日銀短観 リーマンショック直後に次ぐ過去2番目の大幅な悪化

日銀短観 リーマンショック直後に次ぐ過去2番目の大幅な悪化
日銀が7月1日に発表した短観=企業短期経済観測調査で大企業製造業の景気判断を示す指数が大幅に悪化し、リーマンショック直後に次ぐ過去2番目の大きな落ち込みになりました。
経済活動が徐々に再開しているものの新型コロナウイルスの影響を受ける景気の厳しい実態が浮き彫りになっています。
日銀の短観は、国内の企業およそ1万社に、3か月ごとに景気の現状などを尋ねる調査で、景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた指数で景気を判断します。

今回の調査は5月下旬から6月末にかけて行われ、大企業の製造業の景気判断の指数が、前回のマイナス8ポイントからマイナス34ポイントに急落しました。

指数は一気に26ポイント下がり、リーマンショック直後の2009年3月に次ぐ過去2番目の大きな落ち込みになりました。

また大企業の非製造業は、前回の8ポイントからマイナス17ポイントに悪化し、悪化幅はリーマンショック直後を超え、過去最大の落ち込みになりました。

業種ごとにみますと、新型コロナウイルスの影響を大きく受けている「宿泊・飲食サービス」がマイナス91、生産や輸出が落ち込む「自動車」がマイナス72、「鉄鋼」がマイナス58に悪化しています。

一方で、テレワークの広がりで需要が増えている「情報サービス」がプラス20、「通信」がプラス8と、前回より下がったもののプラスを維持しています。

また、自宅で過ごす人の消費が増え、「小売」はプラス2と前回より改善しました。

また先行きについては、大企業の製造業がマイナス27、非製造業がマイナス14といくぶん改善しています。

ただ、指数は低い水準にとどまり、経済活動は徐々に再開しているものの、感染の第2波への懸念もあって企業の慎重な見方がうかがえます。

西村経済再生相「足元では前向きな動きも」

日銀の短観について、西村経済再生担当大臣は1日の記者会見で、「非常に厳しい数字であり、4月と5月の緊急事態宣言のもとで経済を抑制してきた影響が色濃く出ている。ただ、足元では、経済活動の拡大によって少しずつ前向きな動きも出ており、何としても4月、5月を底にして、内需主導で経済の回復を実現したい」と述べました。

そのうえで西村大臣は「また感染が拡大すると経済を止めなければならない事態になりかねないので、感染防止策をしっかり講じていただいて、そのうえで経済活動を広げていくということだと思う」と述べました。

菅官房長官「対策を迅速に実行」

菅官房長官は、午前の記者会見で、「新型コロナウイルスの影響により、極めて厳しい状況にあることを反映したものと考えているが、政府としては、経済活動のレベルを段階的に引き上げていく中で、消費に持ち直しの動きが見られるなど、景気の悪化は下げ止まりつつある状況だと認識している」と述べました。

そのうえで、「個人向け10万円の給付、事業者向けの持続化給付金や家賃支援、さらには、この夏からの『Go Toキャンペーン』による宿泊や飲食代金への支援など、合計230兆円を超える経済対策を用意しており、支援が行き渡るにつれて効果が出てくると考えている。今後も経済状況を注視して、対策を迅速に実行していきたい」と述べました。

旅行業協会会長「地域活性化を」

日銀の短観では旅行業などを含む「対個人サービス」の景気判断が大きく悪化しましたが、これについて旅行会社でつくる業界団体、日本旅行業協会の坂巻伸昭会長は「感染拡大の影響で人の動きが止まり、旅行の目的でもある人の移動ができなくなってしまった。経済の中で観光業はいちばん早く悪くなり、回復はいちばん遅いともいわれるが、観光業全体が非常に厳しいという話が出ている」と述べました。

そのうえで、坂巻会長は「いまいちばん疲弊しているのは地域の経済だ。旅行業が地域の活性化に果たす役割は大きいので、地域に人を動かしていくことに取り組みたい」と述べました。

