史と課題

アイヌの人たちは明治時代以降、独自の文化を否定され、長い間、差別や貧困に苦しんできました。

アイヌの人たちに日本の文化を強制するいわゆる同化政策で、成人女性の証しとされた入れ墨などが禁じられたほか、学校では日本語を学ぶよう求められ、アイヌ語や伝統的な風習は急速に失われていきました。

また、明治政府の土地政策で、アイヌの人たちは土地の多くを失ったほか、自由に行われていたサケ漁や毒矢を使った狩猟も禁じられ、生活の糧を失う人も少なくありませんでした。

さらに、明治32年に施行された「北海道旧土人保護法」では、アイヌの人たちは保護の対象とされましたが苦しい生活状況は十分に改善されず、いわれのない差別や偏見を助長する結果を招いたとも指摘されています。

アイヌの人たちの求めに応じるかたちで、この法律が廃止されたのは平成9年。代わって施行された「アイヌ文化振興法」のもと、アイヌ文化の復興に向けた施策が積極的に行われるようになりましたが、生活水準の格差や差別の解消にはつながらなかったと指摘されています。

大きな転機となったのは、平成19年。国連で先住民の権利に関する宣言が採択され、その翌年、日本の国会でも「アイヌ民族を先住民族として認めるよう求める決議」が全会一致で採択されました。

その後、政府内での検討を踏まえ、6年前、政府は北海道白老町にアイヌ文化発信の拠点となる施設を東京オリンピック・パラリンピックが開催される前に整備する方針を決めました。

そして去年、施行された「アイヌ施策推進法」で、アイヌの人たちは初めて「先住民族」と明記されました。この法律ではアイヌ文化の振興に向けた交付金制度が新たに創設され、道内では昨年度、白老町を含む13の市と町に7億3000万円余りが交付されました。

ただ、この法律に対しては研究者やアイヌの人たちの一部からは、伝統的なサケ漁の実施や樹木の伐採など、先住民族としての権利が回復されていないといった批判も出ています。

また、アイヌの人たちの遺骨をめぐる課題も残されています。明治から昭和にかけてアイヌの人たちの遺骨は、研究目的で各地の墓地から掘り出されるなどして全国12の大学で1500体以上が保管され、不適切な管理も明らかになりました。

アイヌの人たちの一部は、先祖に故郷の墓地で眠ってほしいと返還を求め一部は実現しましたが、大部分の遺骨は身元がわからないなどとして、ウポポイに整備された慰霊施設に集約されました。このため、縁もゆかりもない場所に集約されることに批判も出ています。

「PR活動の強化を実行したい」官房長官

記念式典に先立ち、菅官房長官は「ウポポイ」の中核施設となる「国立アイヌ民族博物館」や、アイヌの人たちの慰霊施設を視察しました。

菅官房長官は記者団に対し、ウポポイの年間来場者数の目標として100万人を掲げていることについて、「新型コロナウイルスの感染リスクをコントロールしながら段階的に社会経済活動を引き上げていく中で、掲げた目標に近づけることができるよう、国内外のPR活動の強化を実行していきたい」と述べました。

専門家「先住権の回復を」

ウポポイの開業について、諸外国の先住民政策に詳しい恵泉女学園大学の上村英明教授は、「これまでの国のアイヌ政策は北海道を支援するかたちが多かったため、今回、国立の施設がオープンした意味はそれなりに大きい」と話しています。そのうえで、施設を作るだけでは不十分で、国は全国の小学校でアイヌ文化を学ぶ授業を取り入れるなどして、理解を深めるよう努めるべきだと指摘しました。

また、上村氏は去年、施行された「アイヌ施策推進法」について、アイヌ民族は「先住民族」と明記されたものの権利の回復は進んでいないと指摘しました。そのうえで、「海外では、先住民族と対等に交渉して手続きを踏み、権利が確立されている。アイヌ民族と『和人』と呼ばれているわれわれが対等に向き合うことが大切で、ずっと対等ではなかった溝を埋めていくための丁寧な作業が必要だ」と述べ、アイヌの人たちが伝統的なサケ漁を行うことを認めるなど、権利の回復に向けた合意形成を急ぐべきだと指摘しました。

新型コロナ影響と対策

ウポポイは、ことし4月に開業する予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で2度にわたって開業が延期されました。国や道が年間100万人の来場を目標に掲げるなか、感染拡大を防ぐ対策とどう両立させるかが課題になっています。

当面は、感染対策を優先せざるをえないため、オンラインでの予約制を取り入れ、1日の入場者数を最大で2500人程度に制限します。

全国のコンビニエンスストアでも日付を指定したチケットが販売されていて、予約状況に応じて、当日券も販売されるということです。

また、ウポポイの中にある「国立アイヌ民族博物館」の入館には別途、日付と時間帯を指定した予約が必要で、当面は1日の入場者数を1200人程度に制限します。

さらに、アイヌ料理の調理や伝統楽器の演奏など、感染リスクのある体験プログラムは、当面、実施を見合わせるほか、伝統舞踊などを披露するホールの入場者数も制限します。

また、施設の入り口には「サーモグラフィー」を設置し、発熱している人がいないかチェックするほか、職員もマスクやフェイスシールドを着用して対策を徹底しています。

ウポポイを運営するアイヌ民族文化財団の對島一修運営本部長は、「入場制限は感染対策のためやむを得ない対応だ。状況を見ながら制限を緩和し、年間100万人来場という目標を達成したい」と話しています。