どう呼びかける?ソーシャルディスタンス

どう呼びかける?ソーシャルディスタンス
緊急事態宣言の解除や都道府県をまたぐ移動の自粛の緩和で、さまざまな施設が相次いで再開しています。そこでよく目にするのが、新型コロナウイルスの感染防止に向けて、ソーシャルディスタンスをとるよう利用者などに求める取り組み。どう呼びかければ人々の心に訴えられるのか。お笑いコンビのネタや自慢のマグロを活用するなど、各地でユニークな取り組みが行われています。
(ネットワーク報道部記者 高橋大地 目見田健)

TT兄弟でソーシャルディスタンス

「小2の3密対策。先生が『ティー』って叫んだら、クラス全員でTTするんだって。先生、さすがっす」
先日、投稿された、小学2年生の児童の母親のツイートが話題になりました。「TT兄弟」は、Tの字を見つけると、両手を左右に広げて「T TT TTTT!」と声を出すお笑いコンビ「チョコレートプラネット」のネタ。
子どもたちにソーシャルディスタンスをとってもらうため、担任の先生がこのネタを活用しているというのです。

ほんわかやさしく距離をとれる

この先生は、埼玉県狭山市の御狩場小学校で、2年1組の担任をつとめる吉川栄子先生です。吉川先生は、今月1日に分散登校が始まるのにあたり、子どもたちにどうソーシャルディスタンスを呼びかけるか考えていたといいます。
吉川栄子先生
「『離れてよ』とか『近くに行っちゃだめ』と言ってしまうと、子どもたちの人間関係もギスギスしてしまうかもしれません。そこで、TT兄弟の「ティー!」と言うか、「みんなが大事」の意味を込めて「大!」というふうに声を出したら離れるようにすればいいと思いついたんです。実際に登校してきた子どもたちにどっちがいい?と聞いたら、TT兄弟がいいというので、採用しました」
効果は狙い通りのようで、例えば休み時間に吉川先生が「ティーー!」と言うと、児童たちも両手を広げて「ティー、ティティー、ティーティーティティー!」と楽しそうに言いながら離れていくといいます。
吉川先生
「『ティー』というだけで、なんだかほんわか、やさしい気持ちになれます。こういうときだからこそお互いを思いやっていく、そんなクラスにしていきたいと思います」

アジアゾウの鼻にエゾヒグマ

このソーシャルディスタンス、各地の施設で特徴をいかした呼びかけが行われています。
こちらは今月3日、一部を再開した札幌市円山動物園のポスターです。ソーシャルディスタンスの目安となっている2メートルがどのくらいの長さなのか、「アジアゾウの鼻」や「エゾヒグマ」など、動物園にいる動物で表現しています。

32枚のポスターは、すべて園の職員による手書きだそうです。
円山動物園
「動物園ならではのソーシャルディスタンスの表現を考えたのですが、来園者からは、動物の大きさも知ることができてよかったという声もいただいています」

やりでソーシャルディスタンス

ソーシャルディスタンスの目安として、こんなものも登場しました。場所は、長野県富士見町にある井戸尻考古館。
縄文時代中期の土器を中心に多くの遺物が展示されていて、縄文ファンの間で人気の博物館です。今月初めの再開にあたって館内に置いたのが「ソーシャルディスタンスの槍」。
学芸員の副島蔵人さんが黒曜石を割って石器を製作し、長さ2メートルの棒の先に取り付けました。縄文時代の初めごろに使われたやりをイメージしたそうです。安全のため、やりの先の石器の刃はつぶしていて、来館者は、職員の目が届く場所でしか手に取ることができないようにしているということです。
副島蔵人さん
「検温やマスク着用などのお願いに、来館する人が身構えたり窮屈な思いをしたりしないか心配していました。楽しみながら人との距離を意識して、展示を見てもらえたらうれしいです」

“マグロ”でソーシャルディスタンス

クロマグロの完全養殖に世界で初めて成功した近畿大学。図書館に現れたのは、やはりマグロです。
今月(6月)8日の大学の一部再開にあわせて広報室の職員が考えたそうです。

隣り合ったいすに学生が座らないようにしようと図書館に置かれた“マグロ”は、大小あわせて220匹。職員7人で製作したということで、学生からは、「近大らしい」「シュール・・・」「目がギョロッとしていて勉強に集中できない(笑)」などと評判だそうです。
近畿大学広報室
「少しでもほっこりしてもらえれば。しばらくは学生の皆さんにはマグロと一緒に勉強してもらいます」。

最新技術でソーシャルディスタンス

では、表示がない場所では、いかに人との距離を保つのか。最新技術の活用で目安を提供しようという取り組みがあります。

その最新技術とは、AR=拡張現実。スマートフォンのスクリーンを通して、目の前に半径の目盛りがついた円を表示します。
足のマークを中心に、一番の大きいもので半径2メートルの円が地面に描かれているかのように、スマホの画面に表示されるのです。

開発したのは、クリエイティブ集団「PARTY」のアートディレクター、寺島圭佑さんで、ブラウザでホームページにアクセスすれば無料で利用できるということです。
寺島圭佑さん
「例えば2メートル、人との距離をあけるよう言われても、生活の中で、その距離感は意外にわからないんですよね。使いながら歩くと言うより、日ごろ行くスーパーや公園などで試してもらうことで『ああ、これくらいの距離なんだな』と意識してもらえるようになってほしいです」

行動制限を少しでも楽しく

こうしたソーシャルディスタンスのユニークな表現に、いったいどんな効果があるのか。社会心理学が専門の大阪大学大学院の三浦麻子教授は、心理的葛藤をキーワードにこう解説してくれました。
「私たちにとって、ソーシャルディスタンスを維持することは、今までは当たり前にしていた行動の制約につながりますので、あまり愉快ではありません。しかし、感染のリスクを減らすためには必要なので『なるべくしたくないが、しなければならない』という心理的葛藤をもたらします。ソーシャルディスタンスのユニークな表現は、少しでも楽しめるようにすることでその葛藤を低減させようという意図だと思いますし、それなりに狙った効果は見込めると思います」

複合的対策の1つとして

ただ公衆衛生の専門家は、感染防止に向けてはソーシャルディスタンスだけに頼るのではなく、複合的な対策が欠かせないと指摘します。聖路加国際大学大学院の大西一成准教授です。
「人と距離をとることは、接触感染のリスクを減らすことができるという点で大切です。ただ、感染防止策としてはマスクを正しく着用することも大事です。これを前提にして、ソーシャルディスタンシングだけではなく、手洗いなども含めた複合的な対策が必要です」
外出の際にソーシャルディスタンスのユニークな表現を見かけるかもしれません。そんなとき、心理的葛藤をやわらげようという心遣いを感じながら、マスクの着用なども含めて自分自身の対策を改めて確認してみてはいかがでしょうか。