「子どもを忘れるなんて…でも…」車内に放置され女児死亡

「子どもを忘れるなんて…でも…」車内に放置され女児死亡
今月17日、茨城県つくば市で車内に長時間放置された2歳の女の子が死亡しました。

父親は警察に「子どもを保育所に送るのを忘れていた」と話したといいます。

「子どもを忘れるなんて、そんなことある?」という声の中に「私も…」という声がありました。(水戸放送局記者 大野敬太/ネットワーク報道部記者 鮎合真介 有吉桃子 高橋大地)

在宅勤務の中で

「仕事で頭がいっぱいで、子どもを保育所に送るのを忘れていた」

今月17日、茨城県つくば市で2歳の女の子が車の中でぐったりしているのがみつかり、第一発見者の父親は、警察にこう説明しました。その後、女の子は病院に運ばれましたが約1時間後に死亡が確認されました。

女の子は両親と小学生の姉との4人家族。両親は共働きで、会社員の父親は新型コロナウイルスの影響で、ことし4月ごろから在宅勤務をしていました。

そのかたわらで、長女と次女をそれぞれ小学校と保育所に乗用車で送り迎えするのが日課でした。

この日も午前8時ごろ、父親は2人の子どもを乗用車に乗せて自宅を出て長女を小学校に送ったあと、次女を保育所に送り届ける予定でした。

ところが、小学校で長女を降ろしたあと、保育所に次女を預けるのを忘れ、そのまま自宅に戻って駐車場に車を止め、そのまま在宅勤務をしていたとみられています。

「次女は保育所に預けたつもりになっていた」

警察にそう説明しているという父親は、午後3時すぎ、子どもたちを迎えにいった小学校の駐車場で、チャイルドシートでぐったりしている次女を見つけるまで、忘れていたことに気付かなかったとみられています。

愛がないということではない

ネット上では「子どもを忘れるなんて信じられない」「そんなのありえない」という声も多数見られる一方で、「自分がやらない自信はない」「実は私も経験がある」といった投稿も見られました。

専門家は同じようなケースが起きるのを防ぐためには、人の心のメカニズムを知る必要があるといいます。
社会心理学が専門で新潟青陵大学教授の碓井真史さんは、「世間は『考えられない』とか『嘘ではないか』と怒ったり『子供がかわいそうだ』と同情したり、怒りや悲しみの反応を示します。ただ、怒りや悲しみでは事故は防げません。なぜ起きたのか、冷静に考えていく必要があります」と指摘しています。

そして、なぜ人が大切なものを忘れることがあるのか説明してくれました。
碓井さん
「例えば、駅から家まで帰るいつもの道のりは忘れることはなくても、きょうは手紙を出すためにポストの前で立ち止まらなくてはいけない。きょうはスーパーに寄って牛乳を買って帰らなければいけない。そういったいつもと違う行動は忘れやすいのです。忘れると言っても完全に忘れるわけではないのですが、必要な時に思い出すことができなくなってしまうということが人間にはあります。家に帰ってかばんをあけて封筒を見た瞬間に、ああそうだったって手紙を出し忘れたことを思い出せるわけなんですが、思い出すきっかけがないと思い出せないままになってしまうことも人間の記憶にはあるんです」
そのうえで碓井さんは、まさか忘れるわけがないと思っている大事なものでも人間は忘れてしまうことがあるといいます。
碓井さん
「たとえばいつも赤ちゃんと接している人であれば泣いていないか、オムツがぬれていないかいつも赤ちゃんのことを考え続けるのが習慣になっています。でもいつも赤ちゃんとは接していなくて急いで仕事の準備をして会社に行って、ということを日常的にやっている人にとっては車を運転しながら赤ちゃんのことを考えるという習慣がないので保育園の近くに来たときに思い出せない。また、たとえば強いストレスがかかっているときや仕事のことばかり考えているといつものように頭が働かない。それは決して赤ちゃんへの愛がないということではないのです」

子どもを忘れるなんてありえない?

