コロナ危機、頼れるリーダーの3つのチカラ

コロナ危機、頼れるリーダーの3つのチカラ
移動の自由や経済活動を大きく制限したコロナ危機。未曽有の危機に、待ったなしの対応を迫られた各国のリーダーたちへの評価はさまざまです。しかし、それぞれの国民から高く評価されたリーダーたちには、ある共通点が見えてきました。(シドニー支局長 小宮理沙/ベルリン支局長 山口芳)

世界も注目した首相の動画

夜8時半すぎ、ラフなトレーナー姿で公邸から、フェイスブックを使ったライブ配信を行ったニュージーランドのアーダーン首相。
国家非常事態が宣言され、大幅に外出が制限された3月25日。アーダーン首相は、外出制限について寄せられたさまざまな質問に直接答え、不安の払拭(ふっしょく)に努めました。

新型コロナウイルスの潜伏期間を考えると、厳しい制限を始めても、しばらくは感染者が増え続けることを丁寧に説明したうえで、「感染者が急増してもがっかりしないでほしい。みんながルールを守れば、努力の成果があらわれるはず」と励ましました。

落ち着いたトーンの声で、笑顔で語りかける様子に、安心した国民も多かったのではないかと思います。

「最高の首相だ!」「すばらしいリーダーシップをありがとう!」こんなコメントも寄せられています。収録されたライブ配信の再生回数は、540万回を超えています。

国外から視聴した人も含まれていますが、ニュージーランドの人口がおよそ500万人であることを考えると、注目の高さがうかがえます。

うさぎも妖精も活動できるけど…

アーダーン首相は、不安を抱える国民に対して、たびたびメッセージを発信し、「強くいよう」「親切にしよう」など、互いを思いやり、一緒に乗り越えていこうと呼びかけてきました。

前例のない事態に、政府の対応が完璧ではないかもしれないことも、正直に話しました。さらに、子どもたちの素朴な疑問や不安にも対応し、母親らしい一面も見せました。
キリスト教の復活祭、イースターを控えた4月初旬。イースターに欠かせない存在のうさぎや、子どもの抜け歯を硬貨と交換してくれる「歯の妖精」も、外出制限によって活動できないのではないかと心配する子どもたちに向けて、アーダーン首相はこう答えました。
「歯の妖精も、イースターのうさぎも、(活動が認められる)エッセンシャルワーカーです。でも、この状況では、自分たちの家庭のことで忙しいかもしれません。だから、各地を訪れるのは難しいということを理解してあげないといけませんね」
こうしたアーダーン首相の対応は、国民から幅広く支持されました。5月下旬に発表された地元テレビ局の世論調査で、アーダーン首相を「より好ましい首相」に選んだ人は63%にのぼりました。
これは、ニュージーランドで感染が拡大する前の2月に行われた時の調査より21ポイント高く、この調査が行われてきた25年間で最も高くなりました。

重要なのは“コミュ力”と“共感力”

他の国のリーダーはどうでしょうか。WHO=世界保健機関が新型コロナウイルスをパンデミックと宣言した3月11日の前と後で比較してみます。

アメリカや日本など10か国の首脳の支持率を継続的に公開しているアメリカの調査会社「モーニングコンサルト」の世論調査をみると、アメリカのトランプ大統領、ブラジルのボルソナロ大統領、安倍総理大臣では支持率が横ばい、もしくは低下する傾向にあります。
一方、オーストラリアのモリソン首相やカナダのトルドー首相、それにドイツのメルケル首相の支持率は上がっています。

支持を集めているリーダーたちにはどんな共通点があるのでしょうか。各国政府の現状に詳しい、OECD=経済協力開発機構東京センターの村上由美子所長は、3つ挙げています。

