この毛虫 触らなくても危険 「チャドクガ」って知ってますか?

この毛虫 触らなくても危険 「チャドクガ」って知ってますか?
伸び縮みする黄色い体に、全身から生える無数の白い毛。つばきやさざんかの葉に群がるこの毛虫、「チャドクガ」というガの幼虫だ。人間の防御をすり抜け、「遠隔攻撃」できる特殊能力を持った、この時期気をつけたい危険な毛虫なのだ。(千葉放送局記者 金子ひとみ)

何に刺された?

「かゆい、かゆい、いやだ」。6月6日の夜、3歳の息子が突然わめき始めた。右ひじのあたりに赤い発疹が広がっていた。蚊かダニに刺された?それとも何かにかぶれた?、と思いながら翌朝、近所の皮膚科に駆け込むと医師は患部を見るやいなや、断言した。「チャドクガという毛虫に刺されたのですね」。確かに、前日の日中、親子でアパートの自転車置き場で毛虫を観察したが、手で触れてはいなかった。医師は「触らなくても風で毛が飛んで刺されるんです。この時期に出るんですが、特にことしは多いようです」。飲み薬と塗り薬を処方され、10日間ほどでなんとか症状はおさまった。

相次ぐ目撃情報

「直接触れていないのに刺されることがあるなんて」。驚きを周囲に話すと、職場だけでも「千葉市のショッピングセンター近くで、小枝に毛虫をのせて子どもに見せたら、そのあとからふくらはぎがかゆくなった」「庭で大切にしているつばきの葉に大量に身を寄せ合っているのを見つけ、こわごわ処理しようとしたら、一斉に頭を持ち上げてこっちをにらんできた。気味悪かった」という話が…。

新型コロナウイルスで自粛生活を送るうちに毛虫が襲来したのだろうか、千葉県皮膚科医会会長の千見寺ひろみ医師にお願いして、6月12日、千葉市若葉区のクリニックで、2人の患者さんの診療風景を取材させてもらった。
1人目は28歳の住宅設備の仕事をしている男性。前日、強風の中、千葉市内の一般住宅のつばきの木の近くで作業をしたあとから、作業着を着ていたにもかかわらず体全体に発疹が広がってきたという。
男性
「同じ作業班の4人中3人が被害に遭った、ずっとかゆくてしんどい」
2人目は小学5年生の女の子で、校庭での掃除中、毛虫をほうきの先で触ったあとから症状が出てきたという。
女の子
「かゆくて夜中に起きてしまい、冷やしても全然治らなかった。怖いし不気味」
このクリニックでは、4月から6月にかけてチャドクガによる皮膚炎と診断された患者が去年の同じ時期の4倍に増えていた。千見寺医師は「炎症が強く、市販薬は効きにくい。かきすぎると『とびひ』になるなどさらに悪化するので、早めに診察を受けてほしい」と呼びかけている。

皮膚炎の原因は“毒針毛”

チャドクガによる皮膚炎はどのような流れで起きるのか。千見寺医師が「皮膚科医にとって、虫による皮膚炎のバイブルはこの本です」と示した図鑑の著者、兵庫医科大学の夏秋優准教授に話を聞いてみた。夏秋准教授はまず、チャドクガの被害について多くの人が勘違いする点について教えてくれた。
夏秋教授
「体を覆う目に見える長い毛には毒はないんですよ。これとは別に、背中の黒い部分に肉眼では見えない0.1mmくらいの『毒針毛』という毛が30万本から50万本生えているんですが、これが毒を持っているんです。タンポポの綿毛をイメージしてもらうといいでしょう。風で抜けて飛びやすいんです。服にくっついて、気付かないうちに触れて皮膚炎を起こすのです」
また、皮膚をかきむしることで、この毒針毛が拡散して、発疹がさらに広がるほか、ガの成虫や脱皮したあとの殻、死骸にも毒が残っていることがあるので注意が必要だという。

