東京から200キロ 大手企業が続々集まるワケ

東京から200キロ 大手企業が続々集まるワケ
「10年先に起きると予測されていたことが新型コロナの影響で一気に来た」
今月、福島県会津若松市に拠点を設けたセイコーエプソンの執行役員のことばです。三菱商事、ソフトバンク、コカ・コーラ ボトラーズジャパンなど、この1年余りでさまざまな業種の大手企業が会津若松に続々と進出。東京から約200キロ離れた会津若松の魅力はどこにあるのでしょうか。(福島放送局記者 樽野章)

なぜ会津若松に?

会津のシンボル、鶴ヶ城のすぐ近くに、去年4月、官民が連携してオフィスビルを整備しました。ビルの名前は、AIZUとICT=情報通信技術を組み合わせて「スマートシティAiCT」。

1年余りの間に23社が入居し、そのうち7割が県外の企業。200人以上が働く一大拠点です。東京から約200キロ。なぜ数ある地方都市の中で会津若松なのか。

その理由は全国に先駆けて「スマートシティ」化を進め、市民生活に関するさまざまなサービスが生み出されているからです。雪深い会津で「除雪が終わり歩きやすい道はどこか」という情報のほか、母子手帳や学校だよりといった教育・子育ての情報など、スマホのアプリで簡単に確認できます。

進出した企業はこのスマートシティと連携し、新たなビジネスチャンスにつなげようとしているのです。さらにコンピューター理工学が専門の会津大学があり、ITの知識が豊富な人材が多いのも魅力です。

新型コロナでさらに…

企業進出の動きは、いま加速しています。新型コロナで進む世の中の変化を先取りしようというねらいからです。
今月拠点を設けたのは長野県に本社がある「セイコーエプソン」。感染拡大前から入居を検討していましたが、新型コロナで在宅勤務をする人が増える中、プリンターなどの製品をインターネットでつないだ新たなサービスを構築したいと考えています。
吉田執行役員
「10年先に起きると予測されていたことが新型コロナの影響で一気に来た。私たちのプロジェクトも加速させる必要があり、スマートシティを進める会津若松でさまざまな実証実験を行いたい」
東京のITベンチャーもリモートワークの普及で東京にいる必然性が薄れたと感じています。さらに感染症や災害のリスクを分散させるねらいもあると言います。
末貞社長
「インターネットがあれば場所の制限はほとんどなくなる。新型コロナがそれに拍車をかけた。私たちの業界でも会津若松の事例はかなり有名で、いま東京で拠点を増やすのはナンセンスだ」

企業どうしの“化学反応”も

この施設のもう1つのポイント。それは“企業どうしの連携”だと入居企業は口をそろえます。スマートシティという同じ目的を持つ企業が“一つ屋根の下”に集まっているため、互いに情報を交換し連携できる分野は連携する空気が醸成されているというのです。

この環境の中で“化学反応”が起きようとしています。
地元の会津大に在学中、IT企業を起業した前田諭志さんは、24時間無人のコンビニのシステムを開発しました。スマホでQRコードを読み込んでカギを開け、お財布いらずで買い物ができます。

もともと夜になると店が閉まってしまう温泉街でちょっとした買い物ができればという観光客の需要を見込んで開発しました。
前田社長
「人と人とが接触しなくて済むことはウィズコロナの時代にはポジティブにとらえられるので、今後、他のお店にも使ってもらえれば」

助言求めたのは“隣人”

しかしベンチャーでノウハウが少ない前田社長にとって今後の戦略の描き方が大きな課題となっています。そこでアドバイスを求めたのが“同じ屋根の下にいる経験豊かな隣人”です。
1つ下の階にある三菱商事のオフィスを訪ね、アイデアを聞きました。すると次世代のコンビニには、モノを売る以外の付加価値を持たせることが重要になるという答えが返ってきました。
三菱商事 平竹さん
「これからのコンビニの概念がどういうものか。何を提供していく場所なのかということを考えるべきだ。そこにカメラがあって遠隔医療が受けられるとか、小さなビジネスモデルで考えるのではなくて、地方自治体と企業、市民がどう連携できるかが重要だ」
コンビニとは一見かかわりのない“遠隔医療”のアイデアなど、前田さんにはなかった発想を次々と聞くことができました。
前田社長
「商品の数を増やすとかそうした発想は簡単に出てくるんですけれど、遠隔医療につなげるなどという発想はすぐに出てこない。今後の事業に広がりが出てきそうだ」

ほかの地域の参考に

ざっくらばんな意見交換が生み出す新たなビジネス展開。

新型コロナをきっかけに、企業が地方に目を向ける中、会津若松の事例はほかの地域の参考になるかもしれません。
福島放送局記者
樽野章
平成24年入局
福島局で地域経済を担当