収入激減の観光業 “近場”と“オンライン”で苦境を乗り切れ

収入激減の観光業 “近場”と“オンライン”で苦境を乗り切れ
「長く続いた自粛生活、とにかくこの夏は、ここではないどこかへ行きたい!」

そう思っているのは私だけでしょうか。

夏休みが近づくと、毎年、旅行を計画する人も多いと思いますが、ことしは例年通りとは行きません。新型コロナウイルスの影響で、旅行に出かける人が減り、収入が激減している観光業。夏の旅行シーズンを前に、なんとかビジネスを軌道に乗せたいと、コロナ時代の観光の在り方を模索しています。

キーワードは“近場”と“オンライン”。
この難しい局面をどんなアイデアで乗り切ろうとしているのでしょうか。(国際部記者 山田奈々 田村銀河)

観光業に大打撃

「99.9%の減少」

これは、今年4月と5月に、日本を訪れた外国人旅行者の数を、去年の同じ時期と比較した数字です。4月はわずか2900人、5月はさらに減って、1700人にとどまりました。

1964年の東京オリンピックから始まった日本政府観光局の統計は、2度目の夏のオリンピックが開かれる予定だったことし、くしくも過去最少を記録することになったのです。

国連世界観光機関の予測では、ことし海外旅行に行く人は去年に比べて最大80%減少。去年1年間だけで3000万人以上の外国人観光客に支えられてきた日本の観光業界も大きなダメージは避けられません。

地元の魅力を再発見!

「海外に行けないとはいっても、国内で遠出するのもまだ不安」

そんな旅行者の声に応えるように、いま国内の観光地がこぞって力を入れているのが、”近場旅行”です。”県内”や”市内”からの宿泊者に限ってホテル代を割り引く取り組みを、多くの自治体が始めています。
このうち、星がきれいに見える「星空の村」として観光PRに力を入れている長野県阿智村は、県内在住の人を対象に、6月1日から観光名所の昼神温泉など、村の宿泊施設で使える、大人1人1泊当たり5000円分のクーポン券を発行。
受付開始直後から予約が殺到し、すぐに3000人余りの申し込みがあったということです。
阿智村観光局 白澤裕次社長
「これまでは首都圏からの観光客に支えられてきましたが、この取り組みを通じて県民にも昼神温泉をもっと知ってもらうチャンスだと思っている」
こうした地元客を誘致する動きは全国の観光地でも相次いでいて、専門家からは「万が一集団感染などがあった場合にも県内の観光客に限定していれば、感染者の追跡もしやすいのでは」と評価する声も。

まだまだ遠出がしづらい、ことしの夏休み。“近場旅行”の需要はさらに高まりそうです。

オンラインなら遠くでもへっちゃら

それでもやっぱり、海外旅行に行きたいと思っている人をターゲットにしたのが、インターネットを活用した「オンラインツアー」です。

大手旅行会社の「エイチ・アイ・エス」は、本当に行った気分になれると、オンラインツアーの魅力をアピールしています。インターネット会議システムでつないだ現地のガイドが、さまざまな観光地の魅力を案内するこのツアー。
私(山田)も、ペルーの世界遺産、マチュピチュのツアーに参加しました。
この日のお客さんは200人余り。ツアーでは、現地を知り尽くしたガイドが、流ちょうな日本語でマチュピチュの歴史や見どころを説明してくれました。

最後には、参加した人たちからチャットを使って寄せられた質問にガイドが回答。
「遺跡を一望できる山に登るには人数制限がありますか?」「マチュピチュにはトイレはないって本当?」など、さまざまな質問が出されていました。

オンラインでも有料にできる?