実際に子どもを「忘れた」ことがあるという40代の女性に話を聞くことができました。

次女が2歳ぐらいだったとき、車の後部座席のチャイルドシートに乗せて、自宅マンションに戻ったときのことです。女性は車を駐車しようとトランクに入れていたベビーカーを降ろしました。
ところが考えごとをしていて、そのまま車を昇降型の立体駐車場の地下に入れる操作をしたそうです。

車がほぼ見えなくなったところで、女性は初めてベビーカーが空であることに気付き、慌てて車を地上に戻すと、車の中から不思議そうな顔をして次女が見ていたといいます。
女性
「パニックに近かったかもしれません。慌てて駐車場の操作レバーを反対側に切り替えました。次女を見たときは、とにかく無事でよかった!と思いました。車を地下にしまう駐車場なので、きっと真っ暗になっただろうな、よく泣かなかったなと思いました。ほんの数秒、十数秒の出来事だったと思うのですが、本当にドキドキが止まりませんでした」
女性はそれ以降、立体駐車場で車を地下にしまうときや、車に子どもを乗せて出発するときなどさまざまな場面で、誰かに話しかけられるなどの注意がそれるような出来事が起きれば、何かを忘れてしまうかもしれないという恐怖があったといいます。

また、女性によれば、当時の次女はもの静かだったため幼稚園の送りなどで乗せ忘れていないか、駐車場に置き忘れていないかなど車のミラーで頻繁に確認するようになったそうです。
女性
「長女のときは長女を忘れたことはなかったので、子どもを忘れたことによる事故のニュースを見聞きしても『ひえー信じられない!事故じゃなくて親の虐待じゃない?』くらいに思っていました。ところが、自分が実際に忘れて、これは誰にでも起こりうる!!と強く思いました。『親の不注意』で片づけているうちは、事故はなくならないと思います」

「血の気が引いた」記憶は今も

もう1人、22年前に子どもを忘れた経験があるという横浜市に住む50歳の女性にも話を聞くことができました。

女性は当時2歳だった長男を保育園に迎えに行くため、生後3か月くらいの次男をだっこひもで連れて園に向かいました。

そして園に着いて、長男がいる保育部屋に入る前に、隣の部屋の広いおむつ台に次男を降ろして長男を迎え、そのまま長男をトイレに連れて行きました。便座に座るのをしぶる長男をなだめたり、排せつの確認をしたりしたあと、なんとか着替えさせて手をつなぎ、荷物を持って保育園を出ました。

そして長男と話しながら保育園から20メートルほど歩いたところで次男を忘れたことに初めて気づいたそうです。
女性
「何か大事なことを忘れているような感覚があり『何だろう?』と考えながら歩いて、次男がいないことに気付きました。一瞬、何が何だかわかならくなりパニック状態になりました。次男を連れてきたかどうかすらわからなくなり、その場で立ち尽くしました。必死に『どこで?』と思い出そうとして、ようやくおむつ台だと気付きました。冷や汗が止まらず、血の気が引いていきました」
長男を抱きかかえて全速力で保育園に戻った女性は、泣きもせずニコニコしている次男を見て腰が抜けたそうです。これ以降、子どもを連れ歩くときは、乗り物の乗降やトイレなど、どんな場所でも移動の際には名前を呼んで返事をさせていたということです。

忘れないために重要なのは

ヒューマンエラーや事故防止の対策に詳しい産業技術総合研究所人工知能研究センターの中田亨博士は“味見”が重要だと指摘します。
中田博士
「やり忘れを防ぐために、マニュアルで『Aをしなさい』『Aをしましたか』、『Bをしなさい』、『Bをしましたか』とやったかどうかをチェックしてもあまり意味がないんです。やったと思い込んでいる人に聞いても『やりました』と答えるだけだからです。では、どうすればいいかというと“味見”です。料理の時には砂糖を入れたか、塩を入れたかチェックするのではなく、味見して結果を確認しますよね。事故防止でも同じように結果を点検することが重要なんです」
そして、見習うべきは野球部員や柔道部員だと言います。
中田博士
「野球部員や柔道部員は球場や道場に入る前にいったん止まって礼をしてから入ります。このいったん止まるのが大事なんです。車を降りるときはながら仕事をせずに、すべての座席に何も残っていないか指さし確認をすることが重要で、そのためには常日頃から車を使っていないときは座席に何も置いていない状態にしておくのがベストです」
ただ、それでも忘れることから人は逃れられないと中田さんは指摘します。
中田博士
「点検しても人間のミスの確率が減るだけでゼロにはなりません。それに点検は習慣づけていないと簡単にチェックすることそれ自体を忘れてしまいます。車のように使い方によっては危険なものに対しては、特に自分の身を引き締めないといけませんし、いつでも起こる、明日はわが身と考えて点検を習慣づけることが大事だと思います」

