コロナ禍で進んだ?働き方“ビッグバン”

コロナ禍で進んだ?働き方“ビッグバン”
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに広がったテレワーク。今、企業の間では、感染の収束後もテレワークを定着させようという動きが相次いでいる。この流れは「テレワークなんてできない」と思われていた現場にも及び、年功序列や終身雇用を前提とした日本型の雇用慣行の改革に拍車をかけている。(経済部記者 早川俊太郎 古市啓一朗)

“足で稼ぐ”が当たり前の業界にも!

「テレワークの営業に手応えを感じている。もう根性で営業する時代じゃない」

大和証券の幹部から出たこのことばに始めは意外感を持った。顧客の大切な資産を扱う証券営業は何と言っても信用がすべて。顧客のもとに何度も通って信頼してもらう。まさに「足で稼ぐ」ことが“これまでの常識”だ。

そんな証券営業でテレワーク?そもそも家で株式の注文を受けられるの?

自宅で株式の受発注も

取材で訪ねたのは、個人営業を担当する松下昌夫さん(38)の自宅。入社14年目の中堅。緊急事態宣言が解除された今も、週の半分程度はテレワークだという。

「おはようございます。では早速…」

午前9時。松下さんは自宅でタブレット端末を取り出してテレビ会議システムを起動。自宅が“営業現場”へと変わった。パソコン画面には担当している個人投資家の姿。
「昨夜のニューヨーク市場、ダウ平均株価は280ドル安ですが、ナスダックは大台超え。業種を変えて分散投資してみますか?」

相場の状況をテンポよく説明すると、早速投資のプランを提案し、20分ほどで営業が終わった。これまでオフィスでしかできなかった「株式の受注・発注」も自宅でできるように会社がシステムを整備したという。
従来の訪問営業では、電話でアポ取り→現場に移動→顧客と面談。かなりの時間を要する。しかしテレワークだと効率アップにつながる。
松下さん
「リアルタイムで資料を送りそれを見ながらわかりやすい提案ができる。肌感覚では10倍くらいメールを使うようになり、営業の効率化につながっている。お客様にストレスがかからない時間に面談することもできるようになった」

リアルとウェブのベストミックス

「足で稼ぐ」から「タブレットで稼ぐ」へと形を変えた証券営業。しかも、会社の営業成績は悪くなっていない。

株式や投資信託などの金融商品の買い付け金額(1日当たり)は4月こそ落ち込んだが、5月は少し持ち直し、6月はテレワークを本格導入する前の水準に戻りつつあるという。

個人向け営業の3割程度はテレワークにできるとみている大和証券。今後、従来型の訪問営業との“ベストミックス”を探る方針だ。
新妻専務
「ウェブでお客様との接点を持ち、さらにリアルの面談にも臨むことで、より充実した提案ができると思う。営業スタイルの変革においても、金融業界の中でリードできることはリードしていきたい」

生産現場でも!

テレワークが難しいとされてきた生産現場。しかし取材を進めると、ここでも新たな取り組みが始まっていた。
プリンターのトナーカートリッジなどを手がけ、約700人が生産にあたっている神奈川県厚木市にあるリコーの工場。最新の生産管理システムとして、実に700台以上のカメラやセンサーが設置され、あらゆるデータが可視化されている。

ふだんは敷地内にある別の部屋から常駐の担当者がデータを監視しているが、今回、通信インフラを整え、自宅からの監視業務に乗り出した。
テレワークを始めた監視担当の平間勝美さん(46)。自宅のパソコン画面に工場から送られてくる生産の進捗や設備の異常などのデータを表示していた。少しでも気になるデータがあれば、カメラの映像を確認して機械に問題がないか見ているという。
取材中、無数の小さな赤い点が表示されている画面を見て、平間さんの表情が変わった。製品のネジを締める強さが通常よりややばらつきがあるというのだ。

早速工場にいる担当者に連絡を取った。担当者が調べた結果、ネジを締める装置の先端部分が劣化し始めていることが分かった。直ちに問題はないものの、放置すると基準に満たない製品が量産されるおそれもある。この日のうちに部品交換となった。

工場では、4月から監視業務のテレワークを始め、現在は1日当たり70人ほどが自宅で仕事をしている。
平間さん
「今のところテレワークでも全く問題なく、1人だと集中力があがって仕事をしやすい」
会社は、全国にある複数の工場の監視業務を集約し、遠隔で行うことも検討している。新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、工場の在り方が大きく変わる可能性が出ているのだ。
菅野執行役員
「直接、製造に携わる業務のテレワークは難しいが、サポート業務は在宅でもできることが分かってきた。工場の働き方変革、リモート化を今後も続けていきたい」

課題は人事評価

テレワークの課題とされるのは、働きぶりが見えにくい中での適正な人事評価。これに正面から取り組んでいるのが日立製作所だ。グループ全体の従業員は30万人にのぼる。

5月、日立は将来にわたってテレワークを「標準」とし、出社を半分に抑える方針を打ち出した。そのための制度改革の柱としたのが、来年4月の開始を目指す「ジョブ型」への転換だ。
欧米で主流のこの制度。部長や課長といったポジションごとに職務や待遇が決められ、能力しだいで希望するポジションにつける。業務ごとに期待する職務内容を決め、その結果を評価する。

日立は今、ポジションごとに細かく職務や待遇を決め、評価の基準を定める抜本的な改革を急いでいる。
東原社長
「1910年の発足以来、日立は製造業として工場を中心に歩んできた結果、工場にいる時間が長ければ長いほど売上高が上がっていくことをベースにさまざまな制度が組み立てられてきた。しかし最近は、サービスなどで顧客にどのような価値を提供できるかという時代に変わってきている。たとえ働く時間が1時間でも、よいアイデアが出ればよいサービスにつながる。必ずしも時間管理が成果につながるわけではなく、思い切ってそういう方向への転換を考えた」
「個人が評価される形を作らないと、チームのアウトプットなのか個人のアウトプットなのか分からない。新しい制度のもとでテレワークを中心とした新たな働き方に移行していきたい」
東原社長
「従業員へのアンケートを分析すると、通勤の時間が節約されるとか、仕事の時間管理を自分でできるといった声が上がり、半数以上が在宅勤務を続けたほうがよいという結果になった。一方で、コミュニケーションが不足してくるとか、部下の健康面の管理が難しいとか、課題も見えてきた。きちんと技術的にサポートしていきたい」

地に足のついた“新常態”を

新型コロナウイルスによって半ば強制的に始まったテレワーク。これまで考えもしなかった現場で改革が進んでいる。この流れが後戻りすることはないだろう。

一方で、一人一人の従業員から聞こえてくる不安の声や、テレワークが難しい中小企業などの声も無視できない。

ウィズコロナの時代にどんな働き方がふさわしいのか。経営者も働く人たちも本音をぶつけ合って模索する必要があると思う。
経済部記者
早川 俊太郎
平成22年入局
横浜局、岐阜局、名古屋局を経て現所属
電機業界を担当
経済部記者
古市啓一朗
平成26年入局
新潟局を経て
現在 金融業界を担当