千葉は当たり年

その後、取材を進める中で、千葉県内では5月から6月にかけて北西部の公園や道路沿いの木にチャドクガが大量に発生し、自治体などが相次いで駆除作業を行っていたことがわかった。
このうち習志野市では、宮本泰介市長が公式の動画サイトで過去に自身も被害にあったことを明かしたうえで「今で言う、密集、密接した状態で身を寄せ合っている。数年に一回の大量発生です」と注意を呼びかけていた。
夏秋准教授に千葉県内で被害が多いことを説明すると「千葉は当たり年なんですね。私は毎年状況を調べてますけど、関西は今回ははずれですよ」とのこと。「当たり」と「はずれ」…毛虫の研究を長年続ける専門家のとらえ方は、私とは違うようだ…。
チャドクガはどのようなところに生息するのだろうか。環境省や皮膚科医の全国団体などにも聞いてみたが、チャドクガの生息調査も皮膚炎の患者数調査もしていないとのことだった。
夏秋准教授によると、好物は、つばきやさざんか。そこで全国有数の「つばき油」の産地、東京都の大島に状況を聞いてみた。「都の大島支庁と大島町では、合同で毎年5月末ごろ、つばきが密集する場所10か所でチャドクガの発生調査をしている。ことしの調査結果はまだ出ていないが『例年並み』との感触だ」。同じく伊豆諸島の利島の農業協同組合の担当者にも聞いてみた。「ここ数年、チャドクガによる被害は少ない。それよりも『尺取り虫』のほうが、利島のつばきでは幅を利かせている」。つばき農家を悩ませるのはチャドクガだけではないようだ。

バリバリと雨が降るような音が…

つばき油の名産地では、チャドクガは大量発生していないのか…千葉県だけの大発生なのか…。しかし、チャドクガによる被害者は千葉県民だけではなかった。チャドクガの被害を伝えたNHKニュースのツイートには、各地から「私も被害にあった」という声がたくさん寄せられた。

埼玉県の小学3年生の女の子は、6月半ばに理科の授業で校庭で観察をしたあと、発疹が出たという。女の子の母親は「新型コロナウイルスの感染拡大で長い間、家庭内で自粛していた子どもたちへの配慮で、学校は校庭で授業をしてくれたようだが、屋外にはこんなリスクがあるなんて」と驚いていた。
愛知県の40代の女性は、5月中旬ごろから、夜中、玄関先のつばきの葉をチャドクガたちが食べている「バリバリ」という雨が降るような音が聞こえていたという。6月に、女性ら家族4人が発疹に苦しめられた。
石川県の30代の女性は、6月中旬、パンジーの鉢植えにいた毛虫を駆除したら眠れないほどのかゆみに襲われた。「血行がよくなるとかゆみが出るので、湯船につかるのもお酒を飲むのも控えていました」。どうやら自宅や学校などの生活圏で被害が集中していることがわかった。夏秋准教授によると、こうした住宅地では、防除対策が取られていないことが多く、被害が発生しやすいという。

駆除するには

ではチャドクガの被害を防ぐにはどうしたらよいのか。千葉県四街道市の「加賀美造園」の市川恭平さんが対処方法を教えてくれた。
【ポイント1 】
発生を予防するための薬剤は、毛虫が発生する前の4月から5月、そして再び増える前の7月から8月が散布に適した時期。毛虫は卵を葉の裏に産むことが多いので、葉の裏に薬をかけることと、風下ではなく風上側から作業する
【ポイント2】
もし、葉の上にいるチャドクガの幼虫を見つけた場合は、レインコートなどを着たうえで、毛虫のいる部分を揺らさないよう注意しながら切り落とす
そのうえで市川さんは「自力での作業では無理せず、早めに業者に相談したほうがよいでしょう。私も刺されたことがありますが、たかが毛虫されど毛虫、毛虫は侮れない存在です」と話していた。

また来るチャドクガの季節

夏秋准教授によると、チャドクガの毛虫は、毛虫を餌とする蜂や野鳥の活動が停滞する雨が多い年に増えるとも言われているが、詳しい理由はわからないということだった。また、一般的に、5月から6月だけでなく、8月下旬から9月にかけても再び発生するのだという。まもなく再びチャドクガが増えることが懸念される「第2波」の季節がやってくる。春にほとんど発生しなかった場所も含め、どこで大量発生するかはわからない。毛虫被害から1か月がたった息子の腕には、もう刺された跡はほとんど残っていないが、公園に行くたび、「毛虫いなくてよかったね」と言っているので、3歳なりに気にしているのだろう。

私自身も、チャドクガがいないか気になって葉の裏を見るクセがついてしまったが、風の強い日にはつばきやさざんかに近づかないようにするなど被害にあわないよう心がけたい。
千葉放送局記者
金子ひとみ