繰り返される置き去り 技術で防げ

いくら気をつけていてもミスを犯すおそれがある人間。しかし、子どもの命がかかっている以上、“うっかりミス”では済まされない重大な結果を引き起こしてしまいます。

そんな不確かな人間をサポートするため車そのものが子どもの置き去りに気付いて知らせてくれるシステムの開発も進んでいます。
フランスの自動車部品大手「ヴァレオジャパン」によると、ヨーロッパでは自動車の安全テストの項目に2022年から幼児の置き去り検知システムが加えられる予定で、これに向けて去年、日本で初めて展示会に幼児置き去り検知システムを出展したそうです。
車内に設置したレーダーで生物の存在と動きを検知する仕組みで、子どもが車内に残っているとドライバーに知らせてくれます。
システムを担当する小谷純也さんに話を聞くと、車社会のアメリカやヨーロッパでは毎年数十件、車への子どもの置き去りによる死亡事故が繰り返されていて、アメリカでも幼児置き去り検知システムの搭載を義務づける法案が連邦議会に提出されているということです。

小谷さんは「事故が起きるとそのときは注目されますが、また同じような被害が出てしまいます。アメリカでは助手席に乗った子どもがエアバッグで死亡する事故が一時期多発し、子どもが前の座席に乗る場合、エアバッグを切ることができる法律を制定したんです。その後、同様の事故が激減したという経緯もあって、子どもの置き去りについても検知システムの搭載の義務づけなど何らかの対策が必要だという認識が進んでいます」と話していました。

「ちょっとの間なら…」が重大事に

6月17日。つくば市の最高気温は7月中旬並みの27.8度でした。

亡くなった女の子の死因は不詳でしたが、警察は7時間以上にわたって、窓を閉めきった車内に放置され熱中症で死亡したとみています。夏場、車内の温度はどのくらい上がるのか。熱中症の危険性はどの程度あるのか。
JAF=日本自動車連盟が8月後半に行った実験があります。炎天下の中で、車内の温度を25度にそろえた複数の車を、正午から4時間にわたって放置しました。サンシェードなど日よけの対策をしていない車では、開始からわずか10分で車内の温度は37.8度まで上昇。4時間の最高温度も52度、平均温度は47度と、そのまま居続けるには非常に過酷な状況です。

さらに、窓を3センチほど開けて喚起できるようにした車の場合でも、最高温度は45度、平均温度は42度。ほとんど状況は変わりません。
また、暑さ指数(WBGT)についても、車のエアコンを切ってから、約15分後には「危険」レベルまで上がり、短い時間でも命に関わる事態になることがわかります。
JAF東京支部の高木孝さんは、「この実験は真夏に行われたものですが、梅雨の時期でも注意が必要です。雨が降って少し涼しいかなと感じたとしても、湿度が高いと熱中症になりやすい傾向にあるためです。エアコンをつけていれば車の運転中や駐車した直後は、快適に感じるかもしれませんが、いったんエンジンを切るとたちまち温度や湿度が上がります」と指摘します。

そのうえで「特に子どもは体温が上がりやすいです。『ちょっとの間なら大丈夫だろう』とか、『せっかく寝ているから起こさずにおこう』と考えて、車の中にお子さんを置いていくのはNG。車から出るときは必ず連れて行くようにしてください」と話していました。