欧米で相次ぐ“川崎病” その謎を追う

欧米で相次ぐ“川崎病” その謎を追う
ことし4月以降、欧米各国で、全身の血管に炎症が起きる「川崎病」のような症状がみられる子どもたちの報告が相次いでいます。新型コロナウイルスへの感染が確認されたケースもみられ、WHOも、感染との関連が疑われるとして、各国に対し警戒を呼びかける事態となりました。今のところ、日本では、こうしたケースの報告はないということですが、医療担当記者として、そして、小さい子どもを持つ母親としても気になります。いったい、何が起きているのか。調べると見えてきたのは、新型コロナウイルスが引き起こす症状の多様さ、そして、原因不明だった川崎病の謎が解けるかもしれないという可能性でした。(科学文化部記者 石坂冴絵)

欧米で川崎病のような症状の子ども相次ぐ

発端はことし4月下旬、新型コロナウイルスの感染が拡大したイギリスで「川崎病」のような症状が出ている子どもがいることに医師らが気がついたことでした。同じ症状の子どもは、フランスやイタリアなどでも確認され、5月に入ると、アメリカ・ニューヨークからも報告が相次ぎました。
新型コロナウイルスの感染が確認された子どもも多く、先月末までにニューヨーク州の保健当局が把握しているだけでも、「川崎病」のような症状の患者の数は230人にのぼっています。ニューヨーク州のクオモ知事も記者会見で「川崎病のような症状の子どもが相次いでいる」と注意を促しました。

どんな症状

子どもたちに、どんな症状が出ているのでしょうか。第一報となったロンドンの病院からの報告によりますと、患者はもともとは健康だった4歳から14歳の男女8人で、38度から40度の熱が続き、発疹、結膜炎それに、腹痛などがみられました。8人全員に新型コロナウイルスへの感染が確認されていて、さまざまな臓器で炎症性のショックを起こし、心臓や血管の機能を安定させるため、7人は人工呼吸器が必要になりました。14歳の少年1人が亡くなりました。報告では、「川崎病」の症状と似ていて、新型コロナウイルスによって引き起こされたのではないかとしています。

日本で発見された川崎病

「川崎病」は1967年に、日本の小児科医、川崎富作さんが発見し、子どもがかかる未知の病気として世界に発表しました。世界的にも「Kawasaki disease」として認識されています。日本川崎病学会によりますと、これまでに報告されているのは日本人の患者が圧倒的に多く、毎年1万5000人以上が発症して、患者は増加傾向だということです。
発熱、発疹、目の充血、いちごのように赤い舌が症状の特徴で、症状が進むと、心臓の動脈、「冠動脈」に炎症が起きてふくらみ、「冠動脈りゅう」というこぶができます。多くの患者は、治療によって治りますが、2%余りは心臓に後遺症が残るとされています。いまだに原因は解明されておらず、医師は、症状を確認して診断しています。

欧米の子どもたちは川崎病なのか

欧米で相次いでいる子どもたちの症状は、本当に川崎病と関係しているのでしょうか。複数の専門家に取材をしましたが「確かに症状としては似ている部分もある。ただ、これまで診てきた川崎病とは違うものと捉えている」といった答えがほとんどでした。
では、どういったところが似ていて、どんな違いがあるのでしょうか。日本川崎病学会の高橋啓会長に聞きました。似ているところは、発熱が続くこと、結膜炎、首のリンパ節の腫れ、いちごのような赤い舌などの症状、さらに炎症を引き起こす、「サイトカイン」という物質が多く出ていて、さまざまな臓器に炎症が起きていること、血液が固まる血栓があることを示す指標が上がること。また、一部の患者では、冠動脈のふくらみやこぶが報告されているのも気になるといいます。

一方、異なる点も

一方で、異なる点として多くの専門家が挙げたのは、患者の年齢です。川崎病は発症のピークが生後9か月から11か月で、およそ90%の患者は5歳未満ですが、今回のケースの場合、ニューヨークの保健当局の報告では、1歳未満は7%にとどまり、1歳から4歳は25%、そして、68%は5歳以上でした。

さらに異なるのが「重症度」です。今回のケースでは、血圧が急激に下がるショック症状や、心臓の機能が低下する重い症状が多く報告されています。川崎病でも「川崎病ショック症候群」と呼ばれる症状が出ることはありますが、まれだということです。
もう1点は、患者の遺伝的な背景の違いです。川崎病は、日本人や東アジアの人々に多い病気です。さまざまな人種の人が暮らすハワイでの研究によれば、川崎病で入院した5歳未満の患者は、人口10万人当たりにすると、日系人が198人、中国系が81人、フィリピン系が65人だった一方白人は35人でした。
今回のケースについて、ニューヨーク州の保健当局は、黒人が31%、白人が22%いる一方で、アジア系は3%だったと発表しています。川崎病の患者が多い東アジアからはほとんど報告されておらず、川崎病の報告が少ない地域の遺伝的背景を持つ子どもたちが発症しているようです。
高橋会長
「どちらも、サイトカインが体内で大量につくられ、免疫が過剰に反応する、『サイトカインストーム』が起き、さまざまな臓器に炎症が起きているのではないか。ただその程度は、川崎病より今回のケースの方が強いと感じます」

そもそもコロナウイルスが川崎病に関与?