自動車部品メーカー 今後の売り上げ低迷に懸念

東大阪市の自動車部品メーカーは、今後の売り上げ低迷に懸念を抱いています。

東大阪市にある従業員およそ20人の「テラダ工業」です。自動車のサスペンションのアームに付けるゴム製の部品などを生産。補修用の部品として、すべての製品を商社を通じて中南米や中東など世界中に輸出しています。

寺田昭義会長は、新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大した3月から5月にかけて現地の物流が滞り、出荷ができなくなっていったと説明します。

5月下旬ごろからは物流の状況が改善し、出荷は徐々に再開して売り上げが入るようになってきました。しかし、自動車の需要は世界的に落ち込んできています。こうした影響もあって、先月から受注が大幅に減少しているというのです。

この会社では、契約からおよそ4か月後に製品が完成。取引先に出荷して売り上げが入ります。これまでは感染拡大前の受注が経営を支えてきましたが、このままだと、ことし10月以降、出荷が半減し売り上げも低迷する見通しです。

資金繰りが苦しい中、寺田会長は自分の資産5000万円をやむなく会社に貸し付けました。会社では、国の持続化給付金など公的な支援を受けるとともに、状況が長期化した場合には、金融機関から融資を受けることも検討しています。

テラダ工業の寺田会長は「人件費などの経費を払い続けて、どこまで会社がもつかだ。借り入れをして、できるかぎり頑張りたいが10月以降は、一部の従業員を休ませるなど対応が必要になる可能性もある」と話していました。

広島 カキ養殖業者 缶詰に活路

新型コロナウイルスの影響で海外の飲食店などが休業し広島産のカキの輸出が減少する中、生食用のカキを缶詰に加工して販路を拡大し、苦境を乗り越えようという動きが広島県で出ています。

広島県大崎上島町の塩田あとの池でカキの養殖を営む鈴木隆さんは、生産する生食用のカキのおよそ8割を、殻が付いたまま冷凍してロシアや香港などに輸出してきました。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で海外でロックダウンが行われ飲食店が休業するなどしたため、去年4月に6万個あった海外向けの出荷は、ことし4月にはゼロになったということです。

そこで、鈴木さんは販路を拡大しようと、生食用のカキを使った缶詰を新たに開発しました。原料は養殖した生食用のカキのみで、海底20メートルの深さからくみ上げた雑菌の少ない海水を密閉することで、長期間の保存を可能にしました。

缶詰には3個のむき身が入っていて、殺菌と熱処理が行われているため常温で保存することができ、いつでも手軽に食べることができます。缶詰にすることで、これまで販売していた冷凍の殻付きのカキと比べて重さが軽くなり常温で運べることから、輸送や保存のコストも下げられるということです。

鈴木さんは「在宅で過ごすなど新しい生活様式に適応できるような商品が開発できた。今までになかったような鮮度にこだわった缶詰を作っていきたい」と話しています。

缶詰は、今月中にもオンラインストアや広島市内のデパートなどで販売されるということです。

愛媛 苦境の“今治タオル” マスクのネット販売に注力

新型コロナウイルスの影響は、日本一のタオルの産地、愛媛県今治市のメーカーにも暗い影を落としています。

今治市のタオルメーカー「田中産業」は、ブランド品として知られる「今治タオル」を製造し、ホテルなど宿泊施設向けのほか、贈答品や土産物として販売しています。ところが、新型コロナウイルスの感染拡大で外出を自粛する動きが広がり、イベントの中止や観光客の減少が相次いだことし3月以降、タオルの受注が大きく落ち込みました。

4月と5月の売り上げは、去年の同じ時期からほぼ半減して工場内には大量の在庫が積まれたままです。

厳しい状況を打開しようと、メーカーでは4月から品薄状態だったマスクの生産に乗り出し、今治タオルの生地を使ったマスクとして、大手コンビニの店頭で販売されています。ただ、マスクの販売だけでは落ち込んだ売り上げを挽回できないため、会社はインターネットでの販売に力を入れることにしています。

田中産業の田中良史社長は「緊急事態宣言が解除され都道府県をまたぐ移動の制限が解除されたとはいえ、まだまだ人の移動は活発化していない。これからは来店客に売るだけでなく、インターネット販売などさまざまな方法を考えないと生き残れないだろう」と話していました。

