焼香はドライブスルーで 新型コロナで変わる葬式

焼香はドライブスルーで 新型コロナで変わる葬式
「新型コロナがなければお葬式に参列していたのに…」。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、大切な人との最後のお別れに行くべきか、感染のリスクを考えて判断に迷った方も少なくないと思います。こうした中で広がったのが“ドライブスルー焼香”や“オンライン葬儀”といった新たな取り組み。感染症対策として始まった新たな葬式の形ですが、少子高齢化や人口減少が急速に進む地方では、体が不自由な人や地元を離れた若者が容易に“参列”できる手段としても注目され始めています。
(青森放送局むつ支局記者 佐野裕美江)

焼香は車の中から

ドライブスルーと言えば郊外にあるファストフード店が定番でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、さまざまな場所で導入が広がりました。青森市の葬儀会社では、感染を心配する参列者のために4月から「ドライブスルー焼香」をスタート。葬儀場の入り口に車をつけ、窓をあけてそのまま降りずに焼香ができます。
模擬体験をさせてもらったところ、故人との別れを惜しむ十分な時間があるとは言い難い様子でしたが、“接触”は指がお香に触れる程度と最小限におさえられ、これなら感染の心配もあまりないと感じました。

オンラインでお別れ

この会社では葬式の様子を動画投稿サイト「YouTube」で中継する取り組みも始めています。4月上旬に新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言が出されてからこれまでに4件の利用があり、喪主が埼玉県からオンラインで参列したこともあったそうです。
利用者の1人に話を聞かせてもらいました。青森市に住む高橋篤志さん(61)は、5月下旬に執り行われた母親の葬式でこのサービスを利用しました。感染のリスクを考慮して参列を見送った千葉県に住む娘家族に見てもらうためです。会場の一角にはカメラや専用の機器が設置され、その様子がリアルタイムで配信されました。
高橋さん
「本当は娘も泣くほど来たかったと思います。母親は孫たちのことが大好きだったので、新型コロナウイルスの感染が拡大する時期でもこういう形でもお葬式ができたことをきっと天国で喜んでくれていると思います。親孝行ができた気がします」
後日、高橋さんの娘さんにオンライン葬儀を利用した感想を尋ねたところ「このような状況でなければ私も青森に行って参列していたはずでした。祖母が亡くなったときは母からの電話で知ったためあまり実感がありませんでしたが、画面越しに祖母の遺影を見た時は、本当に亡くなったんだなと実感しました」と話していました。

“選ばれる”葬儀を目指して

新型コロナウイルスの感染が徐々に拡大していくにつれ、葬式の参列者の数は全国的に著しく落ち込みました。参列者が減って葬式が小規模になると、供える花が減ったり会食が少なくなったりして葬儀会社の売り上げが減少し、経営への影響は避けられません。この会社では現在、追加の料金をとらずに「ドライブスルー焼香」や「オンライン葬儀」のサービスを提供していますが、こうして参列方法の選択肢を新たに増やしていくことで、より選ばれる葬式を目指していきたいとしています。
船橋社長
「時代とともに葬式は変わっていくものだと思います。そういった意味で、このオンライン葬儀は主流になってくる」

従来サービス 改めて注目も

従来からのサービスが改めて注目されたケースもあります。本州最北端の下北半島、青森県むつ市にある葬儀会社では、香典返しに添える礼状にちょっとした工夫をこらしています。
一見、ふつうの礼状に見えますが、中を見ると故人の生前の人柄やエピソードなどが事細かく記されています。10年前から行っているサービスだということですが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い葬式への参加を見合わせる人が増えるなか問い合わせが急増し、申し込み件数が去年のおよそ3倍のペースで推移しているといいます。「葬儀に参列できなかった人にもしっかりと故人を偲(しの)んでもらいたい」と考える人が増えたからだそうです。
さらに、この葬儀会社が3月から始めたのがこちら。
礼状に記載されたQRコードを読み取ると、メッセージ動画が再生されます。この動画、メールやSNSでも共有することができます。
高屋社長
「いままでの形にしばられないやり方も受け止めてもらえる環境になってきている。大切な人を亡くした気持ちに折りあいをつけられるよう、少しでも寄り添っていきたい」

変わる葬式

新型コロナウイルスをきっかけに注目された葬式の新たなサービス。業界関係者は今後、人口減少や少子高齢化が進む地方で大きな広がりを見せていくのではないかと見ています。足腰が弱り、葬儀場に足を運べないお年寄り。県外で就職し、急な訃報に応じられずに参加を断念する若者。はたまた、冬、大雪を懸念して参加を見送る人たち…。これまで参列したくてもできなかった人にその機会を与えることができるからです。

「ウィズコロナ」「アフターコロナ」などということばとともに新しい生活様式が模索される中、古くからの慣例や慣習が覆され、新たな葬式の形が受け入れられようとしている現状が広がりつつあることを、ここ青森で目の当たりにしました。
青森放送局 むつ支局記者
佐野 裕美江
平成28年入局
本州最北端の支局で下北半島の1次産業や中小企業を取材