このオンラインツアー、大型連休から1か月ほどは無料で実施していました。「旅行に行きたい」という気持ちを高めてもらい、実際に海外に行けるようになった際の予約につなげようというねらいがあったため、すぐに収益につながらなくても意義があると考えていたんです。

しかし、海外への渡航制限が長引き、オンラインツアーを実施する期間が長くなれば長くなるほど継続は困難になります。

無料開催では、ツアーガイドの収入につながらないうえ、会社の利益もゼロのまま。持続可能なビジネスとして成立させることができるかどうかが、継続の決め手になっていきました。
そこで会社では、6月以降、有料のツアーも多数、企画。

この会社のホームページから好きなツアーを選び、クレジットカードで決済する仕組みです。

10ドル程度、日本円で1000円余りのお手ごろ価格のツアーから、中には150ドル、およそ1万6000円と高額なツアーまでさまざまな種類が用意されました。たとえば、高額な150ドルのツアーは5回シリーズのツアーになっています。

ニューヨーク在住の舞台俳優から発声やダンスなどのレッスンをオンラインで受け、自分だけのミュージックビデオを作ることが可能です。

また、サーカスとして知られるシルク・ド・ソレイユの出演者によるトークショーのチケットには、今後、実際にアメリカへのツアーを申し込んだ際の舞台のチケットが割引になるクーポンを付けるなど工夫を凝らしました。

旅行のサブスクいくらが妥当?

ビジネスとして展開するにあたって、最大の課題は、オンラインツアーをいくらで実施するのが妥当なのか、その価格設定でした。

中でも特に難しかったのが、毎月一定の金額を支払うことで好きなオンラインツアーに参加し放題の「サブスクリプション」のサービスです。

動画配信サービスなどと異なり、旅行のコンテンツのサブスクは珍しく、目安となる相場がないためです。

会社では、6月上旬に、社内120人のスタッフを対象にアンケートを実施。「オンライン体験ツアーで30日間のサブスクリプション料金を設定した際に、いくらが販売イメージか?」尋ねました。

およそ半数から回答が寄せられ、その結果を元に社内で議論し、30日間で50ドルに決めました。現在はおよそ50件のツアーがあり、新しい企画ができ次第、順次、追加されていく仕組みです。

サービスの開始から10日ほどの時点で、オンラインツアーの売り上げの半分をサブスクが占めているということです。

ただ、価格は1度決めたらそれきりではなく、顧客の利用状況や購入傾向を見ながら、マーケティングを繰り返し価格の最適化を図っていくことにしています。
エイチ・アイ・エス サンパウロ支店 上村智子インバウンドマネージャー
「インターネットやSNSでさまざまな情報を容易に入手できる時代ですが、オンラインツアーのポイントはその情報を『誰がどうやって発信するか?』だと思います。現地から発信する情報の鮮度を保ち、実際に行ってからしか知りえないサブカルチャーを紹介して経験しに行きたくなる衝動を膨らませてもらうことで、現地に行きたい動機付けを与えることができればと考えています。経営的には厳しい状況ですが、今回のピンチをチャンスとしてとらえていくことが大切なので、旅行の再開に向けてしっかり準備していきたいです」

取材を終えて

「ピンチをチャンスに変える」という上村さんのことばは、観光業だけでなくコロナ時代を生きるすべての業種に当てはまることだと思いました。

コロナとともに生きなければならなくなった今でも「どこかへ行きたい」「何かを買いたい、食べたい、見たい」など、さまざまな需要は決して消えてなくなってはいません。

感染拡大を防止しながらという制約の中で、どうやってその需要に応えていくのか、アイデアと行動力で柔軟に対応できるかどうかが、ビジネスの明暗を分けるのだと感じます。

例年とはひと味違う、ことしの夏の観光、皆さんも“近場”と“オンライン”を選択肢に加えてはいかがでしょうか。
国際部記者
山田奈々

平成21年入局
長崎局、千葉局、経済部を経て
現在、国際部でアメリカ、ヨーロッパを担当
国際部記者
田村銀河

平成25年入局
津放送局、千葉放送局を経て
現在、国際部でヨーロッパ、アフリカを担当