子どもの性被害 防ぐには~男性シッター 一時停止からの議論~

子どもの性被害 防ぐには~男性シッター 一時停止からの議論~
「男性シッターによるサポート一時停止のお知らせ」。
子どもの性被害を防ぐためとして、ベビーシッターの大手マッチング会社が発表した対策が議論となりました。きっかけはマッチング会社を通じてベビーシッターをしていた男2人が子どもにわいせつ行為をしたとして相次いで逮捕されたことです。男性のベビーシッターが一時的に働けなくなることに対して「男性に対する偏見だ」という声があがる一方、会社側は性犯罪者から子どもを守る仕組みができるまでの一時的な措置だとして、録画装置の導入など対策を相次いで打ち出しています。
被害を防ぐ対策はどうあるべきなのか、考えてみました。(ネットワーク報道部記者 有吉桃子)

十分な経歴の2人

事件を起こした男2人が登録していたのは大手ベビーシッターマッチング会社の「キッズライン」です。ベビーシッターはキッズラインと雇用関係にはありません。ベビーシッターとして働きたい人が応募して、説明会や面談、研修を経て登録する仕組みです。
会社側は登録会に参加した人の合格率はおよそ35%だとしています。利用者側はアプリなどで希望の時間に依頼できるベビーシッターを24時間いつでも探すことができ、シッター側は料金をみずから設定することができます。利用者とシッター側の双方がキッズラインに料金の10%から20%の手数料を支払う仕組みで、入会金などが不要で比較的低価格なことが魅力の1つとしています。
逮捕された2人の男は
・幼稚園教諭や保育士の資格を持ち
・保育所などでの勤務経験もあり
・キッズラインでも複数の利用者がいて
評判もよかったといいます。

預ける側としては十分な経歴に見えます。

男性シッター 受付一時停止

しかし、事件は起きました。会社の説明によると最初の事件が発覚したのは去年11月14日。男の子が男性シッターからわいせつ行為を受けたという、利用者のものとみられる書き込みがツイッター上に投稿されました。この後に警察が捜査を開始し男は4月24日に逮捕されます。
会社側は5月3日にシッターの逮捕についてホームページ上で利用者に説明しました。そして社内に安全対策委員会を設置し対策を検討しているさなかの5月25日に、2人目の男による利用者の子どもへのわいせつ行為が発覚。6月12日に逮捕されました。
このとき登録していた男性シッターの数はおよそ200人。そのうち2人にわいせつ行為の疑いがかかった事態に会社は「現状のままではさらに3件目が起きる可能性がある」と判断し、「男性シッターの新規の予約受付を一時停止」という措置を、ほかの対策に先んじて6月4日に発表したのです。

わき起こる議論

理由についてキッズラインは
・専門家によると子どもへの性犯罪はほとんど男性によるもので発見率が非常に低いこと
・保育の適正に関する審査の過程で子どもを性の対象とする「小児性愛」であることや
・それに基づく性犯罪発生の可能性を見抜くことは極めて困難であることなどをあげ弁護士とも協議して決めたとしています。

この対応をめぐって、インターネット上で議論がわきおこります。
「すばらしいシッターさんが属性だけで区分けされてしまうの、絶対おかしい……」
「『女性は結婚後に辞めがちだから医大に受かりにくくします』にめちゃくちゃ怒っているので、今回の『男性は性犯罪多いので男性シッターは停止させます』にも当然めちゃくちゃ怒っています」
こうした批判の声が目立つ一方で
「これだけ男性による子どもへの性加害事件が起きている」
「考え方はいろいろあるし、議論もたくさんするべきだが、今は私も男性シッターに子どもを託したくない」
といった声もありました。

男性保育者からは

いま、男性の保育士は増えていて連絡会もあります。「東京男性保育者連絡会」では、相次いだ事件のあと、仲間どうしで意見交換をしたそうです。事務局長で板橋区の保育園の園長を務める山本慎介さんは一連のできごとについて2つのことに怒っていると話します。
山本さん
「1つは加害者に対してです。子どもの児童福祉に携わる立場を利用して犯行をおこしている。まじめに保育に向き合う男性まで白い目、非難の目で見られてしまいます。もう1つはマッチング会社の対応です。十分な対策を取ることなく、性別でひとくくりにし原因そのものを男性保育者に押しつけたことに怒っています」
仲間との話し合いでは事件を防ぐ対策についても話が出たそうです。
山本さん
「複数で保育を担当するとか、カメラを入れるとかどうすれば自己防衛できるかということについても話をしています。やましいことがない身からすると、心理テストなどでスクリーニングするというのも事件を防ぐ対策になるのであれば全く反対しません。男女双方の子どもがいるのですから保育者にも男女双方が必要ではないでしょうか」