「科学的な根拠に基づいた対策」
「コミュニケーション力」

そして「共感力」です。

特に危機に直面しているときは、リーダーが高いコミュニケーション力と共感力を示すことが重要だと指摘します。政府の方針や政策を理解できないと国民は混乱し、逆に理解できれば安心感がうまれ、政府を支持しやすくなるからだといいます。そして、政府が国民のことを第一に考えていることが伝われば、不安や不満を抑えられるとしています。
村上由美子所長
「共感はパフォーマンスではできない。実際に国民のことがわかっていないとできない。国民が苦しんでいるときに、リーダーも自分たちの仲間なのだと人々が感じられることで、政府への信頼が高まる」
アーダーン首相の場合は、とりわけこの「コミュニケーション力」と「共感力」で支持を広げていったといえるといいます。

科学重視のメルケル首相

一方、「科学的な根拠に基づいた対策」で評価を高めたのはドイツのメルケル首相です。

このところ、いくつかの地域で局地的な感染の広がりが見られるものの、欧米の中では犠牲者数を低く抑えているドイツ。自身も物理学の博士号をもつ科学者として、メルケル首相はこれまで、さまざまな客観的なデータをもとに、制限措置の導入や緩和を判断し、その根拠も伝えてきました。
例えば、第1弾の制限緩和を発表した4月の記者会見。「制限緩和にはどんな基準が重要なのか」という質問に対し、メルケル首相は、1人の感染者が何人に感染を広げているのかを示す「実効再生産数」を1つの指標としてあげました。

そのうえで、「この数が1.1となった場合は10月、1.2となった場合は7月、1.3となった場合は6月に、医療システムが限界を迎える」と資料に目を落とすこともなく、整然と答えたのです。
この時、新たな感染者の数は減り始めていました。それでも、メルケル首相はこうした説明を通じて、「現状は薄い氷のようにもろい」と訴え、あくまでも慎重に緩和を進めるとする政府の方針が国民に理解されていきました。

冷静な判断をすることで知られるメルケル首相ですが「共感力」も発揮しています。

隣国との行き来が制限された3月に行ったテレビ演説で、メルケル首相はこう語りかけました。
「旅行や移動の自由が苦労の末に勝ち取られた権利だという経験をしてきた私にとって、このような制限は絶対に必要なときでしか正当化されない」
自由が制限されていた旧東ドイツで育った自身の経験から、制限の判断がいかに難しいものだったかを率直に伝えた演説は胸を打つものがありました。

ベルリンに住む女性からは、「メルケル首相には政治的な存在感を高めたいという野心は一切感じられない。カリスマ性はないが、国民を第一に考え、客観的な事実に基づいて、最も良い解決策を模索している」という声も聞かれました。

リーダーを支える“多様な人材”もカギ

いま、感染拡大が抑えられているとして、制限を緩和する国が増えつつあります。しかし、今後「第2波」が来ることも予想され、危機が長期化する可能性もあるとみられます。
村上所長は、リーダーの対応とともに、どんな人たちがリーダーを支えるかも大切になるといいます。
「いまからでも、リーダーたちは国民が何を求めて、政府が何を提供すべきか、最善の対策を考え、どういうコミュニケーションが求められるかを考えて実践すべきだ。国民を理解するには、意思決定のプロセスで多様な国民の姿が反映されることが大事。リーダーの周りに偏った人材が集まっていると、情報も意見も偏る」
リーダーにアドバイスをする政府関係者や専門家などに、さまざまな年齢や性別、バックグラウンドを持つ人たちがいて、初めて、幅広い人たちの痛みを理解し、必要な対策やコミュニケーションが可能になると指摘しています。

次なる課題として、経済再建も重くのしかかってきます。世界銀行の見通しでは、ことしの世界全体の経済成長率がマイナス5.2%まで落ち込み、第2次世界大戦以降で最悪になるとしています。経済を立て直すまでの道のりは、長く厳しいものになることが予想され、すでに多くの人々が不安や不満を抱えています。
リーダーたちが、これまで以上にコミュニケーション力と共感力を発揮して、信頼を得ながら経済再建の道筋をつけられるのか、注目していきたいと思います。
シドニー支局長
小宮理沙
2003年入局
金沢局、国際部などを経て、シドニー支局に赴任。
ベルリン支局長
山口芳
2008年入局
函館局・札幌局・国際部を経て、ベルリン支局に赴任。