コロナ影響から旅行客戻り始めたやさきで…人吉の旅館店主は

コロナ影響から旅行客戻り始めたやさきで…人吉の旅館店主は
球磨川の氾濫で大きな被害を受けた熊本県人吉市の老舗旅館の店主が取材に応じ、迫る水の恐怖と、新型コロナウイルスの影響からようやく旅行客が戻り始めたやさきでの被災に、苦しむ思いを語りました。
人吉市で大正時代に創業した「一富士旅館」は、球磨川の堤防から15メートルほどの場所にある2階建ての老舗旅館で、情緒ある温泉街の町並みの一角となっていました。

今月4日の午前6時ごろ、旅館を経営する松田諭さん(35)は、旅館の隣に住む祖母を避難所に送り届けて帰る際、濁流が橋の欄干に当たって激しい水しぶきをあげる、これまでに見たこともない光景を目にしました。

危険を感じた松田さんは、すぐに旅館に戻り、宿泊客に車を避難させるよう呼びかけましたが、直後に道路を濁流が覆い始めたため車を諦めてもらい、全員を屋上に誘導しました。

みるみるうちに水かさが増す様子を、松田さんは、「想像もしない速さで浸水してくる恐ろしさを感じた。油断していたところもあった」と振り返ります。

昭和40年に球磨川の水があふれ、市の3分の2が浸水した水害を親の世代から聞き、備えはしていたつもりでしたが、ここまでの被害は想像できなかったといいます。

松田さんが撮影した動画には、旅館の前の道路が濁流となり、車などが次々に流される様子が記録されています。

全員屋上に避難し無事でしたが、受け継いできた旅館は2階まで水につかり、修理をして営業を再開できるのか、めどはたたないと言います。

松田さんは、「新型コロナウイルスによる自粛が明け、お客様からの予約が入り始めたやさきのことだった。惨状を目の当たりにしことばもない。いつ街が元どおりになるのか、旅館をいつまで続けられるのかもわからないが、この災害を次の代まで語り続け、人吉の人とともに手を取り合って復興していくしかない」と話していました。