西日本豪雨から2年 新型コロナが復興を足止め 倉敷市真備町

西日本豪雨から2年 新型コロナが復興を足止め 倉敷市真備町
おととしの西日本豪雨で広い範囲が浸水した岡山県倉敷市真備町にある中小の事業所の6割が「新型コロナウイルスの影響で復興が妨げられている」と感じていることが、NHKが100か所の事業所に行った聴き取り調査で分かりました。
倉敷市真備町は、おととしの西日本豪雨で町の面積のおよそ3割が浸水し、地元の商工会の調べでは501か所の事業所が被害を受けました。

このうち、先月末までに8割余りにあたる416か所が真備町内で事業を再開し、まちは少しずつにぎわいを取り戻しています。

こうした中、新型コロナウイルスの感染拡大がどのような影響を及ぼしているのかを探ろうと、NHKは先月、町内で再開した100か所の中小の事業所に聴き取り調査を行いました。

その結果、62か所の事業所が「新型コロナウイルスの影響で復興が妨げられている」と回答しました。

何が復興の妨げになっているのか、その要因を尋ねたところ、「物や人の流れが止まったことによる売り上げへの影響」と答えた事業所が49か所と8割を占めたほか、「イベントの中止や自粛で需要が減ったことによる影響」が8か所、「資金繰りへの影響」が2か所でした。

倉敷市真備町の事業所の中には、被災から2年近くたってようやく店を再建し、本格的な営業再開にこぎつけたというところもあります。

本格的な復興に向けて歩み始めたやさきに感染拡大という新たな困難が立ちはだかり、経済的な復興の妨げになっている実態が浮き彫りになっています。

居酒屋再開も融資の返済迫り二重苦に

倉敷市真備町で被災した事業者の中には感染拡大による売り上げの減少に悩む中、店舗などを再建するために借りた融資の返済が近く始まるという人も少なくなく、2つの困難が立ちはだかっています。

中山太郎さん(48)は、22年前から倉敷市真備町で居酒屋を営んでいます。西日本豪雨で店は2メートルほどの高さまで水につかりました。

およそ900万円を借金し、冷蔵庫やガスコンロを新たに買い直したり、壁や天井を修復したりして、おととし12月、元の場所で店を再開することができました。再開から1年で売り上げは豪雨の前に近い水準まで戻りましたが、新型コロナウイルスの感染拡大で予約がすべてキャンセルになるなどしたため、ことし4月の売り上げは感染拡大前のおよそ3分の1、27万円ほどにまで落ち込みました。

こうした中、今、中山さんが頭を悩ませているのが、豪雨のあと店の再開をするときに借りた900万円の返済が近く始まることです。

借金のうちおよそ400万円はグループ補助金で賄うことができますが、残りのおよそ500万円は自力で返済しなければなりません。

2年間は元本の返済が猶予される制度を利用した中山さん。3か月後のことし10月からは、毎月およそ5万円を返済する必要があります。光熱費や人件費などおよそ20万円の固定費がかかるため、売り上げが元に戻らなければ利益はおよそ7万円。月5万円の返済が始まれば、食材を仕入れるために貯金を取り崩さなければならないといいます。

中山さんは「『真備町の復興のために』と再開しましたが、この状態があと半年も続けば経営は難しくなる。融資を受けたときには、2年後にこんな状況になるとは思いもしませんでした。返済が始まってしまうのは厳しいですが、何とか耐えしのいでいくしかありません」と話していました。

美容室を本格再開直後にコロナ禍

倉敷市真備町で被災した事業所の中には、最近になってようやく本格的な再開にこぎつけたところもあり、そのタイミングで新型コロナウイルスの影響を受け頭を悩ませています。

畑和良さん(48)は23年前から倉敷市真備町で美容室を営んでいます。西日本豪雨で自宅を兼ねた店舗は2階の胸の高さほどまで浸水して全壊し、解体せざるをえませんでした。

コンテナを購入し、去年3月からそれを仮店舗として営業する一方、金融機関からおよそ2000万円の融資を受けるなどして店を建て直し、ことし4月1日、ようやく元の場所での本格再開にこぎつけました。

しかし、そのやさき、新型コロナウイルスの感染拡大によって苦境に立たされることになります。

例年、卒業式などで売り上げが伸びる3月の売り上げは、豪雨以前の3分の1ほどにまで戻り、本格再開でさらに客足が増えることを期待していた畑さん。しかし、緊急事態宣言など感染拡大の影響で予約はほとんど入らず、入学式などで需要が多いはずの4月の売り上げは思うほど伸びませんでした。

緊急事態宣言が解除されたあと少しずつ客足は戻り、店内での感染防止策を徹底することで少しでも売り上げを伸ばしたいと国の補助金を申請することを決め、空気清浄機などを購入することにしました。

畑さんは「真備町が少しでも元気になればと頑張ってきましたが、こんなことになるとは想像もできませんでした。真備町の治水対策工事が終わるのもまだ先だし、感染拡大の終息も見えないので苦しい状態が続きますが、地道に頑張るしかない」と話していました。

返済猶予 多くは2年が上限

西日本豪雨で店舗や設備が被害を受けた事業者の多くは、自治体や政府系金融機関などが設けている被災事業者向けの融資を利用しています。

設備投資や運転資金に充てるため比較的低い金利で融資を受けることができ、ことし5月末の時点で、岡山県の制度は延べ500件、倉敷市の制度は延べ202件の利用があったということです。

こうした融資制度には、すぐに返済を始めるのが難しいという事業者のために元本の返済を一定期間猶予できる仕組みがあり、岡山県と倉敷市の制度の場合、猶予期間の上限はいずれも2年です。

政府系金融機関などの融資も、猶予期間の上限が2年のものが多いということです。

県の担当者によりますと、体力の弱い小規模な事業者ほど返済の猶予を求める傾向にあり、西日本豪雨の直後に融資を受け、その時に2年間の返済の猶予を選んだ多くの小規模事業者が、感染拡大の影響が続く中、今後、返済開始を迫られることになります。