栃木 名物“佐野ラーメン” 客足戻るも第2波に不安

栃木県佐野市の名物「佐野ラーメン」の店では、都道府県をまたぐ移動の自粛が緩和されて以降、客足が戻りつつあるものの、新型コロナウイルスの第2波、第3波への不安を募らせています。

栃木県佐野市のラーメン店「大和」は、青竹で麺を手打ちした佐野ラーメンが人気で、首都圏などから近くのアウトレットモールを訪れる客が多く立ち寄ります。しかし、感染拡大の影響で、4月と5月の2か月間、客足が遠のき、売り上げはおよそ5割減少しました。

先月からは、都道府県をまたぐ移動の自粛が緩和されたこともあり、ふだんの8割ほどまで客が戻ってきているということです。店は、感染防止のため、ちゅう房とカウンターの間に透明のシートをつるしたり、客が入れ代わるごとに座席を消毒したりして対策を行っていますが、今後、再び感染が拡大することに不安を募らせています。

大芦和久店長は「客足は戻って来たが、元どおりまではまだ時間がかかると思う。この先、第2波、第3波が来ると経営がどうなっていくか読めないところがある」と話していました。

変わるオフィスの昼食

新型コロナウイルスの影響が長期間におよぶ可能性があることをみすえ、企業はテレワークなどに本格的に取り組み働き方を大きく変えようとしています。

そうした動きが、オフィスで働く人を相手にしたさまざまなビジネスにも変化を迫っています。

オフィスに昼食のおかずなどを届ける東京 豊島区の食事配達サービス「OKAN」は、食堂がない企業などを相手に取り引きを広げ、2012年の創業以来、毎月、右肩あがりで売り上げが増えていました。

しかし感染が拡大した4月以降、売り上げが減少。テレワークを導入する企業が増え、オフィス向けの昼食の需要が落ち込み、サービスの一時休止や見直しを求める連絡が、およそ100件にのぼりました。

取り引き先で、今後もテレワークが広がれば、売り上げはさらに落ち込むと危機感を持った会社は、5月中旬から新しいサービスを始めました。オフィスに届けていた昼食を、テレワークをしている社員の自宅まで届けるサービスです。届ける先が増えるため、配送は運送業者を使うことにしました。

その分、運送費がかさみますが保存がきくよう、おかずをパックづめにし、1か月分まとめて届けることでコストを削減しています。

東京 千代田区のIT企業につとめる新井悠子さんは、先月からこのサービスの利用を始めました。現在、週に半分はテレワークで、昼食をつくったり外食したりする時間を節約できるため、便利なサービスだと感じています。

新井さんは「あと1品あれば外に買い物に出なくていいときなどに使っている。調理が簡単で、時間もかからず重宝している」と話していました。

「OKAN」は、オフィスに届けるサービスと自宅に届けるサービスを両立させて、コロナショックをきっかけに始まった働き方の変化に柔軟に対応していくことで、生き残りをはかります。

沢木恵太社長は「新型コロナウイルスで計画どおりに物事が進まなくなり、事業の戦略など、いろんな部分に変化が必要になっている。サービスの形を柔軟に変えることで事業を続けていきたい」と話しています。

「新しい日常」見越した動きも

新型コロナウイルスの影響で今回の短観は企業の景気判断が一気に悪化しましたが、テレワークの広がりなど、暮らしや働き方が変わる「新しい日常」を見越した動きも見えています。

たとえば企業が新しいビジネスを始めたり事業を拡大したりするときの設備投資。生産設備や土地などの投資額の総額は春先に立てた計画よりも減る見通しですが、「ソフトウェア」の投資は今回、当初の計画よりも投資額が上積みされました。

感染拡大をきっかけにテレワークを導入する動きが加速し、オンラインで仕事ができる環境をつくろうとデジタル分野への投資を増やそうとしていることがうかがえます。

また、「研究開発投資」も前の年度より増額するという当初の計画を維持しています。景気の先行きについて多くの企業が厳しい見方を崩していませんが、「新しい日常」に対応した働き方や生産体制などを整えるため新たな投資や技術開発が活発になるかどうかも回復のカギとなりそうです。