コロナ禍で見えた倒産手続きの課題は

コロナ禍で見えた倒産手続きの課題は
新型コロナウイルスの影響で倒産した企業は、6月30日の時点で300社にのぼっています。企業の倒産とは、債務の返済ができなくなったり、事業が継続できなくなったりした状態を言いますが、一口に「倒産」といっても清算型の手続きのほか、再建型の手続きがあります。企業の再生にもつながる倒産処理の手続きには迅速な対応が求められますが、感染拡大の中で一部に遅れも出ています。コロナ時代の倒産手続きの課題は何か、取材しました。(経済部記者 新井俊毅)

倒産手続きにコロナの影響も

民間の信用調査会社、帝国データバンクによりますと、新型コロナウイルスの影響で破産などの法的手続きをとって倒産した企業と、事業を停止して法的整理の準備に入った企業は、6月30日の時点で合わせて300社にのぼりました。

業種別では、居酒屋やレストランなどの飲食店が最も多い46社、次いで、ホテルや旅館が45社、アパレル・雑貨などが20社となっています。
この倒産手続きに関与する機関が裁判所です。感染拡大の影響で異例の対応を迫られました。東京地方裁判所の民事第20部は、企業の破産や民事再生といった倒産手続きを全国で最も多く扱うところとして知られていますが、4月以降、緊急事態宣言などを受けて、緊急性がある案件を優先的に扱い、企業の破産手続きに伴う債権者集会の期日を延期するといった措置をとってきました。地方の裁判所も対応に追われました。
山形市の老舗デパート「大沼」は、ことし1月に破産手続きの開始決定を受けました。デパートと関連会社の債権者集会は、6月18日に開かれる予定でしたが、山形地方裁判所は、5月下旬、「県内外から多くの債権者の出席が予想され、感染が再拡大するおそれがある」として、11月に延期することを決めました。

こうした対応について、大手法律事務所の弁護士は「債権者集会の延期など裁判所の対応に違和感はないが、その結果、手続きに時間がかかれば、債権の回収が遅れたり、企業の再建が計画どおりに進まなかったりするおそれも出てくる」と話していました。

オンライン運用の現状は

今や民間企業の間では、いわゆる3密を避けるため、オンラインで会議を開くという形が当たり前になっています。債権者集会などの倒産手続きもオンラインで行うことはできないのでしょうか。

倒産手続きに詳しい弁護士は「仮に裁判所が債権者集会をオンラインで開くとしても、システムの整備に加えて、参加する人が本当に債権者本人なのかをどう確認するのか、外部への情報の流出をどう防ぐのかといった運用面の課題もでてくる」と話します。こうしたことから、現状では、オンラインでの運用は難しいと考えられています。

そもそも日本の倒産法制自体は、インターネットでのやり取りを前提としていないと言われています。破産や民事再生手続きを裁判所に申し立てる際には、書類を直接持参するか、郵送するようになっています。

一方、アメリカでは、日本の民事再生法に相当する連邦破産法11条の適用申請をオンラインだけで行うことができます。また、デジタル化の進展が著しい中国でも、倒産手続きのためのプラットフォームが整備され、一連の手続きがオンラインで進められるようになっています。管財人が債権者への情報提供にSNSのウィーチャットを使うこともあるということです。

一方、裁判所を通さずに、企業と債権者との話し合いで再建や清算の手続きを進める「私的整理」の分野では、感染拡大の中、電話会議やオンライン会議を取り入れることも多かったようです。企業の私的整理に関わった弁護士に取材すると、その多くがオンライン会議を利用したと話していました。

ある弁護士は「緊急事態宣言が出されていた間、特に4月はオンラインで再建計画などを議論することが多かった。外部との打ち合わせにオンライン会議は利用できないとして電話で参加する金融機関も一部にあったが、多くの当事者がこの仕組みを使うことに前向きだった。私的整理の実務では、オンライン会議の運用はほぼ定着したのではないか」と話していました。

オンライン化、国も問題意識

先に、日本の倒産法制自体がインターネットでのやり取りを前提としていないことに触れましたが、実務ではITの技術が使われたケースもあります。
2014年に経営破綻した暗号資産(仮想通貨)ビットコインの交換会社、マウントゴックス。う余曲折を経て2018年6月に民事再生手続きの開始決定を受けました。利用者が10万人を超え、その多くが海外に住んでいたことから、管財人は債権の届け出をオンラインで受け付ける仕組みを取り入れました。このように管財人が膨大な債権者の届け出をオンラインで受け付けたり、システムで管理したりする動きもありますが、まだ一部にとどまっています。

一方、政府は、成長戦略の一環として、民事訴訟のIT化に取り組んでいて、ことし2月からは、民事裁判の争点を事前に整理する手続きで、オンライン会議の活用が始まっています。さらに政府は、倒産手続きについても、今年度中に、IT化のスケジュールを検討するとしています。
政府の背中を押すように、倒産法の研究者や弁護士などでつくる民間の研究会が、去年9月、倒産手続きのIT化に向けた中間取りまとめを公表。この中では、「5つのe」として、書類の提出(e提出)、記録の保管(e事件管理)、集会(e集会)など5つの分野でIT化を進めていくべきだと提言しています。
この研究会の座長を務めた日本大学の杉本純子教授は「新型コロナウイルスの感染拡大でオンライン会議の利用が広がるなど、社会全体でIT化の機運が高まっており、倒産手続きもこれを機にIT化を進めるべきだ。実現できれば、裁判所や管財人の事務的な負担を軽減できるほか、郵送代をはじめとしたコストも削減でき、その分だけ債権者への配当が増えることにもつながる」と意義を強調します。

そのうえで「政府が進めている民事訴訟のIT化の実現を待つのではなく、今の倒産法の制度のもとで、できるところからIT技術を活用していくべきだ」と指摘します。

実務の世界でオンライン会議などITの活用が広がる中で、これをどのようにして迅速な企業再生や債権者保護につなげるのか。コロナの時代に対応した倒産手続きの在り方が問われています。
経済部記者
新井 俊毅
平成17年入局
北見局・札幌局を経て現所属
デジタル経済や統計問題・防災など幅広い分野を取材