比較してみると、ここで1つの疑問が浮かび上がってきます。いまだに原因が不明だとされる川崎病の発症にコロナウイルスが関わっているのではないか。調べてみると、実は、このように考えて行われた研究がありました。
2005年、アメリカのエール大学の研究グループは、川崎病の患者からいわゆる「かぜ」を引き起こすコロナウイルスの遺伝子が多く検出されたという論文を発表していました。このコロナウイルスは、「NL63」という種類で、研究グループは、川崎病の発症に関与している可能性があるとしています。ただ、その後、複数の研究グループが、同様の研究を行ったものの、確認ができていないということです。

2014年には、日本の研究グループが、遺伝子ではなく「NL63」ウイルスに反応する抗体を調べましたが、この時にも確認はできませんでした。
田口元室長
「当時の私たちの研究では川崎病との関与を示すことはできませんでした。ただ、NL63ウイルスも、新型コロナウイルスも、体内の細胞に感染する際に利用するのは、同じ『ACE2』というたんぱく質です。ACE2は、血管内皮細胞にも発現していてここに感染すると血管の炎症が起きます。今回報告されているケースが、川崎病の発症メカニズムを探る糸口になる可能性もあると感じます」

遺伝的要因をどう見る?

もう1つ、今回のケースで気になるのは、遺伝的背景の違いによって、症状の出方が異なっている可能性です。実は、川崎病も遺伝子の型によって発症しやすい人とそうではない人がいるということです。川崎病の発症のリスクを高める遺伝子の型を複数突き止めた、千葉大学の尾内善広教授に聞きました。
尾内教授
「いま、欧米で相次いでいる川崎病のような症状の発症のしやすさに、人種による遺伝的な背景の違いが関係している可能性が考えられます。また、一部の子どもたちだけで重い症状が出ていることを考えると、なんらかの感染がきっかけになって新たな病態が体内で進んでいる可能性があり、川崎病と似ていると感じます」

川崎病との関係は?相次ぐ報告

先月8日、イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンなどの研究グループは、イギリスの病院に入院した川崎病のような症状が出た0歳から17歳までの58人について解析した報告を発表しました。この中では、新型コロナウイルスに感染して起きた今回のケースと、川崎病などの症状を比較していて、血液検査の結果などからは、異なるものだと考えられるとしています。子どもたちに見られた症状には幅があり、川崎病の診断基準に当てはまるケースがあった一方、当てはまらないケースもあったとしています。そして、発症には、免疫の仕組みが関わっているのではないかという考えを示しています。

また、先月29日には、アメリカのCDC=疾病対策センターなどの研究グループが、アメリカの26の州で入院した21歳未満の186人についての報告も発表。およそ80%の人は、心臓や周囲の血管に炎症などが起きたほか、およそ8%の人には心臓の血管にこぶができるなど川崎病との共通点があった一方で、50%の人はショック症状が起きて、川崎病ではあまり行われない血圧を上げる治療などが必要になったとしています。CDCは、新型コロナウイルスによる症状を「小児多臓器炎症性症候群」として、注意を呼びかけるとともに、調査を続けるとしています。

そして、今月2日にも、パリの大学病院などの研究グループが、2005年12月からことし5月までの15年間にわたって、川崎病と診断されて入院した0歳から15歳までの230人について、統計的に解析した結果を発表。川崎病で入院した患者は、新型コロナウイルスの感染がパリで広がったことし4月がこの15年で最も多くなり、次に多かったのは、「新型インフルエンザ」が流行した2009年12月だったとしています。研究グループは、呼吸器へのウイルス感染が川崎病を引き起こした可能性があるとして、ほかのウイルスへの感染との違いがどこにあるのかや、免疫の働きをさらに調べる必要があるとしています。
日本川崎病学会 高橋会長
「新型コロナウイルスの感染に際して、何が起きているかを調べることで、川崎病の発症メカニズムの解明の一助となる可能性はある。また、川崎病の研究で培ってきた成果が、今回の診断や治療などに役立つ可能性もあると思う」

川崎病の子が感染・重症化しやすい報告はない

取材の中では、川崎病患者の親などから「新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいのか」といった不安の声が医師などの元に多く届いていることもわかりました。日本川崎病学会では、川崎病の患者が新型コロナウイルスにかかりやすいとか、重症化しやすいといった報告はなく、新型コロナウイルスで川崎病のような症状になったという報告も国内ではないとしています。学会では、今後も注視していきたいとしています。

川崎富作医師の思い

この取材をしているさなかに、川崎病を発見した川崎富作医師が95歳で亡くなりました。川崎さんは、未知の症状を示す子どもたちの診療を続け、晩年まで、原因の究明や川崎病の子どもたちや親たちの相談を続けていました。川崎さんの思いを受け取って、新型コロナウイルスによる子どもたちへの影響について、今後も取材を続けていきたいと思います。
科学文化部記者
石坂 冴絵