見抜くこと困難、苦渋の選択

キッズラインへの直接の取材は“安全対策の強化を最優先にしたい”という理由でかないませんでしたが、私が繰り返す質問に対しては担当者が書面で何度も回答をくれました。

それによると、今回の男性シッターの件については、一律の停止ではなく安全に関する仕組みができるまでの、一時的な新規の受け付けに限った措置で、苦渋の決断だといいます。
「今回はお子様の安全性を最優先させていただいていますが『男性の締め出し』『男女差別』という取られ方になり、誠に遺憾です」
「2人は面接や研修での印象や利用者からの評判がよく犯歴チェックでも問題がなかったことから審査の過程で見抜くことは極めて困難でした」
「性犯罪データベースの共有などを目指していて、安全性に関する十分な仕組みが構築されるまでの一時的な見直しで子どもの安全を最優先した苦渋の判断です」
「性犯罪の撲滅に向けて行政にも働きかけ、最大限努力していきたい」
6月にはシッターの利用時に録音や録画機器を使って感想を提出してもらうモニターを募集するなど対策を相次いで出しました。今月からは審査の際に、暴力性や異常性についての傾向を見られるとされる、「適性テスト」を導入していて、安全性が確保されたと判断されれば、男性シッターによる新規の受付を再開するといいます。

識者の見解は

どうすれば子どもの性被害を防げるのか、性犯罪加害者の治療などにあたっている精神科医の福井裕輝さんに聞いてみました。
福井医師
「いわゆる小児性愛の嗜好を持つような人物は希望して子どもに関わる仕事に就くことがあり『使い勝手がいい』サービスが生まれると、子どもに接近しやすくなります。だからこそ事前に犯罪を犯すリスクがないかきちんと調べるシステムが必要です」
実際に自主的な検査で子どもへの事件を未然に防ごうという動きは、学校教育の現場ですでに始まっています。

例えば長崎県教育委員会では教職員みずから危険性に気付いてもらうためのチェックシートを導入しました。
シートには「生徒に関する性的な想像や考えを持っていても少なくとも生徒を傷つけていないから、そんなに悪いことではない」などと書かれていて、どう思うかを答えたりします。

すべての教職員が対象で、結果は学校などに提出する必要はありません。自分で採点して、危険度が高い場合、みずから専門機関に相談するよう求めていて実際に相談につながるケースも出ているということです。

同様の取り組みは長野県などでも行われています。こうしたシートがベビーシッターなどにも活用できないか、これも精神科医の福井裕輝さんに聞いてみました。
福井医師
「匿名性が担保されないと正直に答えないことも想定されます。導入するならうそをついても判明するような複雑なものにする必要があります。海外では何百という質問をして矛盾があるとどんどん質問数が増えていきうそがつけない仕組みの“アベルテスト”というものがあります。被害者を出さないという観点からすると国全体で何らかの取り組みをしていくことが必須だと感じます」

子どもを守るために

福井さんは「子どもは何をされているのかわからなかったり、口止めされたりしているケースもあり、被害は氷山の一角と考える必要がある」、「性犯罪を犯したら二度と子どもにかかわる職業に就けない仕組みも必要だ」という意見でした。
学校の教師や保育士、それにボランティアなど子どもに関わる職業についている人による子どもへの性犯罪は各地で起きています。犯罪は起きうるという前提で、一歩、進んだ対策を考えなければ被害は繰り返される気がします。

特に幼い子どもは自分で自分を守ることが難しいのです。自分を守ってくれるはずの大人のことばや行動に、「イヤだ」ということが難しいのです。

だからこそ子どもを守ってあげる仕組みを、大人がなんとか考え出してあげないといけない。そしてその方法が熱意ある人も含めて排除するようなものになってしまっては、子どもにとって失うものが大きいのもまた確かです。

簡単ではないけれど、弱い立場にある子どもを守る方法を見つけ出さないといけない、被害が繰り返される中、私を含め大人たちの本気が問われている気がします。